「御主達、喧嘩したのか?」
おやつの時、居間で開口一番ルーの口から飛出した一言。御前達とはライとレイハ
「んや、なんで?」
「折角仲良く慣れたのにまた冷たくなってナ。・・・ライ、御主また風邪引け」
「絶対やだ」
来た当時も距離があったが時が経つに連れそれは埋まり、ライの風邪を切欠に
一気に縮まった。・・・はずなのだが、風邪が治ると同時に
今度レイハは皆を避けている。その心の内を悟られないため。
「大人気無いゾ。皆の親睦のためだ。何なら死んでも構わん」
「・・・んなもののために殺すなよ」
必要以外ずっと執務室に篭ったままのレイハに聞かせてやりたい遣り取りである。
「・・・まあ時期が来たら全て話してやるから」
「ん〜〜仕方が無いナ」
ルーがそれだけで納得しているのは意外に全て承知で
ライが良いように何とかすると期待しているからなのだろうか。
数日後、その気配にレイハは身辺の整理を済ませて深夜単身で屋敷を抜け出した。
深夜、秘書風の娘が森を歩くという異様な光景。
そしてそれに着かず離れず付き纏う気配が幾つ。
屋敷に戦闘の気配が悟られぬほど十分な距離が稼げた所で、レイハはその歩みを止める。
それと共に黒装束の者 忍数人が音もなく距離を取ってレイハ独りを取り囲み
「私は里へ帰る事を拒否します」
「・・・ならば力ずくで連れ帰る。連れ帰り再教育を施すとしよう」
闇から現れ応じた別の黒装束の男に、レイハに走る恐怖。
「御舘様・・・わ、私は里には帰りませんっ!!」
レイハの恐怖への抵抗に御舘様と呼ばれる男は指を振り指示。
それに忍は鎖鎌を手にレイハの周囲を周り始め
不意にジャっという音と共に鎖が服の上から捕縛。
「・・・仮にも私は戦忍です。この程度で私を?」
対し、レイハはギリギリと鉄鎖で縛られながらも不敵な笑み。
今更物怖じはしない。戦い死んでしまうかもしれない覚悟は既にした。
更にギリギリと鉄鎖がレイハの服に肢体にへと食い込むが次の瞬間
「「「「「!!?」」」」」
鎖が揺るんで服のみがそこに残り、レイハの姿が消えた。
それに忍達も姿を消し、
キンッ、キンッカンッと剣戟のみが闇に響いた後
ドサドサドサと闇から落下、忍達が地に伏した。
そして闇から現れたのは
身体にピッタリとフィットした黒薄布の上にハイレグボンテージ状の黒革鎧姿の
女戦忍レイハ。
ばさっとポニテを振り、腰後に交互に差した短刀を抜き放ち御舘に対して構える。
「ふっ、未だ終わってはいないぞ」
「!!?」
その声と共に音もなく置き上がる忍達。確実に急所を斬った筈なのに。
「・・・やれ」
黒き疾風がレイハを取り巻き
「くっ、つっ、うっ、あうっ!!」
乱舞にレイハは柔肌を徐々に切裂かれ恰も踊り舞い、
殆ど黒革鎧のみになってやっと黒き疾風が止み、今度はレイハが地に伏した。
「・・・帰還する」
合図に忍一人が気を失ったレイハを担ぎ、歩き出すが
「一寸待て貴様等。ウチの秘書を何処へ連れ去るつもりだ。」
行く手を阻む ちょっと息が荒いフル装備のライに忍達の歩みが止まった。
「・・・レイハの望みだ。貴様の命は奪わずにおく。・・・失せろ」
「・・・俺はレイハがいないと困るんだ。 仕事が増えるからな。
だから返して貰う。」
「邪魔せずにいれば死なずに済んだものを」
言葉に忍一人が疾駆し、瞬間
ギンっ
と音と共に剣が撃合い、忍びが吹っ飛び地に墜落。
「こっちも伊達に返せとは言っていないんだよ」
「・・・良かろう。やれっ」
御舘と未だ気を失ったままのレイハを残して忍達が全て姿を消し
「ぐっ!!?」
瞬間、剣を盾に構えたライを黒き疾風が取り巻き・・・
「ん・・・ライ!!?」
意識を取り戻したレイハが見たものは剣を盾に耐え忍ぶライ。
その装備が刃を通さないとは言え、打撃は通過しダメージを与える。
それでなお耐えているのは流石歴戦の戦士というべきか。
「・・・下せんな。たかが女一人、何故そこまでこだわる」
「それがライという人・・・ライ、御願いします。帰ってください」
「起きたか、ぐっ!!? それでいいのかっ!! 本当にそれでいいのかっ!!!」
「良くは・・・ありません。 でも・・・」
「いたいなら、俺が力になるっ!! 選べ、レイハっ!!」
「・・・私は・・・ここにいたいっ!!!」
「了・解!!」
「ふっ、防ぐ事しか出来ぬ貴様に何が出来る」
「・・・全て、もう見えた」
瞬間
斬!!
と剣を奮うと共に黒き疾風が止み
遥か後方でボトボトと落ち積み重なっていく忍達。
「数多の敵を倒し生き抜いてきた力、伊達ではないか。
・・・しかし、私はそうはいかぬぞ」
そう話しているそばから御舘の姿が次から次へと増えていく。
「分身か・・・だが、それなら俺もっ!!!」
気合と共に瞳を金龍眼へと変え、魔法発動で身体強化と行うと同時に
「「「「うおおおおおっ!!!」」」」
無数のライの残像は全ての御舘へ剣を奮い襲い掛かる が
「「「「おごっ! あ゛っ!! があっ!!!」」」」
残像全てが分身に撃ち叩きのめされ、さらに衝撃に空へ浮いた処へ
「良くやったと誉めてやろう。だが所詮は残像・・・」
轟
「ぐ・・・・・はぁっ」
腹部へくの字に曲るほどの留め一撃で大地へ叩きつけらた。
ライの分身は力と素早さに魔力で誤魔化し強引な残像。
その道のプロの御大がつかう実体を伴う 本物の分身に適うわけがない。
「レイハ、この男を死なせたくなくば我と共に里へ帰れ」
「・・・は・・・い」
「・・・一寸、待てぇ」
手加減はしていない。少なくとも直立ち上がれるような攻撃はしていないのだが・・・
「往生際が悪いな・・・潰せ。」
何時の間にか復活していた忍達がライを取り囲み
ドスッベキッドカッベキッベキッドスッドカッ
・・・ようは踏み殴りの単純な集団リンチ。
復活できたとはいえライに与えられたダメージが抜けていないのか。
「笑止千万。世の中、貴様如きの思い通りに事が進むと思うな」
「・・・じ、自由を求めて何が悪い。」
「!!?」
散々叩きのめされたにも関らずライの瞳はまだ闘志を失っていない。
このタイプは戦うほど,倒されれば倒されるほど強くなって立ち上がる。
つまり一撃で仕留めねばならないが瞬間的に能力が上がるためそれも難しい。
「何が悪いんだあああああっ!!!」
ライは軋む身体を奮起して立つ。
それにレイハはただ嫌々とばかりに泣顔を横に振りつづけるのみ
自由を求めることは悪い事ではない。
ただ、それが許されない存在もいる。レイハのように・・・
「・・・よかろう。レイハは貴様にくれてやる。
・・・その骸をな。 好きに弔うがいい。」
ずんっ
「え?」
「なっ!!?」
一歩ニ歩と進み、そのままパタリと倒れたレイハの背に深々と刺さる短刀。
忍達にも走る動揺。まさかアッサリと処分するとは思っていなかった。