無意味にだたっ広い部屋。その真中、作業台らしきものの上で
寝た時のまま上半身裸で足首と手首に枷をはめられ│の字のようピンと引張られ
「・・・フゥ」
意識を取り戻してみれば予想というかなんというか。 束縛されたライ。
村人から沈黙の魔女の話を聞いたときから一筋縄で協力を得られるとは思っていない。
とは言えこのまま沈黙の魔女の思惑通りというのも癪にさわる。だから
「うおおおおおおおおおおおっ」
眼が黄金の龍眼へ変化し全身の筋肉が盛り上がる。
それでも枷や鎖は軋みこそすれはずれることはない。
不意に諦めたように脱力
「ふぅ・・・見てないで出て来い「沈黙の魔女」否、「ルー」か?」
闇から現れたのは美幼女メイド「ルー」ではなく、
ふてぶてしい笑みを浮べた魔導師格好の美幼女ルー
「ふっ、気づいておったのか。いつからだ?」
「最初っから。これでもガキの相手は腐るほどしてるんでね。
アンタからは大人がガキのフリをしているような感じしかしなかった。」
「負け惜しみだナ。そんなナリで何が出来る。 素直に助けて貰えるとでも思っていたのか?」
「・・・いや、思ってない。 それより俺を如何するつもりだ?」
「私の玩具になってもらう。 オ前、ナカに面白いモノを飼ってるな?」
「欲しけりゃ熨斗つけてくれてやる。だから協力しろ。」
「貰ってやってもいいが・・・取るとオ前、死んでしまうぞ?」
「却下」
「オ前の意志は関係ない。私が如何するか、だっ!!!」
ずぶっ
「ぐあっ!!?」
ライの胸に打込まれるルーの細腕。いや、ちゃんとルーの手はライの胸の上に置かれ、
身体のを探っているのは魔手というべきもの。
身体の中を弄り回られるのは気色悪く、心臓を直接握られている様で動けない。
「さ〜て何処かナー。おっ、見つけたぞ」
「ぐっ、ぐあああああっ、や、やめろおおっ、そ、れに触るなあああああっ!!!」
ズルズルズル
魔手がライの中のソレを掴み引き抜いていく。
我も忘れ暴れるがもう襲い。ソレがライの身体の中から抜け出た瞬間。
「おわっ!!?」
弾き飛ばされるルー。
二人から離れた処に具現化したソレはかつての戦龍神・・・破壊神。
「お、オマエは一体何を飼っているんだ・・・」
精霊や神といった超越的存在というモノはその性質がそのまま外見となる。
純粋な精霊は見た目も純粋で美しい。
人を惑わす悪魔はモノにもよるが大抵見た目は恐ろしいくも滑稽でもある。
神は人を畏怖させる。
神クラスの悪魔と契約しているルーに神は畏怖すべき存在ではない。しかしこれは・・・
棘々しい攻撃的な身体、純粋な破壊の意志の現れ。一切の交渉の余地なし。
「ソレを攻撃しろっ!! 目覚める前に消滅させろおおおっ!!」
身体の中なら抜き取られたとはいえ、未だとこかで繋がっているから判る。
ライの制御から離れた今、ソレが目覚めてしまえば全てを破壊しない限り収まらない。
この国半分が更地と化する。
ソレが抜けた分の凄まじい消耗感を振り払うかのような叫びにルーが我に返った。
「私に指図するなっ!!」
「んな事いってる間に攻撃しろっ!!」
「ふっ、私を誰だと思っている? 希代の天才魔導師にして魔女だ!!」
ルーの手の中に召喚される、ルーの見た目に似合わないゴッツい魔杖
それが床を衝くと同時にソレを囲む魔方陣。
「くらえっ『爆縮』」
領域爆裂圧縮魔法に瞬間、光球が生まれた。
外からではわからないが恐らく光球の中は超高温高圧になっているはず。しかし
「・・・だめだ、喰ってる。」
「何をばか・・・なっ!!?」
光球の光度が落ちてきた事で解ったのか、ルーは次の手へ。
「これを解けっ!!」
よっぽど自信があるのかルーは意に関せず魔術発動
「『極寒焔鎖』これで砕け散れっ!!」
領域絶対零度魔法に原子の動きが鈍り、全てが凍り尽いていく結界内。
ソレに霜が付き白くなる。
「ちっ、うおおおおおおおおっ」
解放してくれないなら自分で如何にかするしかない。
未だ繋がっている其処から力を引き摺り導き込み、己の力を覚醒。
人が人で持ち得る最大の力をその身に
ガキンっ!!
