∴SHRINE∴
∴FANTASY LIVING THING PICTURE BOOK∴

■ 焔の魔剣 ■

■作者:nao 様/ 紅乃鳥飛鳥 様■
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■ 焔の魔剣 ■
3. Crimson Edge(前

 

 

「〜〜♪」

夕暮れ時、とある街道の一角。
…むしろ"街"道と呼べるかは判らないが、兎にも角にも要するに、道端。

「…ふぅ、こんなとこかな?」

其処で野営の準備…基、料理を行っている一人の少女。
その横には、あまりにも不釣合いとも言える大剣が地面に突き刺さっていた。

「あんまり料理は得意じゃないんだけど…酒場のマスターからレシピ、貰っておいて良かったね」

その場に彼女以外の人影は見えない。
当然返って来る事のない返事に対し、彼女は少々戸惑いの色を見せる。

「……ねぇ、ヴェルジェ?どうかしたの?…ここ数日、なんだかいっつも上の空、って感じだけど…」

脇に突き刺さっている大剣に向かい話し掛ける。
…すると要約、返事が返ってくる。

(……そうか?…我は………)

どこからでもなく聞こえてくる声。
無論、聞こえているのは彼女にだけであろうが。

(………そうかもしれぬな。…命日が、近いのだ……かつて我を振るい回し、共に戦った者の。)

「命…日?」

Crimson Edge 前編 ―焔の魔剣、その過去

ザッ、ザッ…ザッ、ザッ。
ザッザッ、ザッザッザッ…

定期的に刻まれる砂利を踏む音と、

ザッ、ザッ……ザッ、ザッ。
ザッザッザッ、ザッザッザッ。

それを追いかけるように…不定期に刻まれる小走りの音。

「…なぁアンタ、いつまで付いて来るつもりなんだ?」
「私は、貴様に貰った借りを返すまでは傍を離れるつもりは無い。」

即答。

はぁ、また厄介なモン巻き込んじまった…といった顔をする男と、
断固たる決意の瞳を見せる女。

男の名は、ラシュイ=レファルド。

女の名は、セイラ=クロスイ。

偶然にも男に助けられた女は、己のプライドを貫き通すべく神官とゆう職を捨て…
この賞金稼ぎの男に付いて行こうとしているのだ。

―若しこの世に悪戯好きの"神"が居るのであれば、恐らくは必然…だったのかもしれない―

ヴェルジェはそう云った。
それと同時に、長き昔話になるだろう…との注訳も付け加えた。

そう、これは昔話…
50年前、さる神殿に自身が封じられる以前の話…

「参ったな……ンまぁ、別に付いて来る分にゃ構わねぇけどよ、命の保証は出来ないんだぜ?」

「下郎に借りを貸したままなど、死んだほうがマシだ!」

「………。(やっぱり根に持ってやがるな、コイツ・・・)」

他愛も無い、だが当人達にとっては果てし無く重要な会話を交わしながらも、
当ても無き旅路を行く二人…

「っかぁー、今日は厄日かぁ?…相棒<フランヴェルジェ>とも離れ離れになっちまったし、
代わりにっちゃ難だがついてきたのは世間知らずの貧乳神官がフぁっ!?」

「ま、まだ言うか!」

顔を赤くしながら、女の一撃が炸裂。
クリティカルヒット!
吹き飛んだ男の頭からはプシュゥ〜、と煙が立ち込めている。

「な、ナイスパンチ……(がくっ)」

ラシュイは力尽きた…

―夕刻―

道端で男と女が、焚き火を中心に対になるようにして座っている。

「…さて、問題はどうやって相棒を取り戻すか、なんだがなぁ…」

のほほんとした口調で喋る男。
に対して、女が突然立ち上がり―

「取り戻す…って、正気なのか、貴様!?
…"神殿"に盗みにでも入ってみろ、即刻処分されてもおかしくは無いのだぞ!?」

―恐らく彼女は知っているのだろう。
神殿には、幾多もの財宝―最も、盗人からしてみればだが―を封じ、保管している部屋があるとゆう事を。
そして、盗みに入った者がその場で処分されたとゆう噂があったとゆう事も。

