∴SHRINE∴
∴FANTASY LIVING THING PICTURE BOOK∴

■ EPISODE 10 ■
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その日、執務室で一帯を治める者として携わるライの元にその文はやって来た。

鷹よりレイハが包みを取り、ライへ手渡す。 ライはその文に目を通し、レイハへ

「要するに、連中は戦争する理由が欲しかったのさ」

「・・・返信はいかがいたしましょう」

「バカめ、脳みそ洗って出直して来い とでも書いとけ。 どの道・・・戦争だ」

「分りました。 では・・・

おバカさんめ、貴様の腐った脳みそを一度貴様の小便で洗ってみろ。

きっと少しは賢くなる。 シウォング領主 ライ=デステェイヤー

・・・これでいかがでしょう?」

「承認」

とポンとそのまま己の印を押してしまうライにレイハびっくり。

つまり、今回ばっかりは洒落抜きで本気に怒っていると。

最初ライが送った文の内容は、村を問答無用で焼討ちにした理由は如何? だった。

対し返答、つまり今受け取った文の概略は 

我領土の村を滅ぼした賊住まう村を裁いたのみ。更に慰謝料を要求する。

因みに、関して

村人達は妖魔により消滅。件の妖魔は我々が退治した。至急調査求む。

との概略の文は随分前、都市の殖民団を派遣する前に送ってある。

・・・これはライでなくてもぶちきれるというもの。 

今にもレイハが文を付けた鷹を放とうとした瞬間。

「ちょーっとまったぁっ!!!」

今にも飛び立とうとする鷹の脚をレイハは慌てて捕まえ、鷹はもがき翼をバタバタバタ

「な、何ですか?」

「この返信は出さない。」

「???」

「連中の望み通り戦争はしてやるさ。 万全の用意をして、俺達の領域でな」

どうせ王都に応援を頼もうと、ギリギリになるまで出さないのは目に見えている。

ライたちが負けかけならば領主失格として領地の没収を、

勝ちかけならば便乗して賠償金を頂くため。

一応、守護騎士団には内密に知らせておくが・・・

結局、この都市の力で勝利をもぎ取らなければ未来はない。そのための時間は必要。

「・・・向こうが気付くまでの間に、戦争の準備をするということですか?」

「ご名答。この戦争、敵は向うだけじゃない。 王都も、もはや味方じゃない。」

結局、己の大事なものを護るのは己自身しかないということ。

敵国の名は戦闘国家オブシディア。 

弱肉強食な戦士の誇りなどを掲げ古より隣国々へ掠奪を繰り返してきた鬼門。

対し、味方は・・・

 

時待たずして、都市の各所に看板が立った。

・・・戦争のため、我々から奪わんとする敵と戦うため兵を求む。

我こそはと思うものは以下の時間,以下の場所に集え・・・

内容はそれだけだった。 しかし、大抵のニュースは隠さず流している。

普通なら何が起きようとしているかが分かる。

当日、役所前広場には多くの人々が集り祭りの賑わいを見せていた。

屋台まで出ていたりして・・・さて置き

広場の端に作られた舞台、時間になって出てきたのは一人の青年。

ラフな格好でポケットに手を突っ込んだ余りにも場違いな。 瞬間、会場は静まり返り

ひっこめーっ!!! バカヤローっ!!!

