「・・・・・・ふぅ(疲」
如何しても深夜まで書類作りに溜息が漏れるのは否めない。 相方に助けを求めれば
いいのだが、今回ばっかりは自分のせいでないとはいえ疚しい処があるので・・・
「・・・ふぅ。 ・・・寝るか」
溜息連発に今日は限界と、アレスは片付けもソコソコに服を脱ぎ灯りを消して寝床に
そしてそのまま深い眠りに・・・・・・
・・・シクシク・・・
・・・・・・
・・・シクシクシクシク・・・
・・・・・・
夢現に聞こえるのは、若い娘の啜り泣声。
・・・昔の業が今更。 それで償いが出来るなら幾らでもするがいい。
そう思いアレスが身動き出来ずにいると
ずしっ
身体に圧し掛かる圧迫感。重さ的に声相応の体重と判断していると
「・・・・・・うぐっ」
首に掛かる細指の感触にグイグイと絞められ、正体を見極めようと目を開け見たところで
闇に寝惚け眼ではそれは幽霊としか思えず、意識は混濁に闇の中に・・・
「っ!!? 夢・・・か」
跳ね起きれば空は白み始め、明らかに起きるには早すぎる。
しかし、寝ようにも一度しっかり目が覚めたものは起きれず
仕方無しに、時間まで居間で寛ごうと顔を洗いに洗面所へ。 そこで鏡を見
!!?
顔中キスマーク塗れに、首には絞跡・・・こ、これは憑り殺されそうになったって事か?
思い当たる節があるだけに立ち尽くすのみのアレス。現、極星騎士。そして昔・・・
早く起きすぎ皆が起きるまで待っていたアレスに続いて起きて来たのは主たる
「おう、早いな。 徹夜か?」
「いえ。 ・・・おはようございます」
「・・・あまり無理するなよ。」
「この程度で倒れるような柔な鍛えられ方はしていません。
・・・自分の事なんですが少しきいてもらいませんか」
「・・・ふむ」
横で椅子背を前に陣取ったライに茶を出し、アレスは話し始め。
「団長、自分の事は何処まで御存知ですか?」
「まぁ、孤児なのに最優秀で騎士学校に入った程度には」
「・・・自分、その前はギャングの長の真似事をしていました。物心ついた頃から
ゴミの中で、自分と同じ境遇の子供達を集めて・・・引手繰り,強盗・・・殺人以外の
大抵の悪事には手を染めたものです。 生きるためとはいえ・・・貴族の子女をさらい
犯し女郎屋に売る真似事も一度や二度ではなく」
「ふぅん。 随分とマセたガキだったんだな」
「ええ、自分の不幸を世に恨み他者を貪るようなガキでした。そんな時に
貴族の浮浪児狩りで自分だけが生き残ってしまって・・・搾取される側から
搾取する側になってやろうと騎士に・・・それが今では、本当に一端の騎士に(苦笑」
「懺悔、気は済んだか?」
「はい。呪われようと俺は全てを背負って生きていきますよ・・・」
「んで、何でまたそんな話を?」
「・・・如何やら昔泣かせた女の霊が出たみたいで、金縛りに起きたら首に絞跡まで」
「・・・・・・(汗」
それは違う。幽霊がいるならばアレスはとうに呪われている。寧ろそれは今生きている
「あ、アレス、それは」
キラリーン
居間の扉、少し開いている隙間から若い娘が覗き碧眼が輝いていた。
「何ですか?」
「あっ、いっ、あ・・・ほ、他に懺悔することは?」
「いえ、別に?」
気分スッキリいたって平然なアレスに、若い娘はチッと舌打っぽく察知される前に遁走。
だから、アレスが廊下に出た時にはその姿は当然あるはずもなく・・・
・・・・・・
それに気付いたのは軍顧問を終え、院に行くリオと分かれて街に来てから。
・・・付けられている。
立場上そういうことには気をつけているのだが、気付かせないとは・・・
ともあれ今関っている娘の所へ行くにしても屋敷に帰るにしても、まかなければ。
瞬間、アレスは疾駆に人ゴミの間をすり抜け裏街を通り袋小路へ。
其処で隠れ、待つ。 尾行者に奇襲をかけ捕まえるため。 しかし
「・・・・・・?」
いつまで経っても来ない。行動を見透かされている。 ならば何故、次の行動に出ない。
ずっと待つわけにも行かず、アレスは危険な建物の隙間を抜けて廻り表通りに
すると
「・・・ちっ」
尾行者の気配、再現。力量的にはアレスに匹敵するか?