…悪魔で"噂"でしか無いのではあるが。

「安心しろ。アンタはその保管されてそうな場所だけを教えてくれれば良い。行くのは俺一人で十分だ」

「なっ…今の話を聞いていなかったのか!?盗みに入ったら、処分されても―」

瞬間、女はゾクリとする感覚を覚えた。
男の目。

「…俺は"この旅"を初めた時から、命なんざとうに捨ててる。今更死ぬ事なんざ怖かねェ」

幾多もの屍を築き上げてきた者のみが見せる、強者の目。
それは確固たる強さ。
それは確固たる自信。
それは確固たる信念。

それは、確固たる決意の瞳―

―恐らく、男の言う"この旅"を始めた時点から、その決意は出来ていたのだろう…

「………っ」

ぺたん、と尻餅をつく女。
決意の量が違うとでも悟ったのか、それとも男の奥底にある"何か"を感じ取ったのか…
それは定かでは無いが、どちらにしろこの男に一瞬とはいえ、恐怖を感じてしまった事を恥じたらしい。

「……。そ、そこまで言うのなら…教えてやらない事も無い…が…」

「…が?」

女が立ち直り、りんとした顔を向け…

「…私とて、一度決めた事だ。お前が行くのなら、私も行く。
それに、内部には巡回している神官も居る筈だ…私ならその巡回ルートも知っている。
……足手纏いには、ならない。」

「………ったく…折角キメ台詞だったのによぉ。どうせ止めても無理矢理付いてくるンだろうし…
判ったよ。手前の好きにしな」

男もどうやら、女の決意を悟ったようだ。
口調は半ばふざけているようにしか聞こえないがこの男、それ相応の実力を持っているからこそ…
持っているからこそ、口に出せる"言葉"なのだ。

―夜刻、神殿前の茂みにて―

「………」

「………」

「…………」

「…………」

「……………」

「……………。……?」

「……………暗くてなんも見えん。」

「……………。…………夜目<ナイトアイ>」

「おお、見えるようになった!」

「……………はぁ。」

…要約すると、こうだ。
女は、男がじっと神殿前の見張りを見つめているから、
てっきり侵入するチャンスを伺っているものだと思っていたら…
実は暗くて何も見えず、只単にボケーっとしていただけなのだから…

「…ん?どうした?」

「……。いえ、何でも…」

溜息をつきたくもなるだろう。

「………」

「………」

「…………」

「………。今度はどうしたんです」

自分に向けられている視線を疑問に思い、ふと。

「…いや、そういやお互い自己紹介してなかったよな、と。」

「…今それ所じゃないと思うんですが…」

最もだ。

「いや、神殿で審判にかけられてる時は外野がうるさくて良く名前聞こえてなくてさ…
あ、俺はラシュイ=レファルド。そこらの奴は『ライ』って呼んでるぜ。」

「………。私はセイラ=クロスイ…ファーカスの村で剣術指南を行っていた、―」

「ほ〜…ファーカスのクロスイっつや、あの名門のか。
…確か数年前、事故の火事で村全部焼かれて無くなっちまったんだよなぁ…
そら確かに神サマんトコにでも行きたくならぁな」

途端、女の目付きが変わる。

「違う!…私は知っている…"アレ"は事故じゃ無い……!」

「…どうゆう意味だ?俺が知ってる情報(ネタ)は事故で火事…って事になってるが」

「…違うの……事故?火事?…馬鹿馬鹿しい…
何故そんな火事程度で村の全てを焼き尽くされねばならないの!?
私は、この目でしかと見た………"片目に傷がある巨大な飛竜"を―」

ドンッ

男が手をつく。
今度はそちらの目の色が変わっている。

「"片目に傷がある巨大な飛竜"だと!?…見間違いじゃねぇよな!?」

「っ!?…え、ええ…そうよ…見間違える筈が無い…あの狂気じみた顔つき…山一つ程ある巨大な体…!」

「………クソッ、"ジャガーノート"の野郎……!
由、決めたぞ!こうなりゃ一もニも言ってるヒマぁ無ぇ。
これ以上奴をのさばらせねェ為にも…!」

男が女の手を引っ張り、突然神殿前まで駆け出す。
無論、見張りの神官は居る。

「なっ…ちょっ、何を―」

「フランヴェルジェぇぇぇ!!行くぞぉぉぉぉぉ!!!」

ぉぉぉ――ッ

ぉ―ッ

―ッ

「だ、誰だ貴様!?何を叫んでいる!」

「ちっ、やっぱ出てこねぇか……ってこたぁ相当厄介な結界で封じられげフぁっ!?」

「あんっ…たは何やらかしてんのよ!!
封印を施したのはここの神殿の管理者本人、その人なのよ!?
確かにあの剣の魔力の凄まじさは垣間見たわよ。
でもね、だからって呼んで出てこれたら苦労しないわよ!!」

