ガチャ
「ねえ、実験台になってくれる方、決まったぁ?」
食堂にアルシアが来てしまった。
「うん? 今、ライが長考に入ったところだよ。」
「そう? じゃあ、私もここでユ〜〜ックリと待とうかしらぁ(邪笑)」
・・・・・・・・・・・
「・・・ヒック(泣)」
泣き始めたリオに、再びライを含めた全員の注意はリオへ。
「どうかしたのか、リオ?」
「ライだんちょー、これ、お母様からの手紙なんです。家を出てから・・・初めて・・・やっと
ぐす・・・お父様、もう怒ってないから偶には顔を見せに帰ってきなさいってぇぇぇぇ」
「・・・・・・へぇ、よかったじゃないか。・・・明日、明後日からじゃ無理だけど
・・・うん、そうだな、再来週辺りから1ヶ月間ぐらい休暇を出せるが、どうする?」
「へっ?・・・いいんですか? でも、私だけ・・・」
嬉し泣き涙目で全員を見回す。先ずはライ
「俺? 何と言うか、俺、傭兵なる以前の記憶ないからなぁ。
実家帰ろうにも帰れないし、そもそも俺に実家が在るもすら分かんね―――(爆笑)」
次にカイン
「僕は不肖の息子、愚息と言うやつだよ。今は故郷に錦を飾れるから帰っても良いんだけど・・・
親父殿 口うるさいし、母さん泣くから帰りたくないというのが本音かな。」
「カイン、手前、今すぐ永遠に暇やるから実家帰れ。」
寝惚け眼のルー、シエルの膝の上で
「私か? 私はずっと一人隠居生活していた処をライに引き摺り出されたようなものだ。
メボシイ物は全部こっちに持って来ておるし・・・今はここの方が快適だナ。」
シエル、尻尾の先でソファを叩きつつ
「・・・私の故郷はもうない。行く必要もない。ここが私の帰る場所だ(微笑)」
シエルは疾うの昔、傭兵になった直後に故郷だった場所へ行って一晩その廃墟で過し、決別している。
レイハは珍しく笑みを浮べつつ
「里では、私は死んだ事になっていますから・・・
私が帰ると、全てが無駄になってしまうので・・・・・・帰れません。」
里で死んだ事になっている忍びの者・・・これの意味する事は数多い。
アルシアも珍しく退き、冷や汗を流して
「わ、私はアンナ所に帰るなんて御免よ。お家騒動になんかに巻き込まれたくないもの。」
やはり良家出身だったらしい。しかも継承権上位者か。
そして、渋顔アレス
「俺は話したくないです。何ですかその手は・・・分かりましたよ、話せばいいんでしょっ、話せばっ!!!
俺は・・・貧民の出身です。 だから、もう仲間・・いや、家族も、帰る場所も・・・ない。」
数年前一時期、アホ貴族による貧民狩りが激しかった時がある。その時、弱い者は生残れなかった。
だから強くなろうと思った。 二度と仲間を失わないために。
それがいつのまにか強くなる事そのものが目的になってしまった。
「へえ、それじゃあ今はここがお前の家で俺達が家族だな。」
一部を除き、ミンナがミンナ帰える場所がなく、ココに新しい家族が 帰る場所がある。
そして、アレスもまた・・・
ここはそういう町、希望の名を冠する都市。 故郷無き者達が集い育んだ新たな故郷。
「そうですね。今まで当たり前過ぎて気付かなかった(笑)」
アレ以降何処にいても気を休められない日々を過ごしていたが、
ココに来てから心穏やかに過せるようになった事に。
しかし、
「ごめんなさい。私だけ、ごめんなさい(泣)」
ひたすら泣いて謝り続けるリオ。 自分が古傷を暴いてしまったと思ったらしい。
「何を謝っているんだ。皆、自分の過去にはケジメ着けたし、今更話した程度で傷付きゃしないよ。
この面子の中で堂々故郷に帰れるのはリオだけなんだから精々、明一杯楽しんで来い。」
「は、はい、有難う御座いますライ団長、皆さん。 私、今から仕事してきます。」
皆がにこやかに見守る中、リオはアレスを連れて仕事をしに行ってしまった。
本日、仕事というほどのものもないのだけれども。
・・・・・・・・・・・
リオが完全に歩き去った途端、ライの微笑が真剣なものに変る。
「レイハ、今から直、出来るだけ速く、多く調べて欲しい事がある。」
「はい、何でしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・の事だ。どうも悪い予感がする。まあ、無駄な努力になればいいんだけどな。」
「た、確かにそれは無駄な努力になった方がいいですね。 では、早速・・・」
「おう、頼むよ。俺は・・・俺は・・・これからアルシアの実験台だぁ(泣)。」
アルシアから実験の実況を詳細に聞いているので、実験の具合はよく知っている。
例えば、全く痛くない注射を限りなく痛く恐ろしく感じさせたりとか、
一度、完全生9割9分殺しまでして全快させたりとか、
死ねずに悶絶するだけの毒を飲ませてゆっくりと解毒したりとか。
プロ拷問師完敗、聞くだけで真っ青の内容を。
「く、狂わないようにがんばってください(苦笑)」
「うふふふふふ、じゃあ行きましょうねぇ(嬉)」
「・・・・やっぱり、嫌ああああああああああぁぁぁっ(激怯)」
ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズル・・・・・・
アルシアに襟首を掴まれ引き摺られて行くライを拝んで見送りながらレイハは思ってしまった
この人はこうしていつも生死の境をさ迷っているからバカみたいに逞しいのではないのか と。