邪神退治から三日後、村はそれなりに平穏を取り戻した。
多少村の民家に戦闘の被害はあったものの、犠牲者は少ない。
本当、邪神が復活したのか解らないくらいに。
実際、信じない者、否、信じたくない者もいる。例えば、リオの父親。
彼は、領主からリオとの婚約の再約を頼まれ、リオを呼び戻した。
その領主はよりによって邪神となり、さらに自分の娘とそれが連れて来た男に殺された事は
彼のアイデンティティの許す事ではない。
だから、彼のする事はただ一つ。英雄であるアレスに全てを押し付けこの村から消す事。
村人の人望が、一帯の権力が、アレスに集まる前に。
かといって、彼に自分より強い者,アレスを殺す勇気はない。
屋敷の書斎、アレスはリオの父親に呼び出されていた。
「・・・・・・君は、・・・何時までこの村に滞在するつもりかね?
むぅ、・・・我が家には・・・嫁入り前の娘がいる・・・・・・。」
歯にモノが詰った言い方でアレスの反応を見ながら次言う事を考えつつ話す父親。
しかし、アレスのその表情からは一切考えが読み取れない。
当然、アレスには父親が言いたいことはよく分っていた。
つまり、何処の馬の骨とも分らない男が娘の近くにいるのは困る。さっさとこの村から出て行け。
「・・・御心配なく。荷造りはもう既に済んでいるので、明日の早朝出発するつもりです。」
伝える事は言ったので後はもう無視して出て行く。
あんなのがリオとディの父親だなんて、情けないやら,悔しいやらで一切音が聞こえない。
本来なら腹に穴が開いていたので旅行など出来るはずがない。
しかし、完全融合のお陰か、あの後包帯を取ってみると傷は綺麗サッパリ痕無く完治していた。
一応様子を見る為滞在していただけ。本当なら 荷造りが終った直後出発してもよかった。
リオにその事を告げずに。
結果的に自分とリオは生残ったとは言え、自分は邪神の狙い通りに動いた伏しがある。
そんな自分がリオの側にいてイイはずがない。いられない。
それに、リオの父親が領主の資格があるリオを手放すはずが無い。
きっと、リオはあらゆるモノを譲渡され、ココから離れられなくなる。
その方がリオのため。自分はただ立ち去るのみ。
翌日、リオとディに別れも告げず、荷物とメイドから貰った弁当だけを旅の供に
大型乗り合い馬車に乗っていた。 屋根上の荷台を一人占領し、まるで魂の抜け殻のように座る。
悲しすぎて涙も出ず、何もする気が起こらない。
多分このまま戻れば次戦闘があった時自分は確実に死んでしまうだろう。
死んでしまってもよかった。リオが側にいない人生に何の値打も無い。
気づけば、乗り合い馬車は出発していた。
・・・誰かが、馬車後部扉から出て来て上がってくる。 いつかと同じ状況。しかし気配は二つ。
上がってきたのは仲の良さそうな姉弟。
アレスを見て二人は喜び、姉の方が何かを話しかけてきた。
しかし、アレスは反応しない。まるで魂をリオの所に置き忘れたかのように。
無視し続けるため、ついに姉の方は激怒し、自分の頭を思いっきり振り上げアレスの額へ
ゴチンっ!!!!!!! プスプスプスプス・・・
「ぐをっ・・・・・・い、行き成り、何を、する。」
アレス悶絶。衝撃に目がチカチカして見えている物が認識できない。喋れない。
「苦うううううぅぅぅぅ、や、やっぱり、これ、効果覿面だね。 でも痛いよぉぉぉぉ(泣)」
「だから、コレ(聖霊の刃)で思いっきりぶん殴ってやればよかったんです。」
「そんな事したらアレス君死んじゃうじゃない。 だめよ、ディ。」
「僕はいっそうの事、姉様にコレ(聖霊の刃)でアレスさんを突き刺させてやりたかった。
これだけで済ましている事を誉めて欲しいくらいですよ?」
ゴンッゴンッゴンッゴンッゴンッゴンッゴンッゴンッゴンッゴンッゴンッゴンッゴンッ
今度はヘッドロックで逃げられない様に固定してから中指立拳で殴ってくる。
「もういい。分った。分ったって。 二度もリオに刺されたくないし、これも御免だ。」
そしてアレスは解放された。でもさっきの暴行で頭が痛くて目が見えてない。
「こんな寒いところにいたら風邪引くぞ? 風邪引く前に中へ入ってろ(笑)」
「私、アレス君に命令される筋合いないもん(笑)」
「アレスさんにそんな事をいえるだけの資格があるのですか?」
視力は回復したが今度は涙が止まらなくてまともに見えない。
「アレス君、何処か痛いところあるの?」
「いや・・・人は嬉しくても涙がでるんだな。 リオ、抱締めさせてくれ。」
広げた腕の中に人影が飛込んで来た。しかし
「・・・いや、ディじゃなくてリオ。 ヲゴッ!!?・・・ウググググ・・・」
ディはアレスの鳩尾に強烈な止めの一発を撃込んでから人影を押し付け
「では、二人でごユックリ。 僕は下で待っていますから。」
下へ降りて行ってしまった。
「・・・・・・アレス君、苦しい(照)」
「ごめん、でももう少しだけ。 ・・・あぁ、リオの感触・・・リオの匂い。」
愛しい人が側に居る幸せを実感してアレスはまた涙が止まらなくなった。