「痛っ…つぇな、別にいいじゃねぇかよ。呼んだら若しかしたら来るかなー、って思ったんだしよ」

「良く無いわよ!…ってゆうか護衛神官兵来ちゃってるじゃない!!」

辺りを見渡すと、何時の間に来たのかズラリ十数人は装備を揃えた神官兵が構えていた。

「うわ…なんか来てるよ、オイ。…大体な、お前の説明が長すぎるんだよ。
封印が強力なら強力です、で済ませっつうの」

「馬ッ鹿じゃないの!?大体、最初に何も考えもせず大声出したのはアナタでしょ!?
なんで私の所為にされなきゃならない訳!」

延々と続く口論(端から見れば痴話喧嘩にでも見えるだろう)、無視され続ける武装神官兵達。

「……対侵入者居用クマさん警報が鳴ったと思ったら…揃いも揃って一体何事です?」

これも類稀なる数奇なる運命の悪戯か、
ふいに現れた人物は一言でその場を静めた。
現れたのは、そう―

「…神殿…管理者………様。」

セイラの体が小刻みに震えあがっているのが分かる。
そして同じ様に、武装神官兵達にも動揺の声が広がる。

「おや?…あなた方は、確か…」

「んぁ?覚えてたのか?…なら話は早ぇ。俺の魔剣、返して貰うぜ」
「ええ、構いませんよ(1秒)」

一同「…………(ごーん)」

「随分とまた素早く話進めてくれるじゃんの…なんか裏でもあんのか?…えーっと、管理人さんよ?」

「まさか。私も正直、あのような厄介な性質を持つ魔剣を封じている身ですから、
単に早く厄介払いしたいだけですよ。」

パチンッ、と神殿管理者―そう云われている人物―が指を鳴らす。
と同時に、ラシュイ&セイラと神殿管理者(+武装神官兵十数人)の間に爆炎が生じる。

「おお〜っ、久方ぶりだな相棒っ」

ひし、と現れた魔剣に抱きつく男

「っのぁぁぁああ!?」

と同時に燃え上がる男。

(…のん気にしている暇があるのなら構わないが、そうでもあるまい?
…"奴"の気が変わらない内にさっさと行くのが賢明だと思うぞ)

奴―そう指された当の本人は、にこにこ笑顔で二人(+魔剣一本)を見守っている。
逆にその笑顔が怖い気もするが。

「あ?…あ、ああ…お前がそう言うならんじゃ、さっさとトンズラかまさして貰うか…
おい、どうした?置いてくぞ。」

「…ちょ、待っ…足が、すくんで…」

「難だ、だらしねェな。子供<ガキ>じゃあるまいし…」

ぼやきながらもセイラを背負い、魔剣を片手に駆け出す。

そして闇に溶けるように逃げ失せた一行を、一同(一人除く)はポカーンとした様子で見守っていた。

「…さて、書斎に戻ってお仕事の続きですね。…貴方達、いつまでそうしているつもりです?」

はっとした神官達が、そそくさと神殿内へと戻っていく。

「…にしても、"彼等"の到着に反応するなんて…
…クマさん時計、修理に出したほうがいいのでしょうか…?」

顎に手を当てた男の質問に答える者は居なかった。いろんな意味で。

 

いまだ焦げる体で駆けながら、

「なぁ、難で不機嫌になってるんだ?…どっかの間抜な神官にでも水ぶっかけられたか。」

(否……あの神殿管理者とか云ったか…あの"人間"が気に入らなかっただけだ。)

「…??」

「ああ…そういやお前には話してなかったっけか。…意志ある魔剣、フランヴェルジェ。
使い手を選ぶ魔剣、選ばれし者に齎すは絶対的な炎の力と生まれる灰からの恵み。
…まぁ、要するに俺とコイツは相思相あい゛っ(ボッ)あっつゃいっ!?」

(この場で灰塵と化しても良いのだぞ?)

「いやっ、スマンスマン…っつーかお前ほンッと冗談通じねェな。
…まぁ…つまるところ、テレパシーみたいなモンで俺とコイツはお話出切るってこった。」

「はぁ………でも、私にも聞こえてるのは何故?…わざと?」

「!?」

(!?)

「…。その様子からしてわざとじゃないみたいだけど……
それじゃぁ、私もその『選ばれし者』…とかなんとかだ、って言う訳?」

「まさかなぁ…(さわさわ)……俺にゃ『イイ尻はしてるが胸ねぇただの新米元神官』にしか見え゛ッ」
バキッ

「…どさくさに紛れて触るな!…それにもう自分の足で走れる、降ろせ!」

(…………。どうでも良いのだが、囲まれているぞ?)