罵詈騒音に石やゴミが飛び交い、青年は転げるように舞台の外へ。

舞台裏

「あたたたー(痛」

「だから言ったではありませんか。それじゃ誰かわかりませんよ」

「分っちゃいるけどね、それでもやってみたかった」

秘書風の女性レイハに叱られつつ、ラフな格好の青年なライは

戦闘服へ着替えマントを付け、大剣を携え再び舞台へ。

再び上がってきた人物、大将らしき者に今度こそ会場は静まり返った。

「俺がこの都市シウォングの領主をさせてもらっているライ=デステェイヤーだ。

ココに集った者達は戦う意志があると思わせて頂く。だが、今日は兵は集めない。

一度家に帰り大事な人達と話し合ってから後日、各所受付所へ来ていただきたい。

今日は単なる顔見せだ。この都市を束ねる者のな。

・・・それから、さっき俺に石ぶつけた奴、後で8番倉庫まできやがれ」

言われて、人達はさっきのラフな青年の正体に気付いた。 石、痛かったらしい。

会場沈黙。 それは怯えか、驚愕か、呆れか。

下がるライに代わり、秘書のレイハが前に立ち一連の説明を始めた・・・

この都市、本来領主の居城となるべき都市中央にある巨大な建物は役所として

公益の場であった。 しかし建築当初、無駄にデカイ言われていたこの建物も

騎士団が居座り各種本部の中心となれば、それだけの広さが必要となってくる。

会議には子供4人を除いた騎士団総員に、中間職以上の役人等

自警団隊長クラス以上など可也の人数が集っていた。

人種も都市が都市だけあって獣耳な獣人,背の翼で倍の場所を占領し形見狭い鳥人,

一見普通の人間種と区別が付きいくい亜人(エルフ,ドワーフ等)と多種多様。

円卓に各々長となるものが座り、その後ろに以下の者が付き・・・

「元々、俺ら騎士団は都市の外敵に対して存在していたからな。自警団からは・・・

軍の小隊長を勤められる者を自警団の運営に支障が無い程度に出向してもらおう」

「むぅ、我々は殆ど用なしか・・・」

「いやいや、治安の維持も大事な仕事。戦時の混乱に紛れバカする連中に

目を光らせてもらわないと。 それに、いざというときは最後の・・・」

「失礼。我が発言は余りにも軽率だった」

「いやいや。」

「経理部の方から話をさせていただいてよろしいでしょうか?

言われましたとおり領域内の村の備蓄,人口等を考えに入れ

計算をし直したところ、それで一年持つと・・・」

「・・・頑張って戦闘を済まさなければならないのは実際半年」

「・・・はい。」

「取り合えず、まだ出来る限り備蓄できるようにやってみてくれ」

「・・・私は戦争に反対だ。 賠償金ぐらい払ってやればいいのではないか?」

「連中は貰っても戦争を仕掛けるかもしれないぞ。

それに貴方は家族を護るのに、気狂に金渡して近寄るなと言うのか?

要は、そういうことだ。」

「・・・・・・(黙」

「質問、いいですか? 返信を送らず向こうが業を煮やし仕掛けるまでの間に

我々は戦争の準備を済ませるとのことでしたが、実際はどの様にお考えで?」

「多分、向こうがキれるのが3ヶ月チョイぐらい、それから進軍してくるのに2ヶ月

ズルズルと引き伸ばして一ヶ月稼ぎ・・・戦闘開始は半年後。サバ読んで5ヶ月」

「それは飽くまで目算ではないのですか? 実際そんなに巧く・・・」

「まぁ、確かに目算といえば目算だが、過去の予測に基づき導き出したから

こんなものだろう? 向こうだってプライドがある。準備してないものを

攻める恥ずかしいマネはしないさ。 それに境には見張りも置いたしな・・・」

見張り? 

今、都市には自警団以外そんな即戦力はない。

「ま〜〜〜、蛇の道は蛇?(ニヤリ」

一度、総会議を開いてしまえば当面の方針は決まってしまう。

悲喜交々、様々な問題,疑問を解消し新たな謎を生み会議は終了した。

それでも兵役部と自警団と騎士団の軍部会議は未だ続き・・・

「それにしても、集った人材は・・・半分が女子か(汗」

「騎士団も10人中6人が女性なんですけど・・・」

「それはそうと、この中から私らが見て適正有る者は貰っていくゾ?」

「多分1/5もいれば御の字だな。それ以上持っていかれても困るけど・・・」

「魔導院の募集の手間が省けちゃったんだから良しとしましょ。

戦争が終わればそのまま優先で入れるなら悪くはないでしょうからぁ。」

「戦争が終わった後の話とは随分気の早い話だが・・・せめて符術士程度には」

「私がいるのに、ンな生ぬるい事言うナ」

符術。特殊な符を触媒に魔導を行う術。 術を行うためには符が必要であるため

符術士は魔導士より格下に思われがちだが、違い符術士は元々身体が資本であり

速攻性が高い上、符を幾重も組み合わせ超高位の術を割に少ない時間で行う事も

不可能ではないので、優劣で比較自体すべきではない。

意外とこの戦争にやる気なのは女子軍なのかもしれないと思わせつつ

事態は進行していった。

 

