■とある騎士団の日常■
〜The Chivalry,s daily〜

EPISODE 07
Succeed Children

 

行き成りだが、騎士団 屋敷の朝は早い。

まずライ、7ッ半(午前5時)起床。

「・・・ｚ・・・ｚ・・・っ・・・ぅ・・・

ぐうううううっ（伸。　・・・よしっ!!」

寝惚助そうなライさん、意外に寝起きは良いようです。

下着のままコキコキと身体を解し、運動し易い服で静かに屋敷の外へ。

そのまま重しを手足付け散歩がてら全力疾走で暴れつつ屋敷周辺をランニング。

そういうものをランニングというかは別として・・・

6ッ(午前6時）前には屋敷に戻り、居間で何か飲みつつ一服。

他の面子が起きるのを待つ。

カイン、7ッ半4分刻(5時半)頃起床。

伸びもせず静かに起き、全身鏡の前へ来て全身チェック。

「・・・・・うん、問題ない」

何が？

そのまま鏡に己の姿を映しながら軽い柔軟体操を時間まで行い

6ッ(午前6時）前には身形を整え得物を持って屋敷の広場へ。

レイハ、7ッ半4分刻前起床。

「・・・ん〜〜っ」

と寝床で寝惚け眼に涙を浮かべつつ意外に可愛らしい伸びをし、

寝床から現した姿は・・・

着替えた女性用鎧下（レオタ？)の上に隠し場所を作るため軽く特殊ジャケットを羽織り、

スケジュールチェックを行うと小物を各部に得物を携え

6ッ前には屋敷の広場へ。

アルシア、7ッ半4分刻過ぎ起床。

「・・・んもぅ、いやになっちゃうわぁ」

そのまま起きようか起きまいか寝床で目の前の自分の髪を弄り悩み

結局6ッ前にはネグリジェから女性用鎧下（やっぱりレオタ？)へ着替え

鞭を持って屋敷の広場へ。

寝惚け艶やかでも直前ではちゃんと戦士の顔になるから凄い。

シエル、7ッ半頃にライの動く気配に目覚め、

「・・・・・・（ゴロゴロゴロゴロ）」

寝床で丸まったままライの暴れる気配を楽しみ・・・

6ッ(午前6時）直前、シャツ＆ショーツの姿で寝床から出ると

＋ショートパンツを履いただけで、顔を手でクシクシと拭きつつ

己の得物を携え屋敷の広場へ。

ルー、7ッ半頃

「・・・Z・・・Z・・・ば、ばかーっ・・・Z・・・」

誰が？

枕を涎でぬらし、寝言を言いながらも熟睡中。起きそうにはない。

6ッ頃

「・・・Z・・・あん・・もっと・・・しろ・・・Z・・・」

何が？

布団を抱締めクネクネと悶えながらも熟睡中。まだ当分、起きそうにはない・・・

アレス＆リオ

7ッ半頃アレスは目覚め、懐で穏やかな寝息を立てているリオを眺めて

暫し幸せに浸る。そして頃合をみて

「・・・もう起きろ。間に合わないぞ」

「ん〜〜、もうちょっとぉ・・・」

リオの頬をプニプニと突付いたりして起そうとしてみる。

当然、甘えて起きそうにない。

「・・・イタズラされてもいいのか？」

「ん〜〜〜」

「・・・その態度は肯定と取るぞ」

「ん〜〜〜」

そのままリオが着ている自分のシャツの中に自分の手を滑り込ませ

「んっ・・・あんっ、やぁぁぁ・・・」

作者的に一寸むかついたので省略。

で、6ッギリギリに動き易い服装のアレス＆リオが

「リオがさっさと起きないからギリギリだな」

「もぅ、アレス君が変な事するからじゃない」

と傍目では惚気ているしか見えない口論をしながら急いで屋敷の広場へ。

そして6ッ（6時）頃、屋敷の広場で

「ん、みんなそろったな。んじゃ始めますか？」

とライの一言で手頃な相手と実戦紛いの戦闘訓練を開始。

ちなみに、この戦闘訓練は強制ではなく自由参加なのだが

アレス＆リオはそう思っていない・・・

 