それだけの者が都市の敷地内に立ち入れば其れなりの情報が伝わるはずなのに。
用心の為、全ての予定を取り消しにアレスは森を回って帰ることにした・・・
帰還早々、執務室に飛び込んできたアレスは血相を変え
「団長、何者かが自分をつけています」
「って事は御客が来てるわけか?」
「・・・・・・」
マジなライにアレスはただ頷くのみ。言い訳はしない。己の非,未熟はさっさと認め
次の手をうたねば皆の命に関ってくるのだ。
頷き黙って退室直後に気配を消したレイハに続き、ライとアレスも武装して各個
屋敷敷地周辺を巡回。
戦闘服,籠手に破壊大剣を携え気配を消し周囲を探りながら歩いているが
そういった気配は感じられず・・・否、不審な気配を発見。急行に駆付け
「其処のお前っ!!!」
「きゃっ!!?」
「えっ・・・リオ?」
「如何したの、アレス君?」
「あっ・・・いや、不審な者 気配を感じなかったか?」
「え? 別に・・・」
居るわけがない。さっきのさっきまでアレスを付回していたのは目の前にいる
この娘なのだから。 だから、いぶかしみながら周囲を見回し背を向けた途端に
その碧眼がキラリーンと輝き・・・・・・・・・・・・
その日の夕食を作ったのはリオは主に、シチュー,サラダに主菜が並び・・・
「おう、今日は豪勢だな」
「そ・・・そうですね(汗」
何故かアレスの前のメニューだけソレとは明らかに違う。
「アレス君には力付けてもわらなくっちゃ。だ・か・ら」
「別に皆と一緒でも・・・ありがたく、いただかせていただきます」
乙女の顔はにこやかな笑みなのに、目が笑っていない。
それは犯罪者を尋問する審問官の如く・・・気のせいかもしれないが。
それでもリオの心(?)が篭った料理をいただき・・・威圧感で直ぐ胸イッパイ。
「・・・食欲が無いなら俺が」
サクッ
見かね出したライの手に投擲されたフォークが刺さる。
「ダメですよ、ダ〜ンチョ」
リオのその笑み笑っているのに笑ってない。言うなら
何サラしとるんじゃボォケァがぁっ!! 要らん事するとツブすぞ?
「・・・・・・はい。」
結局、アレスは一人残っても全てを平らげるまで席をはなれず・・・(合唱。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜中は娘の亡霊に魘され、昼間は存在せぬ尾行者に追い回され・・・
ライの元へ報告に来たアレスはゲッソリ窶れ、本当に憑リ付かれているかのよう。
「・・・団長、やはり自分はダメに成ってきているんでしょうか?」
「それは・・・気にするな。 次の休みはゆっくり」
「いえ、いよいよ大積めなので、休みはその後に・・・」
「・・・大変だな、お前も」
「勤め、ですから」
「んで、その件はリオに言っていないのか?」
「それは・・・何というんですか(笑。 個人的な依頼の上に・・・言えませんよ」
「そうだよなぁ〜〜(苦笑」
個人の思惑など関係なく時間は流れる。そしていよいよ・・・
幾ら王が宗教嫌いとはいえ各個人の意志を尊重する以上希望都市にも教会はある。
行われていることはいたって普通に教会それであり、そして冠婚葬祭も勿論。
そして今日はメデたき日。 客は少ないながらも幸せそうな新婦が入場に
新郎が待つ祭壇の前へ。
新郎は、研ぎ澄まされながらも鞘に収められた剣を思わせるキリッとした青年。
そう、言わずもかなアレスである。
因みに新婦はリオ・・・では無く、かつてリオが買い物帰りに見た娘。
新婦は静々と前に進み神父の前、新郎の隣へ。
「新婦、汝は・・・(中略)・・・することを誓いますか?」
「・・・はい。」
新婦のしっかりした返事に神父は頷き、次は新郎に
「新郎、汝は・・・(中略)・・・することを誓いますか?」
「・・・は」
バンッ その結婚式、ちょーっとまったぁっ!!!
