アレスがディの隠れ処を出てどれくらい経ったか、
突然起こった爆発音にディは外へ飛び出した。しかし、ディの居る所からは森に阻まれよく見えない。
そのうち、光る鳥みたいなものが飛び、それを狙うかのように竜みたいなものが飛回るのが見えた。
ディは力無き観客でしかなく、見届ける事しか出来ない。
何度も衝撃音が響き渡り、光る鳥が撃墜され、竜が空中に停止。
そして、竜が地に向けて咆哮し、
口から赤い破壊光が伸びるのと同時に対抗する様に地上から伸びる青白い優光。
それが空中で激突。やや赤い破壊光が優勢で更に太くなろうとする。
しかし、竜を地からの閃光が貫き、咆哮が途切れた瞬間
『俺達は負けない!絶対生きて帰るんだぁ!!』
アレスの声が聞こえたかのような気がした後、青白い優光は倍の太さになる。
『私達がみんなを護るっ!もう誰も死なせないぃ!!』
リオの声が聞こえたかのような気がした後、青白い優光はさらに太くなる。
ディも祈る。
『姉様,アレスさん、勝って帰って来て下さい。』
祈りが届いたかのように青白い優光はさらに太くなり、青白い優光の柱が夜空を貫き・・・静寂が訪れた。
ディにはもう決着が着いたことしか分からない。ただ、夜空を仰ぐのみ。
不意に、青白い優光の柱の立ったところから光る鳥が飛び立つのが見えた。
それがディの方に向ってきても茫然とするだけ。四翼の天使だと分かっても思考は止まったまま。
そして、その天使の顔を確認した時、ディは腰を抜かした。
金髪碧眼で大人の女性的な容姿をしているとはいえ、その天使がリオでもアレスでも取れたから。
当然、思い浮かぶ一つの考え。
「・・・ああ、姉様もアレスさんも死んでしまわれて・・・最後のお別れを言いに来られたんですね。」
違います。 歩いて移動するのが面倒臭かったからコノ状態で飛んで来ただけです。
翼でその身を隠し、消えた時、セラフは元の完全装備のリオとアレスに戻っていた。
「姉様が・・・アレスさんが・・・」
それでもディの目は虚ろで現実逃避したまま。
意外なところで同じ反応をする姉弟。
「・・・なあリオ、ディってやっぱりお前の弟だな。似たような事してる。」
「ディ、お姉ちゃんが分かる?アレス君が分かる?・・・え〜ん、ディが戻って来ないよう(泣)。」
「・・・これで、ディをコツいてもいいか?」
「えっ、だめだよ。それ、結構痛かったんだから。」
・・・結局それしか手段はなく、同じパターンでアレスにコツかれディはこちらに帰ってきましたとさ。
満月に照らされた屋敷への道をアレス,リオ,ディがじゃれながら仲良く歩く。
それを遥か遠く、小城のバルコニーから見ているモノが居た。
「アレス,リオ、セメテ貴様達ダケデモ殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、・・・・」
胸から上、頭と片腕だけが残った邪神だった。
直撃の瞬間、その力のほとんどを素体に戻し、邪神は逃げようとしたが逃げ切れず
瀕死ぎりぎり今の姿となってココまで弾き飛ばされた。
それでも、ここから二人を邪光弾で狙い撃ち殺す事ぐらいは容易に出来る。
呪詛を吐きながらその手に邪光が集まっていく。 しかし
「ちょっと待てやオッサン。往生際が悪いぜっ!!」
ガスッ
首下を後ろから踏み付けられ、折角集まった邪光が霧散した。
踏み付けているのは狼龍。その後には玲葉も控えている。
「キ、貴様アアアァァァ、我ヲ神ト知ッテノ狼藉カアアァァ!! 天罰ヲ下スゾオオォォ!!」
グリグリグリグリグリグリグリグリグリ
「グギャアアアアアアアアアアァァァ」
「やってみろやエセ神。 それより、お前みたいな奴何て言うか知ってるか?
人の恋路を邪魔する奴ぁ、バカに踏まれて死んじまえってな。」
「言っていて、悲しくなりませんか?」
「かなりな〜〜〜〜。」
邪神が踏み躙られ悶絶している上で狼龍と玲葉のボケとツッコミ。
「マ、マサカ、アノ時、我ヲ邪魔シタノモ貴様カァッ!!? モウ少シデ我ノ勝利デ終ッタモノヲオオオォォ」
あの時、邪神を貫いた雷撃槍
「その通り。あのままだと引き分けに成って、この辺り一帯消し飛びそうだったんでな〜〜。
それより、ちょっと俺の戯言に付き合ってくれや。ホント、世の中捨てた物じゃないよな。
人の心には良心がしっかりとあるし、うちの子達はしっかり成長しいてお前さんを倒すし。
・・・さてと、冗談はこれくらいにして、正真正銘、本気でケリを着けますか」
ザクッ
「ギエエエエエエエエエェェェ・・・」
しかし、邪神は今まで自分の危機的状況にも関らず心の中では細く笑むんでいた。
片刃大剣が邪神を床に縫い止める。それと共に邪神の肉体の命は尽きようとしていた。だが
「・・・ナ、何ィッ、神体ガ抜ケテイカナイダト!!?」
神体。これが、神が神足る所以。生き物で言えば魂に当るが、神は肉体が死ぬとこれが抜け
別の肉体に宿るなりして復活する。
これを消滅出来るのは、神と呼ばれるモノ。
だから、この邪神は肉体が死ぬと同時に神体が封印へと戻されるが、また復活しようと目論んでいた。
「その通り、逃がさないぜ。・・・貴様は今ココで完全に消滅させる!!!」
邪神の神体をココに縫い止めているのは剣自身の力。
しかし、それを使うためにはそれに匹敵するだけの力が必要であり、
一介の人が如何こう出来るものではない。
狼龍の身体から神すら滅する光、否、神体すら喰う光が現れ、剣を伝い邪神を包み込んでいく。
「ナゼ、何故、ソレダケノ『力』ガアリナガラ 人デイラレル!!? 人デアリ続ケラレルウウウゥゥ!!?
アアアアアアアアアアァァァ・・・・・・・・・・・・」
「俺は端っから人だ。それ以上でもそれ以下にもなりたいとは思わない。
命はな、限りがあるから価値があるんだ。」
「・バ・・・カ・・・・・ナ・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
元 邪神は崩れ、床に剣を尽き付けたまま狼龍はピクリとも動かない。
「お疲れ様です。・・・お身体大丈夫ですか?」
さすがに心配になったか玲葉は声を懸けてみる。すると
「・・・極っつぅ不味ぅ。不味過ぎて、精神荒んでグレてまいそうだあああぁぁぁぁぁ(泣)」
邪神、不味かったらしい。 不味過ぎて精神荒んでグレてしまいそうらしい。
グレてもらってもチットも困らない。精々、自棄酒して変酔いして、彼の周りの女の子四人に襲いかかる程度。
それは、その女の子四人にとって寧ろ喜ばしい事であり、後で後悔し傷つくのは彼自身。
所詮、彼はその程度の男。
「はいはい、さっさと帰りましょう(呆)」
ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズル・・・・・・
ごねる狼龍を玲葉はその襟首を掴んで引き摺り帰路に着く。宥める時間すら勿体無いので。