「・・・ふぅ、参ったな。 ココはどこだ?」
決闘の後、アレスは城内を歩き始めた までは良かったが迷ってしまった。
迷うほど広い城ではないはずなのに、何処をどう行ってもこのバルコニーに戻ってきてしまう。
そして、妙な疲労感。
何かに気を吸い取られているような気がするし、ココ数日の疲労が一気に出てきた気もする。
不意に
「お兄さん、どうかしたんですか?」
振り返り、声を掛けてきたのは留守番をしているはずのディ。
「ああ、迷子になってしまった(照)。 ・・・ディ、身体の調子はもういいのか?」
「ええ、御陰様で元気になったので、急いで送ってもらったんです。」
元気になった? ディは元々元気で、ここに来ると気分が悪くなると言っていた。
「・・・・・・・・・貴様はディじゃない。何者だ?」
「・・・クックックッ、油断サセテ一気ニヤルツモリダッタガ、
見破ラレタ以上簡単ニ近ヅカセテハクレナイヨウダナ。」
ディまがいから発せられる禍禍しい気に、身体に嫌な悪寒が走る。
「妖魔か。 ・・・否、この地に封じられし邪神、使魔だな。」
「正解・・・・・・ダアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
パティー会場、リオは一人アレスを探していた。 しかし、見付らない。
クロードが屋敷に来た直後から、心が通じなくなった。だから姿を確認できないと凄く不安になる。
「・・・嫉妬してるの、アレス君。」
・・・違う。 婚約者がいたことで嫌われる事を恐れているのだ。
自分がアレスを信用していないから。アレスはそれでリオを嫌いになるほど心の狭い男ではないのに。
「・・・リオちゃん、お久しぶり。」
声を掛けたのはかつての親友、メイド姿のリリア。
「・・・キャーー。リリアちゃん、元気にしてた?」
「ええ。貴方が屋敷を飛び出した後、私あそこに居られなくなって色々たいへんだったけど、
ほら私、貴方そっくりだから。 ・・・今はこの城でお世話になっているわ。」
「あっ・・・・・・」
自惚れないで
「何を申し訳なさそうな顔をしているの? 今、私は御主人様に仕える事が出来て幸せよ。」
折角幸せになれたのに、貴方は私からその幸せを奪って行くのね。
「・・・あの、アレス君見なかった?」
「・・・アレス君?」
御主人様が言っていたアノ男?
「うん、黒っぽい礼服を着て大剣を持った騎士。 私の・・・・・・(ポッ)」
・・・・・・
「ねえ、一寸した悪戯をしてみない? 私と貴方の衣装を取り替えっこするの。」
衣装を交換したした後、二人は一緒にアレスを探し始めた。そして、そのバルコニーへ
辺り一帯には緊迫した空気が流れている。
「「どうかしたのアレス君?」」
「来るなリオッ・・・って、こんな時にややこしい事をするなっ!!」
リオ達の方に少し顔を向け、一瞬戸惑ったものの明らかにメイド服、本物のリオを叱りつける
親ですら分からなかった入れ替えを見抜き。
リオは身体をずらし、アレスが剣を向けている者を確認。 傷塗れで石畳に座り込み、怯えたディ。
「姉様、助けて・・・」
最近殺気立っていたが、まさかディを手にかけるほどトチ狂ってしまうとは。
「やめてっ、アレス君ッ!!」
リリアから剣を奪い、アレスの脇を抜けてディを背に庇いつつ剣を構える。
「くっ・・・・・・最悪だ。」
リオの後、ディもどきは邪笑を浮べ、ユックリと立ち上がり
「お兄さんが行き成り襲いかかって来て・・・みんなぶっ殺すって。」
刃物と化した腕をリオに向けて振り上げる。
「リオオオオオオオオオオオっ!!!」
グサッ、ドンっザシュ
跳びかかって来たアレスの脇腹に突出したリオの長剣の切っ先が吸い込まれ後まで突き抜け、
そのままリオを突き飛ばしたアレスはディもどきの攻撃を受けつつ一刀両断。
「・・・・・・くっ・・・・痛っ」
言いたい事が言葉にならない。大剣を支えに剣を抜こうとするが、傷からは血が流れ、力が入らない。
リオはディ(もどき)の死体とアレスを見比べつつ怒りに身を震わせる。
「・・・アレス君・・・一体何をしているのよぉ。」
アレスの顔に浮ぶ安堵と苦痛。
大剣を持ったまま後へふらつき、バルコニーの柵にぶつかったアレスはそのままバランスを崩して
闇の中へ墜落。下には流れの早い川が。
そして、やっとディ(もどき)の死体がズブズブと崩れ始める。
「!!? まさか、まさか・・・」
「そう、貴方は自分を見抜き、妖魔から護ってくれた恋人に手をかけた。
貴方自身が貴方の恋人を殺したの。」
無常に答えるのはドレス姿のリリア。その表情は勝利と哀れみ。
そして、どこから音も無く妖魔が現れ、リオに群がり始める。まさに悪夢の再現。
しかし、現実は誰も助けに来てくれない。 リオの勇者は自ら手にかけた。
その事実にリオの精神は耐えられなかった・・・・・・