頭を殴られ、のめり込むように倒れたラシュイから飛び降りるようにして地に立つセイラ。
それと同時に、夜盗と思われる者共数人………否、数十人。

「…ってぇ………どうでも良いのだが、って全ッ然どうでも良くねェじゃねぇかよ…」

「そうゆうことだ!よりにもよって、この"ギーガ=イアント"様の縄張りに」
げしっ

「そうゆう三流悪党が良く吐くセリフはいいから、さっさとそこ退けろ阿呆」

「ちょっと、ライ!この人数相手じゃ、いくら貴方でも―」

「っ……きっ、貴様ぁぁぁ!許さん、許さんぞ!!野郎共、なぶり殺しだァ!!」

『オオ!!』

…当の男はと言うと、頭を掻きつつ

「はぁ…やっぱ退く気は無いかぁ。なんでかなー、人が親切に退いて下さいっつってんのにブッ」

「何が『人が親切に』よぉ!思いっきしケンカ売ってるじゃないのよ!!
嗚呼…もう、嫌この人についていくの…」

早くも挫折か?
と、その矢先…男が目の前から消えたかと思うと、周りで起きていた罵声がパタンと止む。

「…?―――ッ!!?」

「悪いが、貴様等のような雑魚には興味無いんだ。
今、この場で俺と出合ったのを地獄で後悔する事だな…」

その場に立ち尽くしていたのは、短剣を片手にする一匹の修羅。
返り血を全身に浴びており、月明かりに照らされているその場の様は正しく―

「ひっ……ぁ……」

ペロリ、と短剣を舐める男。
その仕草を見て、力無く座り込む女。

(…『目を覚ませ』、ラシュイ)

「……んあ?」

はっとした様子で、短剣を仕舞う。

「ちっ、また殺っちまったか…大人しく道退けてりゃこうなる事も―」

「どうして……」

微かに震え、目は潤み…女が涙声で男に問う。

「どうして…どうしてそんなに、平気で人を殺せるの…?それも、一瞬で…!
貴方は一体誰!?何者なの!?」

すると男は、近づきながらもその問いに答える。

「それじゃぁ、一つ聞くが…今襲ってきたのが小鬼<オーク>だったとしたら、お前はどうしてた?」

「……え?」

小鬼<オーク>相手であれば、一般的な護衛剣術さえ覚えておけば然程手強い相手では無い―が、
群れを成して襲い掛かってきた場合はそうもいかないだろう。

「お、小鬼<オーク>だったら…無論、倒すに決まってるじゃない…世に混沌を齎す者には、裁きを―」

「なぁ、その『世に混沌を齎す者』っつうのに、怪物も人間も入ってる訳だよな?
…だとしたら、平等にその"裁き"は下すべきだろう。
別に俺は神サマの使者って訳じゃねェし、神が居るだなんてハナっから思ってもいねェ。
だが、只一つだけ言える事…」

「只一つ…何?」

「若しそれが行く手を阻む者だとしたら、俺は容赦はしない。それが何であろうとも。」

「だ、だからって…いともカンタンに…躊躇わずに、そんなに人をっ…」

「…怪物社会は弱肉強食だ。同種族間での争い事も在るだろう。
無論、殺しもだ。…自然の摂理に従わず、唯一『死』とゆう存在を恐れている者が『人間』…」

男が、女の目の前にドスン、と座る。

「"『悪』事を働いたら裁かれる"のか、人間は?
それじゃぁ、"『悪』事を働いた怪物"はどうなる?
怪物が『悪』事を働くのは当たり前だからしょうがないと諦めるのか?
若しくは裁きを与える人間が現れるのを待つか。
否(いや)、そんな道理は俺にゃ通じないね。」

「……何が言いたいの?」

「…つまり、だ。…『悪』の定義なんて、人間が手前勝手につけた建前でしかねぇ。
怪物社会じゃそンなもん成り立ってねぇのは見ての通りだろう。
俺の考えた結論がこうさ。…だから怪物を殺すのにも、
人間を殺すのにも躊躇いなんて不必要(いらな)い」

(だが、殺める時に人格が変わるのは少々難だと思うがな…)

「そらまぁ、なんつーか…仕方がねぇっつーか、自分でどうこうできるモンでもねーしなぁ」

「……………。」

確固たる"信念"と"自信"、それに独自の理論を持つ男。
それがこの男、ラシュイ=レファルドなのである。
その男の"問いに対する答え"を聞き終えた女は…

「………私、貴方が解からない…なんでそんな考え方が出きるの…?
何故、そこまでの力がありながら…そんな考え方が出きながら、平気で自我を保てるの…!」

「…んー、そう言われてもな。」

男が、座り込んだままの女を起こそうと手を差し伸べる。
が、

「嫌…怖い…こないでっ、嫌!!」

恐怖とは時に人を狂わせる。
此処にもまた一人、真なる"恐怖"を目の当たりにして我を失いし者一人。

「…………。」

魔法の「幻覚」にも同じような作用があるが、之を治す術は同じく術でなければならない。
この男に其れを治す術が使えるとも思えないが…

と、すっと短剣を取り出す男。

(…どうするつもりだ?)

