∴SHRINE∴
∴FANTASY LIVING THING PICTURE BOOK∴

■ep.11 LEGEND(前編)■
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海竜の目前、ドームは終に安定を失い水圧に爆発。これでは人間は決して耐え切れず

例え人魚であろうと昏倒は必死。あとは人魚姫を連れ去り蜜月に・・・

しかし、その目論見を撃破るのは泡の中に現れし影。

人のそれより大きく、フォルムも人のそれとは違い・・・

『・・・・・・。何者?』

『人の身を変え降臨せし戦龍神。 以上に名乗る名はない』

『邪魔スルナラバ容赦セヌゾ? 姫ヲヨコセっ!!!』

咆哮に、衝撃波が戦龍神を襲う。 しかし眼力にて生まれた障壁で相殺。

『まぁ、焦るな。 成り行きココに居るが・・・云々で話をするならコイツとやってくれ』

『???』

「海竜うううううっ!!!」

戦叫に、戦龍神の影から海水を蹴って飛び出すのは人魚姫の騎士。

仄かに燐光を纏い陸上さながらの勢い。

『貴様も男なら、対等に戦って勝ち取ってみろ』

『・・・人間ガアアアアアアアっ!!!』

いざ戦闘開始。 海竜が咆哮に衝撃波を放ち、人が接近に突撃槍を振るって襲い掛かる。

一介の人間が仮にも神相手に、互角の戦いを繰り広げ・・・

 「ありがとうございます。 えっと・・・?」

戦闘領域外で戦龍神の背後から泳ぎ出てきたのは当の人魚姫。

『一応、精神はライだ。 気にするな、メザがヤツに勝てなければ意味がない。

姫の力を一時移植に環境に関係なく全力で戦えるようにしただけだからな』

万物を支配し、調整する能力。それがアルシアを鍵に降りた水の戦龍神の力。

 「いえ、それでも・・・」

『なら、祈ってやれ。彼が海竜神に勝てるよう。 俺が出来るのはココまでだ』

 「はい・・・」

『さて・・・』

 「あの・・・どちらへ?」

『いや、子のガチンコ喧嘩に親が出てくるのも何だしな。 先にコチラから・・・』

 「???」

と、水の戦龍神は海に溶き消えてしまった・・・

其処は海底であって海底ではない異次元の世界。海そのものの世界。

そして其処で胎動するのは幾つもの頭を持つ龍。海の権化。大海龍(リヴァイアサン)。

その瞳が目の前で具現化した者を捕らえた。

『我が名は・・・必要ないか。 そちらの眷属が人の社会に干渉してる。

一人の人間の男が護るべき者の為にソレと戦っているから見届けて欲しい

というのが用件だ。 ・・・・・・言ってる意味、通じてるよな?』

大海龍の無反応ぶりに戦龍神、意気消沈。 人の精神構造を神が理解出来る保障なんか

何処にもない。話しているつもりで実は銅像に話しかけているのと変わらない可能性も。

例えそうであっても一応断りを入れておかなければ。

でも本当に話が通じているのかどうか・・・時間の流れが違うのか・・・無反応。

間に戦龍神が前のめりに倒れそうになったその時、大海龍はゆっくり瞼を閉じ

瞬間、強制空間転移に広がった光景は

「おおおおおおおおっ!!!」

『――――――――っ!!?』

海竜の上、立ち振り下ろしたメザの突撃槍「貫鯱矛」がその首を貫くっ!!!

そして海竜はゆっくりと倒れ、水飛沫を立てつつ波間に浮いた。

と共に、海岸から上がる歓声。

・・・気づけは海上に、戦龍神も海岸から少し離れた処で観客の一神。

大海龍が下した判断は、つまりはそういう事なのだろう。

『終ったのか・・・』

 「はい・・・」

返事に見下ろせば、波間から顔をだす人魚姫エリアル。気付いてこっちに来たらしい。

『姫さん、俺のところじゃなく君の王の所へ行ってやれ』

 「え? あっ・・・はいっ!!!」

戦龍神の笑みの意図を察し、エリアルはその元騎士の元へ向かう。

海竜神を倒して見せた今、メザがエリアルの夫

海洋国家アルトラスの新王になることを誰も文句は言えないだろう。

ポセイダル王や一部の老神官は驚愕の光景に真っ白に朽ちてしまってるし・・・

戦龍神の支援の効果が切れたせいかエリアルに支えられ海岸に辿り着いたメザは

今度は反対にエリアルを姫抱きに上がり、若い覇気ある騎士や兵に称えられていた。

今まで古い仕来りに支えられてたこの国は生まれ変るだろう。その善し悪しは別に。

見れば希望都市の騎士団の面々も賑やかな輪からはずれて戦龍神に手を振ってるし


『・・・オ、ノレェェェ人間ガアアアアアアアアッ!!!』

復活の海竜神に大波が立つ。仕留め切れていなかった 否、助けた事が仇に

このままではココのみならず海洋王国全土までに被害が。

しかし、そんな事を戦龍神が見逃すわけもなく後ろに人々を護るよう立ち。

『貴様・・・往生際悪いぞっ!!!』

轟っ!!!