5ッ（8時）頃、屋敷で朝食の合図のベルが鳴り、それで戦闘訓練終了。

「おつかれ〜〜」

「お、お疲れ、様、です」

「だ、団長、厳しい・・・」

疲れ果て汗だくのアレス＆リオを除き全員軽く汗をかいた程度。

女子軍は近くの清川か屋敷の風呂場で水浴びをするのだが、

「「「「・・・・・・（睨」」」」

女子軍の無言の圧力に男軍は渋々台所裏(外)で汗を流し。

そして全員、適当な服に着替え、まだパジャマ姿のルーが待つ居間へ。

因みにルー、5ッ頃のベルで身体を起こして寝惚け眼のまま居間へ向い

居間の椅子に座ってオバちゃんが朝食の用意をするのを眺めつつ、ゆっくり覚醒。

そのままポツポツと面子が揃って行き

5ッ半(9時)には全員集合。

その時には既にテーブルの各々の席にはライ，レイハ，アレス＆リオが

用意を手伝った朝食が並んでいるのだが、

シエルは早く着いても手伝わずにソファに座って様子を眺め

アルシア，カインはおしゃれに身形を整えているためか時間ギリギリ。

で、5ッ半(9時)にライの

「頂きます」

の合図で全員が食事を始めたりするのは何故でしょうか。

因みに、世間一般では食事前に神へ祈りを捧げるものなのだが、ライ曰く

「神に何で祈りゃならん？　天候の変化は必然だし、それを読取って

作物を作るのは百姓さん。作物と百姓さんには当然としても、神相手ニャ

絶対やだね。　それを他人に押し付けるつもりはないけど・・・」

・・・ライさん貴方はダダッ子ですか。

ライ,アレスは恰も兄弟かのようにガツガツと食べ競い、

レイハ,アルシア,カインは優雅に、シエルは静かに早く、

ルー,リオはチマチマと

当然、ライ,アレス,シエル辺りはサッサと食事は終わるわけなのだが、

シエルはデカコップに牛乳で時間まで寛ぐ。

アレスもデカコップに牛乳で一気飲み・・・牛乳、嫌いなのか？

ライはデカコップにカフェオレを作って飲み・・・終わったら今度は

お茶を入れて飲み直し・・・

そのうち、みんな食事を終えて４ッ(10時) 一服し終えたレイハが

「では、仕事をしに参りましょうか」

「・・・・・・(え〜〜〜)」

「・・・怒りますよ？」

「ハイハイ」

やはりレイハの反応が楽しいからイタズラしてみるのだろうか。

顔芸をするライと共にレイハは執務室へ。

二人は主に昼まで其処でデスクワークをする事になる。

なんせ騎士団の館だけではなく領主の館としての意味合いも濃い。

当然その手の仕事もしなければならず・・・。

アレス＆リオもデスクワーク・・・というより勉強。

それはルーによる魔導学や歴史であったり、アルシアの薬学,医術であったり

カインの戦術,交渉術であったり。

因みにカイン、騎士のみならず領主使者として朝食後外出するのが大半。

そして、8ッ(2時)

メンバーの誰なりとが作った軽食をおやつに休憩。

アレス＆リオが来る以前は、ライが脱走し作ったモノを皆で強奪したり(ォィ

レイハが頑張っているライの為に作った軽食を皆で強奪したり（・・・。

今は勉強が終わったリオがアレスを手伝わせ作っていたりする。

因みに各々作るものは、

ライはボリューム優先,ソコソコの味で万能型だが斗出しているものがない。

カインは飲み物系のレバートーリーは凄いのだが、それだけ・・・論外。

レイハはサンドイッチなど手軽に早く食べられるモノがほとんど。

気まぐれにアルシアが作るモノは栄養優先､以下省略。食して屍拾う物なし。

シエルに至っては肉の塊。ルーは台所がグシャグシャになるだけで食べ専門。

その点リオは凄かった。出身がお嬢だけにレバートーリーは豊富、

メイドに混じって遊ぶタイプだったので家事の腕も申し分ない。

正に美女シェフ、御菓子でも料理でも何でもござれ。でも格好はメイド（ォィ。

大金星である。

因みにアレス、毒以外食べる事が出来ればゲテモノものでも火を通して全てOK。

腕以前の問題。　それでもリオのおかげで料理をする発想が出来る分

マシにはなったのだが・・・

和気藹々とおやつを済ませ8ッ半(3時)

その時点でデクスワークが終わっていれば、ライはアレス＆リオと共に行動。

それは家事であったり､掃除であったり、庭仕事であったり､休憩したり

＋誰かが参加して騎士の本分である戦闘訓練の特殊なものだったり・・・

偶にライが仕事から脱走,失踪して何処かで寝ていたというオチもある。

用事があったとしても7ッ4分刻(4時半)には終了。

そのまま6ッ(6時)の夕食まで自由時間となるのだが、

大抵みんな居間に集い和気藹々。実にアットホームである。

5ッ(8時)頃から各々が居間から自室へと戻り始め・・・

5ッ半(9時)には屋敷の居間の明かりが消え一日が終わる。

これはあくまで何も起きなかった場合の一日。事件は忘れた頃にやって来る。

当然全員に非番の日があるのだが殆どが皆屋敷に。

そのため頻繁に交換があっても非番の日はあって無いが如くが現状。

例えば、リオとアレスが町へデート(？)に行ったり、

アルシア,ルー,レイハの誰なりが町へ薬草,本,情報,服,等々を漁りに行ったり、

それでも屋敷から外出しているのは多くて3人程度。常に緊急事態に備えている。

 