ザシュッ

「……!?」

突き刺したのは、自らの掌。

「なっ……」

「痛ッ……つぇ」

男は涙目になりながらも、掌から短剣を引き抜く。

「…俺の血の色は緑か?俺のこの痛みは偽りか?…全く、余計な手間かけさせんじゃねェよ。
"俺は人間だ"。それ以外の何でもない。
只一つ、『ラシュイ=レファルド』とゆう名を持って示す以外はな。
それで、お前はどうするんだ?…俺達はもう出会っちまったんだ。今更知らん振りは無しだぜ」

赤い血が滴る手を、もう一度女に向かって差し伸べる。

「…………治療<ヒール>」

 

男の背に揺さぶられる女は、静かにその温もりを感じていた。
そして口にする。
先の男に対して抱いてしまった恐怖心の事を。

「……ごめんなさい…私……人が、人がいっぱい死ぬ所が……」

「…んぁ?…別に、気にすんな………っつう方が無理か。
まぁ、誰でも恐怖を乗り越えるのは簡単な事じゃねぇさ…そう、"誰でも"な……」

「…?どうかしたの、ライ?」

「………。お前、さっき言ったよな?"片目に傷がある巨大な飛竜に村を焼かれた"って」

「え、ええ…今でもはっきり覚えているわ。10年前の、…私が12歳だったあの日の事……」

「俺の村もな。"ソイツ"にやられたんだよ」

「…え?」

―もう、20年近く昔の話になるか―
当時の俺は10歳でな、ちょいと剣の腕が立つから良く村連中が行く狩りについていったりしてたんだ。
何?30にゃ見えないって!?バカ言ってんじゃねぇ、俺ぁまだ29だ!30じゃねぇぞ!ったく。
…どこにでもありそうな、なんの取り得も無い…まぁ、のどかっちゃのどかな村だったさ。
…ある一つを除いてな。
それが何かって?

…"生贄"…

その年の平穏と豊作を願い、年に1度幼い女の子を生贄として
「竜奉窟」に置き去りにしなけりゃならねェ風習があったんだ。
無論、生贄になった子供(ガキ)の行方はわからねぇ。
だが、この村にとってその"儀式"はとても神聖なモノで、絶対的なモノでもあった。
選ばれた子供の親はその儀式当日、豪華な食事を振舞ってた。

そして、俺の妹が選ばれた。

…正確に言えば"義妹"だがな。
拾われた子だから?
否、違う。…"俺のほうが拾われた身"なのさ。
その村じゃ、余所者…特に身寄りの無い者が来るのを忌み嫌っていた。
そンな中、唯一村民の反対を押し切って俺を引き取ってくれたのが義父(おじ)さんだった。
難で俺はその村にこなけりゃならんかったのか…そん時は4,5歳くらいだったから良く覚えてねぇ。
んでもってまぁ、3歳下の義妹(いもうと)…俺に良くなついてくれてた…が、選ばれたんだ。
無論義父さん達は祝ったさ。
何せ神聖なる儀式に自分の娘が選ばれたんだ、鼻が高いってもんだろ。

…なんで誰も悲しまなかった、って?
まぁ、黙って聞いてろ。

…そんでもって、選ばれた訳だが…
俺は嫌だった。
義妹が、生贄として「竜奉窟」に置き去りにされるのが。
そしてなにより、何処かへ行ってしまう…消えてしまう、って言い聞かされてたが…
それが、何よりも嫌だったんだ。
だから俺は―

「…俺は?」

「ここまで説明すりゃ分かるだろ?大体。
…竜奉窟からこっそり妹を連れ出した俺が、村に帰って目にした物は―」

『うわぁぁぁぁ!?』

『た、助けてくれぇぇぇ!!』

『怖いよぉ、お母さぁぁん…』

―ジャガーノート Juggernaut 盲目的な信仰 及び絶対的な"力"と"破壊"

