「何であれ、話通りなら強くないとはいえ余り戦いたくない相手だな」

と､ゆっくりアラクニの人の上体を起こし向けた瞳は狂気に赤く濁り

・・・凄まじい殺気。

瞬間、蜘蛛女神は蜘蛛腹の先をライ達の方へ向け

「「「「！！？」」」」

吹き付けられた蜘蛛糸をライはルーを小脇に抱え回避。

カインは凰翼を回転させ吹き飛ばし、アルシアは

「いや〜〜ん、絡まっちゃったぁ」

近くの柱まで吹き飛ばされ、糸でグルグル巻き。

「カイン、アルシアをっ。　ルーっ！！」

「わかったっ！！」

蜘蛛女神の周囲を走り回り惑わすライの小脇に抱えられながら、ルーは魔法発動。

無数の魔炎矢が蜘蛛女神を襲う　が、

「ルーっ、手ー抜くなっ！！」

手前、当る事無く全て空で霧散。

「バカ言うナ。私の爆裂･火炎系は魔杖無しでも凄いんだぞ。

チッ、アラクニの周囲に糸の網がある。ソレが魔法を打ち消したんだ」

一見それは見えない。だが神殿中、蜘蛛の糸塗れである事を考えると

ルーの魔法は役に立たない。

「ライ、気を付けて。　この糸は簡単に切れないっ！！」

後方でアルシアを解放しようとして一緒に絡まってしまったカインの助言。

流石、蜘蛛女神の糸。魔法を受けつけない上に強靭とは・・・

「・・・・・我に策あり。ルー、覚醒したら頼む」

走りながらの集中は多少時間がかかる。ライの目が金龍眼に変ると同時に、

ルーはライに対し強化魔法を掛けて自分は小脇から抜け出し離脱。

ライは立ち止まり、

「ほら、こっちだ」

対し蜘蛛女神は腹端を向けて糸を射出。ライはそれをしっかり腕に絡み付け

「ふんっ！！」

！！？

思いっきり腕を引くのと同時に蜘蛛女神の腹から強制的に造り出されていく糸。

そのまま蜘蛛女神の周りを走れば、結果

「簀巻き、イッチョ上がりだ」

己の糸でグルグルに身動きを封じられてライに踏みつけられ、

蜘蛛女神は牙を向き威嚇するが・・・これでは普通の女性と差して変らない。

「凄い機転だナ（厭」

「あ〜〜でもコレだからなぁ。気分悪っ」

絡まった二人ほったらかし、ケリが付いたと思ったルーが平気で近づいてくる。

付いたと思えなくもないが・・・彼女を完全に無力化したわけではない。

不意に蜘蛛女神がカクッと気を失い。

「・・・もしかしてコレ、解いた方がいいか？」

「解いたら暴れるかもな」

「うわぁ、でもこのままでも彼女自身が危ないぞ？」

「オマエ、コレは魔獣の御大だぞ。忘れたか」

「あ〜〜、ん、ん。　すみません。違うのですけれども・・・」

呆れ混じりのルーに応えたのは足元。穏やかな女性の声。

「「？？？」」

「・・・自分で解きますので身体を起こすのを手伝っていただけると」

止まる時間。つか、もろ硬直する二人。

「あの、もしもし？　私の言葉通じていますか？

これで通じると思うんですけど・・・」

 

アラクニ自身自分で糸を解き二人の絡まった糸も解き、神殿中の糸も片付け。

纏わり付いていた泥状のものがとれた蜘蛛女神自身から敵意を感じない以上、

警戒するわけにもいかない。

「一体何から説明したら・・・先に助けていただきありがとうございます」

頭を下げるアラクニにつられ、一同も思わず頭を下げ返し。

「助けて？」

「はい、私今まで「蛭子」に憑かれていて・・・その身体を得る為に・・・」

蛭子というのは神の一種で無数に存在し、

全ての生物情報を持つが故に特定の身体を持てない。

そのため他の神を襲い、その身体を操ったり・・・

アラクニの話を要約すると蛭子がその身体を得るため彼女に取り付き

子を造らせ・・・それが先に襲ってきた蜘蛛と各種魔獣の混合種

だが、それは結局｢蛭子｣の目的通りにその器にすらならなかった。

そして、どうやら蜘蛛混合種同士の子が魔獣のボス格。

なんとも、悠久の時を操られ犯され子を造られ・・・女性には酷な話。

「それは随分と・・・で、アラクニに憑いた「蛭子」は？」

「「「「！！？」」」」

気付いた時にはもう遅かった。

瞬間、ライは降って来た泥状の塊に包まれ

「あ・・・」

「くっ！！」

その時の出来事を思い出しアルシアは茫然、カインも凰翼で斬り付けるが弾かれ

「退けッ！！」

ルーの魔炎弾が「蛭子」の表層を焼くが、それだけ。

だがアラクニは慌てる事無く

「・・・彼は大丈夫です｡　そもそも、私よりも強力な彼の内なる神に引かれ

「蛭子｣は私から離れたのですから｡　けれど｢蛭子｣如きが彼の内なる｢戦神｣を

支配出来るはずがありません。」

彼女の言葉通り皆の目の前、泥に皹が入り粉砕。

中から現れたのは『神狼牙』を揮い金龍眼のライ。

それに今度驚いたのはアラクニ自身。

「貴方は・・・戦神とならずに「蛭子」を」

「???　あんなのモノ・・・そのために得たこの力だ」

揮った『神狼牙』から零れる黄金の粒子。人の身で神力を使役する。

「追詰められ能力を成長させる。生物って素晴らしい・・・

処で貴方、武具の消耗が激しくて困っていませんか？」

さっきまで穏やかだったアラクニ、額の飾り宝石のような複眼までも輝かせ

意気揚々としてらっしゃいます｡

「まあ・・・今はコレが有るけど。　あ〜あ、また革鎧ダメなっちまった」

ライは｢神狼牙｣と｢龍腕｣を指し示し、ボロくなった革鎧を破り捨てる。

「当然です。貴方の気に人の手の武具がそう耐えられるはずありません。

助けられた礼もあります。これを持って行くといいでしょう。

これでも私の糸は神々の戦衣の素材として定評だったんですよ」

とアラクニの合わせた手から紡がれる糸。それが見る見るうちに幾つもの束になり

「では改めて私は眠りに。今は人の世。私は介入してはいけませんから」

だから糸は与えるが、加工は自分達で如何にかしろ　と。

「・・・そうか。じゃあ、また起きた時に。」

「二度と会うことは無いでしょう。本来、私の眠りは悠久。さようなら・・・」

ライ達の目の前、蜘蛛女神は己の出す糸に包まれ・・・繭になった。

こうして、祝福の地の覇権は魔獣から人の手へ