シエルの日常だが、週二回屋敷周辺の森で狩に出たり戦闘訓練をする以外

屋敷で猫が如くゴロゴロしているのが常。そんなシエルでも町に行く事がある。

その日、ライとレイハがいつもの如くデスクワークを始めていると

こんこんこん

「うぃ〜〜すっ」

「・・・随分やる気がない挨拶だな？」

やって来たのは黒のレザージャケットにパンツでワイルドキャットなシエル

「じっさいやる気がないんですけどね、ライの場合は」

「俺、デスクワークより実務向きだし」

「そんなことを言える立場ではないでしょう。シエルはいつものですか？」

「ん、それで一応。」

「ああ、俺も後で町に行くかもしれないから」

「何かあったのか？」

「いつもの事です。また流れの商人がトラブルを持ち込みまして」

「珍獣が脱走したっつー、今回はちょっとキな臭い匂いがな・・・」

「だからライ自身・・・か。　私も気を付けよう」

英雄と凡人の差。　それはただ単に問題に巻き込まれのではなく

其処にある問題に気付き、自ら飛び込み解決しようとするか否か。

望む望まないは別として・・・

屋敷を出たシエルは軽快な足並みで森を抜け、町へ。

そのまま賑う表街をぐるっと人波の間を知り合いに捕まり騒がれる前に擦り抜け、

中央の公園で小動物が遊ぶ様を眺めつつ暫し休憩。

この町は獣人が多いせいか動物も多い。流石に大型肉食獣はいないが・・・

やはり猫(虎)系獣人は猫を可愛がり、犬系獣人は犬を従え、

翼(鳥)系獣人は鳥と戯れ、その他諸々

・・・各種各々自分達のやり方で隣人達と付き合う。

それでも異種間，同種間関らず、仲のいいの者と悪い者はある。

勿論､純人間や亜人，動物嫌いの連中もいるが

他者へ自分の考えを強制はしない。

嫌なら嫌で、理解出来ないなら出来ないで距離を取れば済むだけの事。　話戻り、

休憩に満足したシエルは再び散歩もとい巡回を再開。

職人街,倉庫街を動物達の様子を覗いつつ歩き抜け裏街へ。

裏街、ここは建物と建物が隣接した合間に出来たため昼間でも薄暗く、

建物には怪しげな店が口を開けて獲物を待ち構え・・・

その上、あちらこちらに怪しげな人物が居て昼間でも安全とは言い難い。

素人が迷い込み裸に引ん剥かれる事もしばし。

シエルも屋敷へ引越しの後、落ち付くまで暫く機会が無かったので

裏街の知らず来た時はチンピラに絡まれ・・・・・・色々大変だった。

今は顔パス、まったく大丈夫。挨拶がてら頭を下げるそういった連中に

シエルもピッと軽く手を降り返しつつ進み・・・今日は何かあったのか

いつもと違い随分騒がしい。

路の隅、向いから駆けて来る野良猫に対しシエルは

「にゃっ？」

対し野良猫は急ブレーキを掛けて

「ニャァー―ア」

一声発すると、また駆け逃げていった。これはシエルの「何があった？」に対し

野良猫の「危ないのがいるから逃げる」のニュアンスの遣り取り。

裏街の野良猫は場所が場所だけに負けを認める「逃げる」ことはしない。

でも「戦略的撤退」はあり。

つまり「逃げる」以上、そこには話しが通じず手に負えない相手、

実体化した妖魔(小物)等がいると言う事。