と揮う腕に大波が瞬時に霧散。大粒の雨となって天より降る。

『侮リ遅レヲ取ッタガ・・・モウ負ケハシナイっ!!!』

『いや、もう貴様は負けている』

『何ッ!!? グ・・・ゲボァッ!!?』

『大波を消し飛ばしたついでに毒を散布させてもらった。貴様のみに効果あるヤツを、な』

ただ波間でのたうつ海竜にはそんな言葉は聞こえていない。

『安心しろ、苦しくて動けなくなるだけで死ぬような毒じゃないから

・・・って、聞いてないか。 如何しよ・・・蒲焼にするわけにもいかないしな』

物騒な独言まで言ってるが、相手が悶絶では本当如何しようもなく・・・でもなかった。

蜃気楼に揺らぐ空間からあわられたのは大海龍。

『・・・なるほど、バカ息子を再教育に連れて帰るってか?』

頷くかのように大海龍は海竜共々幻のように消えていった・・・

『さて、丁度時間切れか・・・俺たちも・・・』

崩壊を始めた身体に、彼の娘の労いの声が聞こえたのは気のせいではないはず。

・・・そして

彼等は早々に帰って来た。

びしょ濡れに、完全にノびたライを支え連れてきたアルシアと合流するやいなや

姫に船を手配してもらって海を渡って土産満載の馬車を回収し、大急ぎに行程を

半分の時間で進み・・・その更に半分までライはノびていたりしたが、さて置き

もうそこは都市の敷地内に全体を見渡せる山間の道、今までの強行軍とは打って変わり

いたって散歩調に進む馬車があった。 久しく見る都市は変らず平和。

「はぁ・・・やっと帰って来たな・・・」

見渡す一同の顔は都市の住人達よりよく焼けてはいるが・・・やはり都市の住人のそれ。

元の生活に戻れば、焼け具合も直ぐに戻っていくだろう。

 「わんっ! ルナ、走って帰るっ!!」

「仕方ないですね・・・」

と緩やかに進む馬車から飛び出す子供二人に、見た目と違いお転婆嬢とその相方も

 「あっ、じゃあ私も♪」

「コラコラ・・・(苦笑」

それでも続き飛降りかけていってしまった。 一方で、主の隣に腰掛ける四姫。

「いいねぇ、子供は・・・俺もイイ歳になったもんだ」

 「な〜〜に言ってるのよぉ。まだまだま若いくせに」

 「そうです。これからも頑張ってもらわないと。負けていられませんから」

 「ん。 ・・・(クアアアア」

 「まぁ、ココは御主が作った国。これからも御主の好きにしていけばいいサ」

「全く、好き勝手な事を・・・」

馬車というものは御者のみでは成り立たない。以外のものが揃ってこそ成り立つ。

国もまた然り。 しかし国は王が代われど・・・・・・

想いを風に流し、彼等は帰って行った。我家へと・・・

帰って来た屋敷は・・・何も変ってはいなかった。変ってもらっても困るが。

子供たちが先に駆け帰っていたせいで、出迎えには珍しくカインとヒルデ。

「お帰り。  たまにはいいモノだね。出迎える立場というものも」

と、優男が差し出すのは手。

「・・・何だ、その手は。 お手をしてほしいってか?」

「そのネタはルナにやったよ・・・」

「だろうな。 取り合えず、土産は乾貨とか干物とか海洋王国のドレスとかメイド服等々

あるけど・・・ヒルデに。」

「僕には?」

「ヤロウにやる土産はないっ  と言うのは流石に可哀想だからこれを」

とライがカインに手渡すのは赤い布キレ

「・・・・・・何だい、これは?」

「褌という、由緒正しき男の下着だ」

「・・・いらないよ」

「えいっ、贅沢者めっ!!! では褌はヒルデに・・・」

「殺すよ?」

「あげたらあげたで、二人っきりで楽しむ癖に・・・」

睨み合う男二人の間に、女の子達は本気で喧嘩を始めないかと戦々恐々。

二人は親友のはずなのだが・・・しかし、次の瞬間

「「ふははははははっ!!!」」

笑いながらお互いの拳をぶつけた。何度も言うが、二人は親友である。

今回の件に決着が着いてから数週間、一通の便りがもたらされた。

送主は・・・メザ=サハギ=アトラス。 アルトラス新国王。

内容は、海洋国家アルトラスは都市国家シウォングと友好条約を結びたいとの事。

一切の利害を求めず、ただ友として・・・

以下は近況に、姫と無事結婚式を挙げたが恩人であるライ達が居らず寂しかっただの

・・・内容が拙い事を思えば、近況は姫・・・妃が書かせたにちがいない。

 「何か面白い事でも書かれていらっしゃるんですか?」

「ん? ああ。 それは・・・」

と横のレイハに、ライは毎度の如く手紙を渡す。そして目を通す事暫し

 「・・・きっとイイ国になるでしょうね」

「ああ。 最初はどうなる事になるかと思ったが今回も・・・今回も・・・」

最初は満足げだった表情が己の言葉に引っ掛かり一転、何かにいぶかしむ。

 「ライ?」

「あっ、いや、なんでもない。今回も皆にとって良いようになってよかった」

 「そう・・・ですね。 それで御返事は如何はいたしましょう?」

「うん、友好条約の件は大歓迎だと。 後は・・・まぁ近況に

変らず元気にのんびりバカやってるって書いて置けば全部わかるさ」

 「・・・はい。」

一度出来上がった絆は容易に消えるものではない。心通じ合った友ならば・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・



(03.09/27〜04.01.22)



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■ep.11 LEGEND(前編)■

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