『お父さん…お父さ〜ん!!』

『!!リネア、行っちゃダメだ!!』

『グルォォォォォォン!!』

『リネアぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

「…多分、村長とその周りの奴等は知ってたんだろうな。
『年に一度、生贄を差し出しますからどうかお鎮まり下さい』ってとこか。
ところがどっこい、俺がその"生贄"になる筈だった義妹を連れ出しちまった…
結果、怒り狂った"奴"はその周辺全部ぶっ壊していきやがった。
…俺だけを残して。」

「ライだけを、残して…?」

「ああ。…難で俺だけ残していったのかは知らねぇ。だが…間違いなく言えるのは…」

「………言えるのは?」

「お前の今考えている通り、ファーカスの村が襲われたのも…多分、ここ20年間で襲われた村も、
……全ての責任は、俺にある」

「…そう…だったの……」

「………。それだけか?」

「…?それだけ、って?」

「お前の村が壊滅した原因は、元を糾せば俺の所為なんだぞ?…そうだったの、って納得していいのか?」

「…過去の事は過去の事。…辛い思いをしたのは、貴方だって同じ…
…それを態々私に話してくれただけでも、もう十分…そうでしょう?」

「ふっ…ははは、そうかい。…すまねェな、ガラでもねぇ話になっちまった。
…足は大丈夫か?そろそろ村が見えてきたぞ。一人で歩けるだろ、セイラ?」

「ええ……」

「…やっぱり尻はイイ形してんだけどな゛っ」
ゴスッ

「人が親身になって聞いてれば……!」

「な、ナイスパンチ……(がくっ)」

―深夜、カイラスの村

それなりに繁栄していると思われる、なんの変哲も無い村。
酒場には活気が賑わい、宿屋には旅に疲れ一時の安らぎを求める者達が集う。
が、その村に足を踏み入れた途端、男の殺気が高まる。

「……この"匂い"………」

「…?匂い?…お腹でも空いたの?」

「………。すまんが、宿をとっといてくれ。俺はちょいとばかし情報収集だ」

「え?あ、ちょ、ちょっと…!」

「ああ、そうなんだよ。明日が丁度"竜神祭"だから、皆でドンチャンやってるのさ」

酒場にいた、一人の若者から得た情報。
そして聞いた、年に何人か"夜中に"神隠しに会う子供。

「―辻褄が合う。…明日の夜が明ける前にケリをつけたほうが良さそうだな…」

(だが、まだ"奴"だと確定した訳では―)

「四の五の言ってる暇ぁ無ぇ!!…どっちみち神隠しにあってるっつぅ子供も居るんだ。
其れを調べるだけとしても、十二分に価値はある…!」

(…彼女はどうするつもりだ?)