時は戻り、宣戦布告を誘う向うの文が屋敷に届いた翌日。

裏街を一組の奇妙なカップルが歩いていた。 それは恰も主人と奴隷。

革ジャンにラフな格好で目元だけマスクで隠す男、いわずもかな と

その後ろについて歩き

鋲打首輪にビスチェ,短パン,ジャケットが全て黒革製の黒猫娘シエル。

仮面の男の前に立塞がるチンピラ達

「おう貴様、奇妙なナリしやがって・・・ココが何処かわかってるのか」

彼らから仮面の男の後ろにいるシエルは見えない。

止まる仮面の男にシエルが守るように前へ進み出、それを見たチンピラ達の顔色が変る。

シエルはここのヤクザ者達にとって、聖女(マドンナ)であった。

「この人が緊急の用で親分衆と話をしたがってる。案内してほしい。至急だ。」

「あ、姐さん・・・その男は」

「至急だ。」

カァっと威嚇するシエルにチンピラ達が下がる。

今まで喧嘩を仕掛けor襲い 負けた事はあっても怒られた事が無かった。

リーダー格のチンピラが指示を出し、走っていく子分格のチンピラ達。

「案内します。こちらへ」

促し案内するリーダー格に、シエルが仮面の男の横について歩く。

「・・・さっきの質問だが」

「はい?」

「この人が私に何という・・・。 この人は私の「親」だ。」

「だってさ。」

シエルに仮面の男もとぼけて返す。

「親」 勿論、父親のわけはない。ヤクザな意味の親か、猫な意味の親か。

何であれ、シエルが仮面の男を慕っていることには間違いない。

ある建物に着き接客間で待つこと暫し、更に奥の板間の部屋へ案内された。

中央に大テーブルその上座と下座のみ空いて左右はずらり。

ソコに揃っていたのは端のチンピラではチビるほどの面々。

「訳あって正体を隠したいので、不躾な格好だがこれで許していただきたい」

とシエルを従え仮面の男が座るのは下座。 固まる親分衆。

「一応、俺はここでは部外者だから上座は・・・ね。」

「・・・して、態々何用?」

「力を貸していただきたい。」

「・・・何故、我々が力を貸さねばならん義理がある?」

「義理? 自分の住処を愛し護りたい気持ちがあるなら十分あると思うけど?」

「・・・断れば?」

「そうだな・・・代わりにシエルが責任取って、酷い目にあってもらうとか?」

「???」

行き成り呼ばれ訳も分からずキョトンとするシエル。

そして、怒りに歯軋り,その酷い目に様々に顔色を変える親分衆。一部照れあり。

偶に裏街へやって来るシエルは親分衆にも実の娘の如く可愛がられていたりする。

「き、貴様にそれが出来るのか?」

「やらせないでくれってのは本音だな。 腹の探り合いはやめようぜ。

ヤクザ者はヤクザ者也にこの都市を愛してるし、俺はシエルに酷い事はしたくない。

最初っから話は決まっているんだ。」

「・・・そうであっても、裏が表へ頭を下げるわけにはいかん」

「俺も元々ヤクザな出だからな、気持ちは解る。 その気質、嫌いじゃない。

なぁ、表栄えてこそ裏もその蜜を啜る事ができるんじゃないのか?

・・・・・・頼む、この都市のため力を貸して欲しい。」

仮面の男は丁寧に椅子を退けると数歩下がり、そのまま土下座。

それはプライド云々ではなく、事の為なら如何なる恥をもかく覚悟。

「我々を侮るな。」

気配に、諦め混じりに立つ仮面の男と親分衆たちをシエルは哀しそうに見比べる。

が、その親方から続いた言葉は

「我等が今動かずして何時動く? 本来なら我々が頭を下げて協力を申し出るべき」

仮面の男の口元に浮かぶ笑み。 しかし、まだ続きはあった。

「ただしっ 貴様がシエル嬢に愛想尽かされたその時は・・・」

「随意に。 俺もその時は俺自身ダメだと思うからな。」

男の笑みを交わす仮面の男と親分衆をシエルはん?ん?と猫耳を動かしつつ見るのみ。

シエルが彼に愛想尽かす事なんか有得ないし、シエルは既に根っから彼のモノだから。

「望む者を望むだけ連れて行くがいい。 何なら我々からも言おう。」

「それは助かる」

しかし、建物の外に出てみればシエルと親分衆が何事かと路地に人がギッシリ。

それは皆、シエルを聖女と崇めるヤクザ者達だったり。

「所詮、男なんぞこんなものだ。」

「・・・だってさ。」

「ん〜(困」

ここにシウォング裏の軍隊、もといシエル直属部隊が発足した。もっともシエル自身

あまり深く考えない主義なので結局、関してライにまかせっきりなのだが・・・。


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■ EPISODE 10 ■

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