そうなった場合、処理するのは「人」の役目。

シエルは無言のまま野良猫が逃げて来た方向へ向い、

その路地突当たりにはチンピラが数人。

「・・・何かあったのか？」

「あっ、姐さん。いや、こんなのが紛れ込んで来まして」

と一人のチンピラが開け差し示した先には、傷付き汚れ威嚇する一匹の白い

「手負いの狼か」

確かに獣同士でも話は通じず、「人」も迂闊に処理する気にはなれない。

そもそもココの獣は傷付けば己の寝床に帰る。いつまでも外をうろつきはしない。

ということは、これは都市の勢力圏外から連れて来られ・・・

さて如何したものか。

「・・・私がやろう」

チンピラ達の前に出て、狼と向い合う。

「ウウゥゥゥ・・・」

唸り剥き出す牙は狂暴。噛まれれば大怪我は必至にちがいない。

一触即発、硬直状態の中で

「ニャ」

「ガアアアッ!!!」

と様子を見に来たさっきの野良猫の声に、反射的に狼がシエルに襲い掛かり

「っ！！！」

シエルは空かさず狼の首後を掴んで地に押え付ける。

「ガアア、ガアアアッ」

「凄い・・・力だ・・・（汗」

シエルは逃れ噛付こうと暴れる狼の力を巧みに逃がし抑え、

それを見たチンピラ達は

「姐さん、俺達も加勢を」

「来るなっ!!」

狼の力が獣のものと思えない程凄まじいため一人の方がかえって御し易い。

暫くして、それまでの疲労もあってか狼は大人しく・・・気を失ってしまった。

当然にシエル自身も疲れ

「流石です、姐さん。これは俺達で始末します。」

始末とは無論、殺す事。

見た処使える檻が無い以上大人しくなるまで置いてはおけない。

「・・・いや、公園に連れて行ってくれ。」

「えっ、あ、しかし・・・」

「私が面倒を見るなら問題はないだろ？」

「は、はい・・・」

シエルの指示通りチンピラ達は狼を公園の、丁度良い樹の影まで運び

後は狼の面倒をシエルに任せ､それでもチンピラ達は付かず離れず。

幸いチンピラ達が頼んでもいないのに色々貢ぎモノを持って来てくれるので

物に不自由はしない。おかげで狼の手当ては苦労せずに済んだ・・・

シエルの腹時計では、屋敷では疾うにおやつは済んだだろうか。

シエルが 狼が気を失ったまま起きない以上自分が運んで行くしかないか と

悩んでいると、その気配が接近してくるのを感じる。

そう言えば町に行くとか言っていたような・・・

気配通りやってきたのは

「よう、猫が犬連れて何やってるんだ？」

革ジャンにラフな格好のライ。まるで近所の兄ちゃんが軽く散歩しに来たよう。

「ん、ちょっと。それとコレは狼だ。」

そのライを単なるナンパ野郎と見た若いチンピラ×2、止める間も無く。

「おう手前、姐さんに何声掛けてるんだ？」

「失せねえと散らすぞ、あぁ？」

それに対しライは

「・・・・・・ふぁぁ」

欠伸なんかしてみたり。古株のチンピラが慌て止めに来るのを待って

「俺はやってもいいんだけどね、如何する？」

「うちの若いものが済みません。どうぞお気になさらずに」（古株）

「兄貴、止めないでくだせえ。」（若いチンピラ1)

「そうっす。こいつ、よりにもよって姐さんに」（若いチンピラ2)