「無論、巻き込む訳には―」

「誰を巻き込む訳にはいかないですって?」

「(ごーん)」

「私はもう十分巻き込まれてるんだから。
…言ったでしょ?例え何があろうとも、貴方に付いて行くって。」

「だが、今度ばかりは話が別だ!"奴"だとしたら命の保証は―」

「私は、"この旅"を始めた時からとうに命なんて捨ててるわ。今更な事言わないで欲しいわね」

男は頭を掻き、

「…っかぁー………わーかったよ。こうなりゃ死ぬ時ぁ一緒に道連れだ!」

「誰もアンタなんかと道連れになりたくなんか無いわよ。」

「…………(こ、このアマ…)」

"竜神祭"当日―夜明け前、宿屋一室のベランダにて

寝間着姿でその長い金髪を靡かせ、夜明け前のまだ薄暗い空を見つめる女。
ふと、

「眠れないのか?」

「ええ、そりゃぁもう……どっかの変態オヤジと一緒の部屋で寝なきゃいけないんですもの、
寝るに寝れないわよ」

「(ぴしっ)へ、へぇ〜…どっかの変態オヤジねぇ………
って俺はオヤジじゃねぇっ、まだ29だ!!」

「ちょっと、静かにしなさいよ!…今何時だと思ってるの?」

「4時ちょっと、ってトコか……」

寒さでか、ブルルと震える男。

「…明日になったら全てがわかる。
…"奴"を仕留めてるか、この村が壊滅してるか、それとも平穏に過ぎるのか…」

「三つ目だと一番良いんだけど…」

「そうだな…」

「へっきし!………。なぁ、部屋に戻らねぇか?いいかげん眠いし寒いし…」

「止めておく。どっかの誰かさんに襲われそうだから。」

「あー、そうですかい…」

ふと戻ろうとする男。が、

「襲うってェのは、こんな風にか?」

てっきり部屋に戻ったと思っていた男の声が聞こえ、その方向を向く。
と、不意に口付けをされる。

「ッ!?〜〜〜〜!!!」

念入りに舌を入れ、絡め合い、熱い濃厚なキスを交わす。
頭を抑えられている為、逃げ様にも逃げられない。

「〜〜……ん、中々初々しいお味で」

「……………あ…」

一瞬呆気に取られていた女が、突然顔を真っ赤にして、

「私の最初の口付け<ファーストキス>がぁぁぁ!!?」

「オイオイ、静かにしろよ。今何時だと思ってるんだ?」

叫ぶ女に再度、口止め。
とゆうか濃厚な口付け。

「っぷはっ、嫌っ、ちょ、止め…」

どうしようにも、既に腰に手を回されている為逃げる事が不可能状態となっている。

「ん〜、口じゃそう言ってるが…体のほうは正直さんだな?」

いつのまにか前のボタンを全部外され、元々下着を着けない派の彼女の双丘が露となる。
その先端を念入りに擦るように、時には摘み、時には愛でるように…

「嫌ッ、やめ…あンッ、いやっ、あっ、やぁっ…」

小振りとはいえ、形の良い乳房を弄ぶ男。

「嫌っつってる割には、結構感じてるじゃねぇの。…さって、そろそろ下の方は…」

「ッ!?嫌ッ、止めてぇっ、いやぁっ!」

微々たる抵抗も空しく、下着もろともズボンを下ろされる。
まだ男を受け入れた事のないソコは、早くも挿入の期待に呼応するかのように液を垂らしている。

「お、丁度良い具合に濡れてきてるな…寒いし、さっさと済ませるか?」

「いやっ、あっ、あんっ、やめっ、てぇっ…あぁっ」

ふと、男が手を止める。

「っ、……はぁっ、はぁっ…」

「さて、どうする?止めてやったぞ。」

いやらしい笑みを浮かべながら、男は女を上から下まで眺める。

「ぁう、ぅ、ぅ…………」

「〜〜♪」

口笛を吹く男。
うずくまる女。

「止めてやった事だし、そろそろ寝るか?安心しろ、寝てる間に襲う趣味はねぇからな」

「…ぅ…ひ、どい……」

「ん?」

女が、寒さからか震える体を持ち上げて、

「ここまでしておいて…止めるなんて…本当、憎たらしいっ……んっ」

今度は自ら口付け。
それはこの行為を了承する事となる。
彼女はそれを心得た上での口付けだった。

「んん……悪いな。これが俺の性癖っつーか、ヤる時にどうも治らん…」

「…今まで貴方に抱かれた人達を思うと悔やまれるわ…」

「そらどーも…よいしょっ」

「きゃぁんっ!?」

彼女を持ち上げ、ベランダの柵の上に座らせる。

「いやっ、ちょっと、危ない…それにっ、人がっ」

「そこがまたイイんじゃねぇかよ。ほれ、入るぞ」

ズプッ

男の膨張したモノの先端が、液体を垂れ流し続けるソコへと進入して行く。

「痛ッ…!やぁっ、はぁ…んぁっ!」

「力を抜け、俺に身を委ねろ」

グプッ、ズニュッ…

人に見られるかもしれないとゆう緊張感、
ベランダから落ちてしまいそうな恐怖感(最もこれはオマケのようなものだろうが)…
だが、其れを踏まえた上で…男を既に愛しているが故に、既に抵抗は無く。

