茫然としたままそのまま見事に空高く舞い、地面に叩き付けられようとして
「をっと、危ない(ポスッ)」
「・・・?」
激しく叩き付けられる前に優しく受止められた。
「動くなよ。 今ので身体中、骨が折れてる」
「な・・・ぜ・・?」
「何故も何も、俺は人を殺すために剣を振るうわけじゃないからな。
聞かなかったか?」
聞いた。 誰が言ったか、彼者は人を その可能性を護りたいから戦っている と。
「無理して動かなけりゃ大丈夫だろう。さて、御遊びも終わった事だし行くか」
「御遊び・・・」
この騎士の誇りですら御遊びでしかないと。
「御遊びだろ? この戦いは俺達にしか意味はない。単に自己満足なんだから」
確かに。でもクリスティンはこれで本当に強くなれる。
「その前に一つ忠告。 何があっても真実は黙ってろ」
「それでは、正義が・・・嘘の正義に・・・何の意味がっ!!」
「・・・ふぅ、この国の平和はその嘘の正義の上に成り立っているんだ。
もしそれが無くなればどうなると思う? 自分の保身のためにも黙ってろ。
くだらない事で死ぬな。殉死こそ全く持ってくだらない。」
嘗て一度、仲間を護る為に死んでしまった者がそれを言う
「正義を行い・・・死ぬ事が、くだらない事?」
「ああ、くだらないね。それで死ぬのは一部の人間だけ。 掻き回すだけで
何も変りはしない。 まあ周りが見えてくるまでじっとしていても遅くないさ。
それまで、適当にトボけておけ」
「ぐっ・・・・・・・」
話を聞いた守護騎士,その関係者達も同様の事を言っていた。
大局を見ろ、それはつまり目の前の正義は行われなくても良いと?
本当は、本当に護るべきものの為に
その時まで多少の屈辱には我慢しろという意味なのだか。
「本音、今ソレは如何でもいいし。 それでもいずれ、黒幕にツケ払わせてやる。
仲間の分の合わせて・・・・・・」
ライの静怒。 それが噴火の如く爆発する時が恐ろしい。
そしてライは女騎士を馬に乗れる程度まで治療し行ってしまった。
つまり、このままライに協力するか再び襲うかは彼女次第と。
「貴公達の言葉を借りるなら・・・ツケは払わせてもらう」
当人がそう思っていなくても、彼女に取っては大きなツケ。
多少身体を玩ばれはしたが・・・それも一緒に清算し、それでも
「ク、クリスティン様っ!!? 御体がっ!!!」
「私の事はより、ライ=デステェイヤーにも手傷を負わせた。場所は・・・」
迎えに来た騎士へ言ったのは本当に戦闘した場所と全く違う所。
「ツケは払ったぞ、ライ=デステェイヤー」
一言漏らしクリスティン=リ=ラプレスが見上げた空は嘗て無く青かった。
そこに通る御者一人。
「ちょっと、聞きたい事があるのだが?」
「何でしょう?」
「ツケを払う というのは一体意味なのだ?」
「ツケを払う? 一体そのような御言葉をどこで(汗。
え〜〜それはですね、貸しを返すといいますか、つまりですね・・・」
・・・・・・空は嘗て無く青かった。
その日以降、ライ=デステェイヤーの行方はようとして知れない。
負傷したクリスティンが戻った王都はそれまでと全く違うモノに見えた。
一見穏やかのようであり、それでも嵐の前の静けさに似た危うさがあり
「・・・ティン様、クリスティン様。」
気付けば家屋敷の自室、
ドレス姿に包帯のクリスティンを付きのメイドが心配そうに覗き込んでいた。
「な、何用だ?」
「大臣の・・・様から召喚状が届いております。」
数多い虹凰騎士団のスポンサー,有力者の一人。
虹凰騎士団戦隊長として会わないワケにはいかない。
傷自体、全身骨折とはいえ若干皹が入っている程度。
それを周囲が派手にしているに過ぎない。包帯の上から騎士の正装をして向った。
何処も対して変らない屋敷に辿り着き執務室に通され、其処には当の大臣。
「虹凰騎士団戦隊長クリスティン=リ=ラプレス、只今到着しました。
今日はまた一体何用で呼ばれたのでしょうか?」
大方、失態の責任を取らされ辞職させられるか。
まあ真実が見えた今、御飾り何ぞには興味はない。
「怪我のところ、態々済まないクリスティン君。
処で君は賢老院というものを存じているかね?」
目を点にして否定する。 初耳に何も今始めて聞いた。
大臣の怯えた様子からして彼女の辞職の話ではないらしい。
「ふむ、当然だな。引退した元大臣の御老の方々が集まった会なのだが。
・・・御老の方々が君を謁見させよとの御達しだ。」
隠居老人達如きに何に怯える必要が?
「もう迎えが来ている。くれぐれも失礼のないように。
御老達がその気になれば・・・我々の命など一声で・・・(ガタガタブルブル)」
迎えの完全に閉切られた外が見えない馬車に乗せられ・・・
時間的にはまだ王都内 ある建物に入り、執事に案内されて
・・・彼の御陰か今の彼女には、この執事がタダの執事で無い事が解る。
恐らくは彼女など一瞬で・・・
連れてこられたのは一つの闇部屋。かなりの大部屋だか明り一つ無く何も見えない。
その中央、大きめの簡素な椅子に座らされ、
カッ!!
「っ!!?」
行き成り彼女に対しての照明に、クリスティンは白闇へ。
「君が、クリスティン=リ=ラプレス君かね?」
「・・・はい」
見られているのか、無数の視線が突き刺さり嫌な感じがする。
「ふむ、中々の器量だ。これで虹凰騎士団の戦隊長など荷は重くないかね?」
「所詮、看板。力など必要ない。 見た目さえ良ければな。」
「幸い、この娘は相応しい血と十分な才能を備えているがね」
「・・・・・・・(惑」
「・・・それより本題に入ろう。ラプレス君、
君は数度ライ=デステェイヤーと接触したそうだが・・・如何かね、あの男は」
・・・何があっても真実は黙ってろ・・・偽りの正義・・・大局・・・
「あの男は・・・ふざけています。とても、騎士・・・だったとは思えない」
「君はライ=デステェイヤーに手傷を負わせたそうだが、
報告によるとその場所には戦いの跡はなかったそうだ。」
「・・・恐らく、手傷のライ=デステェイヤーに逃げられた言い訳では。」