「・・・姐さん？」

「私の事らしい」

「御二人は御知り合いで？」（古株）

「そりゃまあ・・・」

「ん。」

説明に迷い顔を見合わせるライとシエルの事情を察してか

「おまえ等、帰るぞ」（古株）

「「しかし・・・」」

「いいんだ、この人は。　どちらにしろ おまえ等の適う方じゃねえ。

行くぞ」

一人スタスタと先を行く古株のチンピラに裏街まで帰って、

やっと若いチンピラ×2は追い着き。

「兄貴ぃ、何であのヤローを放って置くんですかぁっ!!!」

「そうっス、姐さんをみすみす、あんな野郎に」

「・・・おまえ等、何故この町じゃ裏表関係無く奴隷が御法度か知ってるか？」

「「・・・・・・」」

ただ親方がたの「決り」でそう決っている以外知らない。

因みにその「決り」には、表では罪の売春について女子を保護する等事細く,

裏のトラブルを表に出さない等,他にも色々。　今や表の「法」以上に厳しい。

「覆面の若い男が持ってきたのさ。円滑に事を運ぶため

必要悪 裏にも多少の決りはいるってな。

それを元に親方がたが契ってモノにしたのが今の「決り」」

「「？？？」」

若いチンピラ×2はそれが一体何といった顔

「何故親方がたが何処の馬の骨ともわからねえ男に従わにゃならねえ？」

「「あっ・・・」」

「若い衆が皆一撃で無力化よ・・・無傷でな。　格言う俺も・・・」

そのままじっと己の手を見る。

そう簡単にノされる程自分は弱くなかった。　それを苦もなくあっさりと

まるで稽古をつけるかのように・・・あの時の戦慄、決して忘れる事は出来ない。

「あ、兄貴を・・・」

「強え上に、言う事に道理が通ってる。そして奴の言った通り、

なんでもアリの組が相次いで潰され、自警団の連中にしょっ引かれた。

所詮俺たちゃハグレの余所者。従わねえ訳にはいかねえ・・・」

やくざな連中の殆ど全てが町の繁栄に引かれ余所からやって来た。

そして今や、やくざ者達も者達なりにこの都市を愛し繁栄を願っている。

「そ、それがあの男と？」

「俺はあの男と面識はねえにも関らず、向うは俺を知っていた。

それにな・・・目がいっしょなんだよ。全てを見透かしたような・・・

シエルさんが覆面の男の関係者だとすりゃ、あの強さは納得がいく」

考えて見れば、彼等はシエルの容姿,強さ,優しさに惚れただけで何も知らない。

「・・・姐さん、一体何者なんだ？」

はっきり言って、彼等の天敵の御大。その一員。

「何者であろうと関係ねぇ。シエルさんは俺達の聖女（マドンナ）。

所詮やくざ者の俺達の出来るはぁ、幸せに成ってくれるよう祈る事だけよ。

シエルさんの心に奴が住んでいようが、尽くし尽くし尽くすだけぇっ!!!」

「あ、兄貴ぃっ！！！」

「漢の鏡っスっ！！！」

それは、やくざ者の涙を誘う実に見事な漢の心粋だった。

 

で、その頃、彼達の聖女（マドンナ）であるシエルは・・・

「で、また何でコレを助けようと思ったんだ？」

「この子が襲って来た時・・・瞳が怯えていた。」

血の如き深紅の瞳、その向う側にシエルは見た。嘗ての幼き自分が感じた同じ恐怖を。

「・・・・・・（怒」

「ん？」

「いや、何でもない。　んじゃ、コレは俺達で保護するとして・・・

専門じゃないから間違ってるかもしれないけど、コレ可也ヤバイぞ」

「！！？」

「体力が尽きちまってる。直、屋敷に連れ帰りたいが無理に動かすのも一寸な・・・」

犬系はスタミナが多い分、一度ダメージを負うとなかなか回復しない。

対し猫系は、スタミナ総量はともかくとして回復は大抵の種より早い。

「ライ、回復魔法使えるだろ？　この子に使ってやってくれないか？」

「ん〜〜、出来ない事はないけど・・・今、余り疲れたくないんだよな」

「・・・それなら私のをこの子に与えてくれ。出来ないとは言わせない」

「いや、確かに出来なくはないが・・・しばらく動けなくなるぞ？」

「端より覚悟の上」

シエルの目は決意に堅い。そして幸い人影はない。

「頑固者め、誰に似たんだか・・・。　また襲われても知らないからな。」

「大丈夫。一度屈服させた」

「獣じゃないんだから・・・・・・獣か」

渋々シエルを樹に楽に背凭れさせ、その膝枕に狼。

 

「きつかったら言え。始めるぞっ!!!」

所詮、攻撃魔法の応用。　気を使っても対象者の負担が多少減る程度でしかなく

「うっ・・・ぐああああああっ!!？」

身体からズルズルと奪われていく感触にシエルは身を振るわせ悶え・・・

第三者から見れば真昼間から妖しい事をしている様に見えない。

だが見る者が見れば、向けたライの右腕から出た陽炎の触手が

ゴソッゴソッとシエルの身体を貪り、

沿えた左手から狼へ生命力である光が注ぎ込まれる様が見て取れただろう。

「あっ・・・ああっ・・・あ―――っ」

ライがその触手を引き千切るかの様に腕を引いた事で魔法は解除。

シエルも艶やかに汗で肌を濡らし強張った身体が脱力、その身を樹に預けた。

「まあ、これで大丈夫だとは思うけどな

・・・俺、水取ってくる。　どっこらしょっ、と」

疲れたくないと言いつつ結局疲れてしまう男。

「・・・ふっ、嘘吐き。・・・（ゴロゴロゴロゴロ）」

いつもいつも余計な事をして、ばれないとは思わないのだろうか。

シエルは満足気に喉を鳴らしつつ、妙にダルそうなライの背中姿が消えるまで

目で追い・・・

 

目を覚ませば、見知らぬ猫女の膝枕で身体を撫でられていた。

いや、正しくは決死で襲い掛かった自分を屈服させた当人。

てっきり、そのまま殺されると思ったのに・・・

「？　もう大丈夫だ」

「ガルルルル・・・」

「唸るな。少なくとも私は敵じゃない」

頭を撫でる手とは別に目の前に差し出された手から感じる匂いは・・・愛情。

肉親から,仲間から感じる同等以上、もしかしたら幼き頃に・・・