「あひっ、はぁっ、んぁうっ…」

グチュッ、ズチュッ、ニチュッ…

「はぁっ、あんっ、ひぁっ…」

肉と肉のぶつかり合う音、喘ぎ声がこれから嵐の前の静けさのような夜明け前の空に響く。

「いっ、あぁっ、…もうっ、ダメぇっ…!」

「くぅっ…俺も、もうダメ。イクぞっ!」

「なっ、やぁっ…あんっ、膣内(なか)はダメぇ、―――――ッ!!」

両者が絶頂に達すると同時に、女が男に崩れ込む。

「何、子供でも出来たらいつでも責任とってやるよ…(ごそごそ)」

「…………ぁ、ぅ…」

ベランダから降ろし、自らのモノを引き抜く。

「ひぁ…ぅ…」

「……それじゃぁ、最期の口直しだ」

そう言い、口付けを交わす。

「…………んぐっ!?」

「…………悪いな。やっぱ、"俺が"決着(ケリ)つけなきゃいけねェ…」

「げほっ……な、何を……!?」

「安心しろ、単なる睡眠薬だ。…目が覚めたら、平穏な村の風景か天国が見えてるか、どっちかだがな」

「そん…な……ひど…………わたし……も……………一緒……………」

女が崩れ落ちる。

「……。二度と、女の前で無様な真似晒したかねぇんだ。…すまねぇな、我侭な男でよ…」

女に服を着せ、ベッドへと運ぶ。

「さて、予定より早く寝かせちまったな……ま、いっか。
確か…"巫女"だかなんだかってのが、神殿に向かうんだったな。」

―竜神を奉る神殿前にて―

「…取り合えず、巫女さんが来る前までにゃ片付けないといけねぇんだよなぁ…コレ…」

コレ、と指されたのは…

「なンだ手前!…まぁいい、誰だろうと構いやしねぇ。俺等を見たからにゃ、死んで貰うぜ!」

恐らく、巫女目当ての人攫い…といった所か。

「……。今回はハズレかなぁ……はぁ、セイラの責任取るハメにならなきゃいいんだが…」

「何ブツブツ言ってやがる!…野郎共、行くぞ!!」

―3分後―

「カップラーメンでも出来ます、ってか?…。はぁ、ちったぁ骨のある奴ぁいないのかね…」

築かれているのは、屍の山。

と、その時。

「…これはこれは…一体、何事かと思えば。…貴様か?可愛い僕達を殺したのは。」

片眼鏡をかけた、黒いスーツに身を固めた男が一人。

「んぁー?…まぁ、そうゆう事になるな。まぁ、折角だし手前も死んどくか?」

ズンッ

「あ゛?」

(我を使え。…奴は"他とは違う"。)

突如目の前に突き刺さる魔剣。
此れの助言とあらば、聞かない訳にはいかない。

「ほう…その剣……噂には聞きましたが、貴方ですか。クリムゾンエッジ、ラシュイ=レファルドとは」

「へぇ…俺も有名になったもンだなぁ。…で、誰だアンタ?」

「…フォルド……ファウエン、とこの世界では名乗っております。
では、お相手願いましょうか…」

―クリムゾンエッジ―ラシュイ=レファルド、懸賞金1000000G
自身が賞金稼ぎ兼A級ハンターラインセンス所持者でありながら、高額の賞金首。
その剣閃は紅き炎となりて、集う猛者共を焼き払うと言う。

「…『我が声を聞け、冥界に住まう魍魎共よ…』」

(詠唱を始めたぞ!唱え終わらせるな!!)

「わかってらぁ、でぇぇぇりゃぁぁあぁぁあらららっ!?」

結界の方陣。
それは即興で唱えるモノよりも強靭で、いかなる攻撃も通さない。

「チィッ、用意周到なこったて…フランヴェルジェ!斬るぞ!!」

(心得て居る!)

「『…血の契約の元に!出でよ!!』」

「ぬぉっ!?」

『グォォォォォォォ!!』

(なっ……最上級悪魔<グレーターデーモン>だと!?この詠唱の速度でか!!…この男、一体…!)

「そうですねぇ…"20年前、貴方の村を焼き尽くした張本人…"と言ったら、分かりますかね?」

男が、片眼鏡を外す。
そこにある傷。

「…!?……まさか………手前………!」

―竜人―竜と人の混血。故に人の言葉を喋り、姿を変える事が可能。古の邪法により生まれた産物。
…その、眷族。

「っくくくく…さぁ、余所見をしているヒマはあるのですか!?」

『ガァァァァッ!!』

「チィッ!?」

ガキィンッ

その一撃は、鋼鉄をも切り裂くとされる最上級悪魔の一撃。
を、受け止める焔の魔剣。

「おっと、もうこんな時間ですね。……"村の掟を破り、巫女以外の者を使わせた。よって、―"」

繰り広げられる攻防の中、片目に傷がある男の体に異変が起こる。

「う…ガ…ぁ……ぉ……うぉぉォォォォオオオオ!!』

「な…っ……!!!」

『…"天罰が下される"……といった所か。…ククク、"選ばれし者"よ。
さぁ、我はこれから村に"裁き"を加えに行くぞ。どうする?』

「ちっ、行かせるかぁぁぁ――ッ!?」

『グォォォォォン!!!』

「くっ、邪魔っ…―」

(ラシュイ、右だ!!)

「なにっ!?」

斬っ

「ぐぁぁぁあ!?」

宙を舞う、男の右腕。

『クッハハハハハハ!!なんと脆弱な事か。これが"選ばれし者"の底か!…さて、我は―』

「行かせる…かぁっ…!」

『グォォォォォォォ!!』

果たして、ラシュイは最上級悪魔<グレーターデーモン>を退けて竜人を止める事が出切るのだろうか?
それは、寡黙なる魔剣<フランヴェルジェ>のみが知る、過去の出来事―

To be continued.


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