より強力な「剣」を手に入れた村の反撃が始まった。
連日連夜、ライとカイン+厳選した村の戦士十数人が万全の準備で出撃し
魔獣の雑魚を村の戦士達が引き付けている間にボス格を二人が撃破。
犬型,鳥型,甲蟲型,蜂型・・・次々と群れを征し
ライ達は彼等の犠牲と引き換えに大地を治めていった。
残るは空白の地。
そして、頭を失い無作為に暴れるようになった雑魚の魔獣も
最近は決戦に備えるかのように大人しい。
「このまま何事も起きなければいいんだけどな。もう殺し合いは疲れたよ・・・」
「はははは、余り村人には聞かせたくない台詞だね。」
夜に以前のような警戒が必要無くなった今、ライ達は村人総認める英雄。
それがもう戦いを否定するような臆病な台詞。
ライの心情ばっかりは、その性根 昼寝を愛し平穏を求めている 事を知らない限り
察せるはずもない。
魔獣と云えど殺したくないだなんて。 ソレを知っているのは仲間3人と・・・
コンコン
「ライさん、調査終わりました。」
会議室(ライの家)で寛ぐライ&カインの処にやって来たのは
あのアーチャー娘ネーシャ
今はもう昼間 気をつけていれば深森でも魔獣に襲われることはない。
「おう、御苦労さん。」
彼女を再び白地図とかした村周辺地図の前に呼び 茶を出し
「恐れ入ります。早速調査の結果ですが・・・」
この二人、一見普通に接しているかのよう。
だが この娘が普通に接する事ほど厳しいものはない とカインは思う。
ライはまだこの娘が謝る事を許していない。頭を下げてゴメンナサイと言う事を。
二人の話し合いは終わり、
「では、私はこれで・・・」
部屋を出たネーシャの後をカインが追い
「ちょっと、君」
「はい、何ですか?」
「君は・・・このままでイイのかい?」
「仕方ないです。私は何も考えずにソレだけの事をしてしまいました」
「感情は兎も角、ライは君の事をもう怒っちゃいないよ。
感情は時が解決するのを待つしかないね。後は、君自身が君を許さないと」
「・・・それでライさんは許してくれますか?」
この娘、やはり危ういかもしれない。
「ふぅ・・・君は一度でもゴリさんの墓に行ったかい?」
ネーシャの顔に浮んだのは驚きと怯え。そして否定に顔を振り。
「カンニングさせてしまうようだけど、気兼ね無く行けばいいよ。
ライとしてみれば自分でそれに気付いて欲しかったんだろうけどね」
娘は今にも泣きそう。
ある意味、自分が殺した者の墓参りへ行けと言っているのだから。
並の罪悪感があればとてもじゃないが・・・でもそれだけで気は楽になる。
「今度、ライに墓参りに行きたいと言ってごらん? 拒否はしないはずだから」
「・・・・・・はい。」
落ち込んだ娘を見送り、カインはライのところへ。
「結局全部言っちゃったのか、お前は・・・」
「彼女みたいな真面目なタイプは人の思考奥深くまで読めないからね。
それで、彼女が墓参りに行きたいといったら君はどうするんだい?」
「・・・やっぱり許そうと思っても、そう思っているだけなんだろうな、俺は」
「さあ、どうかな?」
「カイン、お前って結構性悪だなぁ〜」
「フフフ、女の子には優しく男には厳しく。 君と同じさ」
その日、いつもの様にネーシャはやって来て報告を済ませ
「・・・あの、ライさん。 私、ゴリアテさんの墓参りに・・・」
「ふぅぅぅ・・・・・・明日、酒の大瓶用意しろ。質より量でな」
「えっ?」
「行くんだろ、墓参り?」
「は、はいっ」
墓は意外に遠かった。 朝二人は小荷物を抱え村を出発し、森を抜け、
到着したのは昼前。
其処は、昼寝をするにはピッタリの見晴がいい小高い丘の上。墓は4基。
2基が寄添う様に設置され、間を置き1基。更に間を置いて1基。
「これは・・・」
「俺の仲間達の墓。その端二つは結婚直前に俺のせいで死なせてしまった。
ソッチの彼女の腹が目立つようになったからな、分れようとした途端・・・
真中のは、俺の恋人・・・になるのかな? 俺が直接手にかけた。
もっと、もっと俺が注意していれば死なさずにすんだのにな・・・
一番端のがゴリのだ。」
ただ淡々と語りながらカップルの墓には花束を、恋人の墓には菓子を供え。
ネーシャはライが一番許せないのはライ自身である事がわかった。
そしてゴリアテの墓の前 ライに促されネーシャは大酒瓶を渡し、
ライはその酒をコップ2つに注ぐとその一つをネーシャに差し出して
「まあ、飲め」
自分も酒に口をつけ、大酒瓶の中身をトポトポと墓にぶっかけた。
「俺は余り酒を飲まないけど、ゴリは水の様に酒を飲む奴でな・・・」
昔話というには未だそれほど昔の話ではなく思い出話を感傷に耽りつつ
ライはゴリアテの事を肴に酒を飲み、墓に酒を掛け。繰返し。
酒が尽きるのと同時に話は終わってしまった。 そして
「んじゃ、俺は酔いが醒めるまで少し寝る。適当時間が経ったら起してくれ」
ネーシャほったらかしでライは自分の得物傍らに横になってしまった。
この世界、死は常に身近な存在と言える。だから死後は極楽 の考えもある。
しかし、この男にとって死は敬遠すべきもの。
生きて生きて生き抜いて幸せになって、天寿を全うしなければならない。
だからこそ仲間の墓は村から遠く、それでも心休まる場所。
この男当人も気持良く眠れる様に・・・
・・・・・・・・・・・・
「はぁ〜、結局 俺の墓参りに成ってしまった」
「いえ・・・・・・何故、ライさんは涙を流さないんですか?」
話の途中、ライは数度言葉を詰まらせていた。 それでも・・・
「・・・まだその時じゃないからな。俺達の犠牲はまだまだ増える」
今やライ達の御陰で村人は殆ど犠牲になることはなくなってきた。
つまり、泣く時は魔獣のためにも泣いてやると。
「何故・・・」
「前に言っただろ? 哀しかな、魔獣と人は共存出来ない。
魔獣も俺達に出会わけりゃ・・・」
「ライさん・・・貴方は聖人ですか?」
「はははっ、柄じゃないな。聖人と言うより自己中だな。
俺は何の犠牲に成りたくないし、ただノンビリと生きたいだけだから・・・
君が最初にいった通り、俺はかなり胡散臭いぞ?」
「・・・・・・(困」
「また君だけでもゴリの墓参りに行ってやってくれ。
ゴリも女の子相手に酒があれば悦ぶだろう。 じゃあな。」
「ライさんは墓参りには?」
「まだ事が終わってないからな、俺がホイホイ行ったらブン殴られちまうよ(笑」
以来、ライの笑みを初めて見た気がする。
・・・否、笑ってはいたがネーシャ自身それに気付いていなかっただけ。
ネーシャは帰るライの背中に
「私、この事にケリが着いてから報告をしに墓参りに行きたいと思いますっ!!」
返事はただ、振返らず 応 とばかりに手上げただけだった。