厳かな静寂を打ち破り、扉を蹴破り飛び込んできた女騎士に一同驚愕。
何より、最も驚いたのは新郎であるアレス。 目が点に口がアグアグと塞がらない。
瞬間、一瞬で講堂を駆け抜け新郎のアレスに切迫した女騎士は抵抗させる間もなく
ドスッ
「っ!!? ・・・・・・(気絶」
最速を上回る素早さでもって鳩尾に拳一発で伸し、グッタリとしたその身体を抱擁。
「ふふふ、アレス君は・・・誰にも渡さないっ!!!」
「おお・・・神よ」
元々麗しい長い金髪と愛らしい碧眼は、今は病んだ様に乱れギラギラと凶光を放ち
彼等は教会という仮にも聖なる場所で魔女・・・悪魔を見た。
悪夢な光景に人々は怯え泣き、逃げ惑い、卒倒し・・・
教会に取り残されたのは、狂ったリオと気絶したままのアレス。
そして新婦と満足に身動き出来ないその祖母。
「あ、あの・・・」
「こないでぇっ!!! 誰にも・・・渡さないんだから・・・」
事態に硬直しつつもある程度事情を察した新婦は説明しようとリオに近づくが
純白の花嫁姿に圧され、リオは駄々っ子か獲物を確保した獣の如く戦技そっちのけに
長剣を出鱈目にブンブン振り回して危ない事この上ない。
表も通報されたか自警団で騒がしく・・・それで迂闊に突入しないのは流石。
教会の結婚式に悪魔降臨で新郎を連れ去ろうとしてる感からして、騎士団出動は決定。
混乱の様相(殆どリオのみ)に収集はつきそうになく。
その時、口を開いたのは最も意外な人物。
「・・・もう、ええじゃろぅ?」
新婦,リオ共に一瞬呆然。
「お、御祖母ちゃん?」
「店が忙しいお前に恋人なんぞ作る暇なんぞなかろう? 幾ら私を喜ばせる為
とはいえ・・・。 ほれ、ママゴトは終いにその青年を返してやりなされ」
「・・・・・・(唖然」
「と言うわけなんです。 だから私とこの人は本当に
結婚するわけじゃなく、フリだけで・・・あの、聞いてられます?」
リオ、状況を理解できずにマヌケ面で何を見ているのやら。
と、不意に揺らいだ空間から現れたのはルーとライ。
「何やっているんダ?」
「はぁ、最悪の事態の一歩手前・・・」
通報に慌て跳んできてみれば・・・身内が関った身内の仕出かした事とは
今度は新婦(仮)とその祖母が遅れ突然現れた二人に呆然。
「・・・取り合えず、コレは回収するんで続きをどうぞ。 アレス、起きろ(ガスッ」
ライがアレスを蹴飛ばし起こす向うでは、ルーがリオの顔の前に手をかざし
「ホレ、眠れ・・・」
クテェと倒れたリオの肢体をライは抱え持ち、起きて混乱のアレスに一言。
「まぁ何であれ、最後まで責任もってケリ着けとけ」
直後、ルーの姿隠しの魔法にリオを抱え持ったライの姿は掻き消え
「さて、私ぁ外の連中に誤魔化してくるかナ」
ルーは悠々と歩き去っていった・・・そして、偽りの結婚式は無事再開に幕を閉じ・・・
アレス、屋敷帰還早々に
「リオはっ!!?」
「・・・・・・」
無言のままライが差した先はリオの自室の方向。
とんでいったアレスに、ライも一応着いていく。
リオの自室ベットの上では当のリオが悩みごと等一切無いかのようにスヤスヤと
「精神が破綻しつつあったから、ここ最近の記憶は封印したそうだ。
この程度で取り乱すとは全く厄介な姫さまだな。うかうか浮気もできないぞ(笑」
「・・・ふっ。 しませんよ、そんな事・・・絶対」
「おうおう、言ってくれるぜ」
二人が賑やかにする為、リオは身じろきに目を覚まし
「・・・アレスくん?」
「ああ、ココにいる」
「・・・私、如何したの?」
「なんてことは無い。 ・・・倒れただけだ。疲れで」
邪魔しちゃ悪いと、ライは二人に気取られる事なく部屋から抜出していった。
片翼の鳥はツガイでなければ大空を翔ることは出来ない。 二人もまた・・・