砕け散る呪縛。 ライの瞳は龍眼のまま覚醒状態は解いていない。
一方、ソレも全然堪えた様子もなく『極寒焔鎖』を相殺,消滅させ
「・・・こいつが化け物ならオ前も化け物だな」
「俺が何とかするから奴を足止めする事だけを」
「くっ、それしか出来んわっ!! 『超重界』×3!!」
領域超重力魔法に歪み軋み潰れる空間。
ライが知らない系列の呪文、それでやっとソレの動きは封じた。
しかしそれ以上にはいたらない。 さらに同じ魔法を幾重に重ねても
ソレは押し潰されることなく足元の床が砕け少しずつ沈んでいくだけ。
以降幾度となく練度は上げてきたが一度は自分が死んだ奥義魔導技、
使いたくないがそうは言ってられない。
集中し、次々に螺旋状に展開していく円筒型立体魔方陣。
「・・・おい、そのまま聞け。その魔法を補正してやる。
だから私を気にせず詠唱し続けろ。」
普通、何も知らない他者が詠唱中の魔法の補正など ほぼ不可能。
しかしライが唱えるは大呪文。補正するは魔導を極めし者、ルー。
決して不可能・・・とも言えない。
一見完全と思える立体魔方陣をルーの魔方陣が一部解体,添加、更に密に洗練に組上がる。
ソレの動作に多重『超重界』が軋み、
術の完成が先か、ソレが放たれるのが先か
「いいぞっ!!」
「おしっ!!!」
―――
術の完成と多重『超重界』が崩壊するのはほぼ同時
直、ルーが自身を護る結界を展開瞬後ライも術を発動
刹那の世界ライは突貫。 居合を詰、その掌をソレの面へ
掌握
そして全ては一瞬で終った。
おおおおおおおおおおおおおおっ!!!
音が無い世界、声にならない戦叫を上げ、龍顎の己の手がソレを喰うような意識で「力」を放ち
ソレはあっさりと吸収消滅・・・
力、破壊神は本来の在るべき処へ
「ふぅ・・・」
「その術はオ前が?」
その術とは所謂、ライの奥義魔導技 極加速系「時を止める」魔法。正式名称はまだない。
「ああっ」
ライはもう疲労の余り立っていられない。返事も投げやり
「ムラが多い上に無駄もある」
「んな事、わってる」
「だが、発想はオモシロい。大したモノだ」
「・・・・・・・・・・・・」
返事がない。見ればライは床の上に大の字で昏倒。
さて如何したものか。
この男には興味はあるが、またこの男の中で眠るモノを開放する気にはなれない。
・・・しかし、自分を危険に曝した者の前で何故無防備になれる?
