∴SHRINE∴
∴FANTASY LIVING THING PICTURE BOOK∴

■ EPISODE 02 後編 ■
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土砂降りの中、ライは夢遊病のように着の身着のまま何も持たず歩いていた。

辿り付いたのは迷宮。 其処へ無作為に進んで行く。

何もライの行く手に現れない、阻まない。 そして辿り付いたのは一つの大部屋。

嘗て倉庫部屋だった其処は全て奪われ、もう何も残っていなかった。

何もなく無防備なライをチャンスと見たか、現れたマント二人組。

その二人をライは生気ない瞳で見返すだけ。

こいつらの存在はフェイを迷宮から救出した時からずっと感じていた。

二人組の一方、脱ぎ捨てたマントの中から現れたのは 人型の線虫の塊。

ソレがライに襲いかかり、

轟っ!!

ライに接触する前に粉砕された。

その後から現れた憤怒のライは黄金の陽炎を纏い、黄金の龍眼。

「・・・どうした。俺を殺すんじゃないのか。殺してみろよ、ほら」

そいつは思った。 自分は決して触れてはならないモノに触れてしまったと。

生きて帰るためにはこの男、ライ=デェステイヤーを殺さなければならない。

それが可、不可の話は別をして。

ライの後で集まり再び人型をとる線虫の塊。ライがソレに気づいている様子はない。

ソレが諸手を上げ、死の抱擁を与えようとした瞬間

スカっ

「あの程度では死なないのか・・・」

ライは霞む様に消えソレの後に現れた。 見下ろすその様子は人と一線を規す存在。

次の瞬間、高速移動により幾つものライの残像,分身がソレを取り囲み

「失せろ」

―――

分身の連撃にソレは一瞬で叩き潰され液化。ビチャという音と共に地を濡らす。

そのままユラリと幽鬼の様に降り返ったライにそいつは腰を抜かした。

そいつの目の前にいるのは絶対的な死という存在。

「フェイは死にたくないと言った。死にたくないと

それを・・・・・・・・・・貴様だけは絶対許さない。

貴様だけは俺が殺す。俺の意志で殺すっ!!!」

霧散する黄金の陽炎。元の瞳の色に戻ったライが拳を振り被り

轟っ!!

飛び散る鮮血

拳が打ち砕いたのは倒れたそいつの頭 の横の地面。ライの拳も勢いに砕け

「・・・ごめんな、フェイ。 俺、仇を討てそうにない」

ライは黙祷し背を向けた。

それをそいつは助かったと思わずチャンスと思い、懐から出す猛毒刃。

ライを突き刺そうと突進し

「・・・・・(怒)」

ライの回し蹴りで折れる腕、己の胸を突き刺す刃。

「が・・・」

一息漏らし、アッサリと散る命。

「世の中不公平だな。・・・善人ほど早死する。悪人ほど・・・あっさりくたばる」

 

「た、たいへんじゃぁっ!! フェイちゃんが、アルシアさんが!!」

「アルシアは抜け殻みたいだし、フェイちゃんは・・・ こんな時に何をしていたんだ。」

さ迷い結局帰ってきたライを出迎えたのは血相を変えた二人。 対しライは無表情。

「・・・知ってる。」

「「!!!」」

「フェイを手にかけたのは俺だからな。」

ライの顔に浮ぶ虚ろな笑み。その意味をカインが理解する前に

「ライっ、貴様と言う奴はあああああああっ!!!」

そのまま無抵抗に脇腹へ剛拳を食らい吹っ飛ぶライ。

アバラが折れて激痛を感じているはずなのにヘラヘラと笑っている姿は・・・

「やめてぇっ」

「止めるんだゴリさん」

カインと ゴリアテの怒叫に飛んでやって来たアルシアを吊り下げ、

ゴリアテはまだ殴ろうとする。

「本当は私がフェイちゃんを手にかけなければいけなかったのよぉ」

「なっ!!?」

「それは一体・・・」

 

運命の一日が過去の話になった朝、ライはまだまどろみの中にいた。

まるで情事の後のような疲労に身を委ね、懐には妖精・・・フェイ

・・・なあフェイ、俺、変な夢見たよ。俺がフェイを殺してしまうというやつ

ふにぃ(困)・・・

・・・悪い。でも愛してる。ずっと一緒にいるから。 ふっ、愛してる?

・・・俺の口から愛してるなんて言葉が出るなんて夢みたいだな。

えへへへ、ラぁイ、私も愛してるよっ。 ずっと、ずっといっしょだよ。だから・・・

・・・何?

何があってもライはライでいて・・・

・・・フェイ?

私が愛するライでいて・・・

・・・何処へ? 行くなっ!!

もう、さよならの時間・・・

・・・頼む、行かないでくれっ!! 俺はフェイがいないと

大丈夫、ライはとっても強いから。会えなくても側にいるから・・・

「・・フェ・・イ・・・・・」

泣かないと決めたのに閉じられた眼から流れる涙は夢が夢と解っているから。

彼の者に加護を残し、彼の者の手が永遠に届かぬ処へ妖精は去る。

 

結局ライ一人部屋に残し、フェイは火葬され・・・

コンコンコン

壁を背にベットに座り込んだ部屋の主は反応しない。訪問者もそれは承知だから勝手に入室し

「・・・フェイちゃんの火葬、済ませてきたわぁ。」

「・・・・・・わ、かった」

やっと搾り出した一言。それだけでもアルシアは安堵した。

それくらい、部屋にいた存在は亡霊のように儚かった。

アルシアは、そのライの隣に座りピッタリ身をくっ付ける。

「ねぇライ、・・・私を・・・フェイちゃんの代わりにしてもいいのよ?」

罪悪感。本来なら自分がしなければならない一番キツイ仕事をまかせてしまった。

そして、愛する人にその最愛の人を手にかけさせた。

これでライが楽になれるならいくらでも自分を殺してみせる。

「・・・そりゃ無理だ。アルシアに悪い」

そう言って向けた笑みは今にも泣きそうで・・・それでもふんばっている

壊れる事が出来ればどんなに楽だろうか。

人に寄りかかる事が出来ればどんなに楽だろうか。

彼女はそれを許してくれるだろう。でも、自身それが許せない。

「ごめんなさい。ごめんなさいね」

ライは抱き付き泣き出したアルシアの頭を撫で、

まるで涙を堪えるかのように天を仰いだ。


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■ EPISODE 02 後編 ■

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