「いくらなんでももう悪さをするつもりはないね?」
「!!? お、オ前ら・・・」
ルーが振返ればそこにカインとアルシア。一体いつからいたのか。
カインがルーを牽制しつつアルシアがライを膝枕で診察。
「ん、消耗しているだけね。 一晩寝れば大丈夫よぉ。」
「ルー、まさか君が沈黙の魔女だったとはね・・・僕としてはココで君を
と、いきたいところなんだけどライの意志を尊重するとねー」
ちょっとでも怪しいそぶりを見せればそのままヤるつもりなのだろう。
戦士の居合で、にこやかに斧槍を玩びながら言われては・・・
一晩開け早朝
「か、カイン、お前、ルーちゃんに何をやっとるんじゃー」
居間にやって来たゴリアテは、ルーに対し斧槍のカインを見て慌て
「このルーが沈黙の魔女なんだけどね」
「なんとぉ!!? そんなことないよなぁ、ルーちゃん?」
「うるさい、でくの棒!!」
「ぶはっ!!?」
顔面ヘ飛ぶ魔杖
怪しいそぶりであってもゴリアテに対して行われるなら一切構わないらしい。
「うっく・・・朝っぱらから・・・随分と賑やかだな」
ようやくアルシアの膝枕からライ起床。 全身筋肉痛なのか顔を顰めながら。
「ふん、勝者の余裕か」
「・・・カイン、それ下げて。意味がない。ルーがその気なら一瞬で殺られるぞ。
最初に言った通り、俺達は貴方に助力を頼みにきただけだ。」
「知るか!! 弱い奴,搾取される奴が悪い。 弱者は死ねっ!!」
「弱者・・・ね。
元々彼等は争う事が主じゃない。それで弱者でも仕方がないさ。本来の相手は自然だからな。
でも戦う力を勘違いしてバカする連中がいる。 如何にかしなきゃ成らないだろう、俺達が」
「この私に説教しているつもりか。」
「別に説教してるつもりはないさ。俺の考えを言っただけで。
それを説教と感じるのは貴方にそうゆう考えがあるからだ(びしっ)」
「ぐっ・・・」
「・・・別にいっしょに戦ってくれとは言わない。詳細教えるから対処法だけ考えてくれれば」
ライは結界について自分の感じ思った事を含め全て話し
「ん、それはだナ、オ前の思った通りだ。城の結界維持装置を弄れば事足りる。
ザコは忍んで戦わないようにするんだナ。
結界の中心は・・・口で言うより城の内部の地図書いてやる。」
「そりゃ助かる・・・・・・ちょっと待て」
「なんだ?」
「何で、城の内部まで知っている?」
「当然だ。元々あの城に住んでいたのは私だからナ。」
「は? 漆黒の魔王?」
思わず全員が指差し、ゴリアテは訳も解らず鼻糞穿っているが
「ん〜〜いつだったかナ、うっかり魔法を暴走させて山消したのは。
それに時々村人に魔法の実験の協力をしてもらっていたら
いつの間にか変な噂がたってしまこともあったナ。
それでやって来た者ドモに丁重に御帰り頂いたら漆黒の魔王などと呼び始めたのだ。」
「「「・・・・・・・・」」」
「・・・それで」
「ん、向うは生活しにくくなったから随分前にコッチに引っ越してきた。
ああ、そう云えばコッチに来てからあまり実験はしてないナー。
偶に迷い込んでくる旅人とか村人をからかったりはしていたが・・・」
こいつは・・・
「ちなみに、城には何を残した?」
「ん?ん〜〜あそこで創ったモノはほとんど置いてきたぞ。ナマモノとかナ。
魔力収集装置はオ前達が言う「魔導封じ」はこれを弄ったものだろうナ。」
「ナマモノ?」
「戦闘生物とかだ。後・・・」
何故言葉を濁す、ルー?
「なんでも一筋縄という訳にはいかないか・・・」
「安心しろ。私も一緒にいってやる」
「・・・・・・謹んでお断り致します。」
「偉そうな事言っておいてなんだその態度はっえっ!!!
始りは私だから責任を取ると言っているだけだろうがっ!!!」
ルーの力量は解っている。少なくともライが知っている魔導師ではNo.1。
それでもやっぱり、他者を自分の戦いに巻き込むのは・・・
ライに対し、ルーは目の前に手を出し
パチン
「「「!!?」」」
指が鳴った瞬間、周囲を幾重にも包囲する魔法の矢。
魔導を行った気配は一切なかったのに。
「オ前達の意志は関係ない。私が如何するかだ。
それが人助けなら尚更オ前に拒まれる筋合いはないっ!! (ビシッ)」
もうライはストレスで胃に孔が空きそうな顔。
「へいへい、御助力御願いしやす。だからソレ消してくれ。」
もう、めっちゃ投槍。
ライが了解なら皆文句は言わない。どうせ責任を取るのはパーティーリーダーのライだから。
「うむっ!!」
ルーは至極満悦。経緯はどうであれカリは返せる。
結果、ライが胃潰瘍になったとしても・・・