「結局それ以降、誰も二人の姿を見ていないんだな?
・・・この件に関しては俺達から指示があるまで自警団は深入りするな。以上」
仲間の無帰を一つの情報として扱い、
生屍が大量と考え自警団が迂闊に出れば犠牲になると判断。
会議室(ライの家)に集まった自警団部隊長達が帰り残ったのは
今やたった5人、騎士団の面子。
「ルー、生屍の活動に周期みたいなものはあるか」
「(ホジホジホジ、ピッ)・・・新月は死の月、亡者に力を与える」
新人3人が一気に減った事を微塵も気にしないルーは平然と応答。
つまり、新月に生屍は最も良く発生,活発に動き回る。
「・・・間が無いな。当分自警団は町防衛に専念させる。
次の新月に決着させる方針で一通り計画を立て、それから協力させよう。」
鼻からフゥと息を漏らし目を細めるシエル
もう頭の中で計画を立てつつ当然とばかりに頷く3人。
憤怒,悔恨,悲嘆。ライの平然を装う裏側にあるのがシエルに見えた。
「・・・ライ、もしライに何かあったら私が悲しい。私だけじゃない皆も。だから」
「ふぅ、お前に気遣われるとはなぁ・・・。
大丈夫、俺はボロボロになってもまだ死ぬ気はない」
そういう事を言っている訳じゃない。シエルの猫耳が呆れ、ヘたった。
アルシアは回復剤の量産,カインは町の応急防壁の指導,ライは墓穴(?)の場所の検討
一人することが無くその辺をうろつこうとしたシエルを追っ駆けて来たのは
ようじょルー。
「ちょと待て。歩く速度、速いぞコラ(はぁはぁ」
「ん? 如何かしたのか?」
「ちょっと御前とノンビリしたくってナ。皆ギスギスしていかんヨ」
・・・取って付けた理由。まあ何でもいいから話がしたいと
「・・・行くか?」
そう言ってシエルが指差す先は
「上?」
シエルはルーの幼身体を小脇に抱え ひょいひょいひょいと屋根の上へ
そのまま陽の当る屋根の上で脚を投げ出して座り、
開いた脚の間にルーを座らせて後からギュッと抱締め。
「おおう!!?」
ルー、何やら凄く感動している模様。
「・・・ライは何故あんなに自分を責めるのだろう」
「優しいだけの男じゃないからナ。 もう少し気楽に考えられんのかネ」
「私はライの側に居られれば・・・居心地さえ良ければそれでいい」
「・・・もしライに恋人が出来たらどうする?」
「・・・別に。側にいるだけ」
「一途だナ、シエルは。 本当にライの事が好きなんだナ」
「ん? 私はルーの事も好きだぞ。 イイ匂いがするから・・・
花に香り・・・、ミルクの香り・・・、日向の香り・・・、ライの香り・・・」
ギュッ ゴロゴロゴロゴロ・・・・
「おおう!!?」
こうなるともはやルーは抱き人形と差して変らない。
シエルは目を細め咽喉を鳴らしつつ抱擁し、陽は暮れていった・・・
新月が近づくほど生屍の被害は増えていく。
日が沈むと同時に生屍は動きだすと田畑を荒し・・・
幸い、夜に町の外へ出歩く者はいないため人の被害は少ないが
それでも生屍が町の中まで侵入するのは時間の問題。町の評判にも関ってくる。
対し、立てた作戦は町から程なく離れた森の中に大穴を穿ち
生屍をそこに集め一気に燃やし尽くす。
この作戦の要はルー。その脚となるのがシエル。
ライは生屍を引き寄せ最後まで大穴に引き付ける最も危険な囮。
単純明快、いつもながら相変わらずの作戦である。
日が沈み、ルーが「流星撃」で穿った大穴に目立つよう煌々と「灯」が輝き
その下には釣餌であるライがいつもの装備にガンベルト如く回復剤を幾つも携え
「うっっしゃああああああ!!! 来いやあああああっ!!!」
そこまで響く戦叫に木の枝の上のシエルの猫耳が思わずペタとねた。
「確かに叫ばんとやってられんナ、こんな仕事。」
と隣のルー
「ならば逃げればいい」
「ライがそんな器用な事が出来ると思うか?」
「・・・だから私達が支える」
「そういう事だ。今は耐えろヨ」
二人の下、無数の生屍が歩いて行く。眩いばかりの命の煌きを放つライの方へと。
今はただ気配を殺し時が過ぎるのを耐え忍ぶのみ。
「をらっ!!!」
轟っ!! 斬っ!!
モゾモゾと蠢く骸の上、また一体ライの斬撃に首を跳ばされ、
返す剣で四肢が落ちた。
ルーの付加魔法で刃が焔を纏うため、一度斬った生屍がすぐ蘇えることはないが
それでも量が桁外れ。 また隙を見て剣片手に
もう一方で回復剤の小瓶をベルトから取り、指で蓋をとばして呷り空瓶を捨てる。
「まだまだまだまだあああああっ!!!」
独りでどんなに疲弊しようとただ雄叫び斬っては加速度的に回復剤を消耗の繰返し。
既に深夜も過ぎ、二人の下を生屍が通らなくなってどれくらい経つか
「・・・よし、シエルいくぞ」
「おうっ!!」
ルーの幼身体を小脇にシエルは木の枝から枝へ飛び移る。
そうして辿り付いた森の縁には一息で走り切るには到底無理な程巨大なクレーター。
その巨大な墓穴の中にはギッシリと生屍が集まり、骸の山の上でライが剣を奮っていた。
シエルに護られつつルーは呪文詠唱開始。
クレーターの縁に結界が発生し始める。
それにライはルー達の方へ炎真空波を放ち出来た道を遁走しようと駆け出すが
「あっ!!?」
「あのバカ・・・」
途中でこけた。
そもそも腐気の中でン時間も戦い続け、脚に来ないはずがない。
それでも何とか立ち上がり剣を支えに一歩一歩前に進む。
「急げええええっライっ!!」
後には迫る生屍。
「・・・・・・ライを助けに行く」
「あっコラっ!!」
シエルはルーが止める間も無く飛出しライの処へ。
そして肩を貸し・・・二人の歩くスピードが落ちた。
恐らくはシエルにライは気力が抜け動けなくなってしまったか。
シエルも腐気の影響を受け始めたか。
ルーは今、別の魔法を使うとこの魔法が解除されてしまう。手助け出来ない。
だが、いざとなれば
「・・・いっそう作戦中断で二人を助けるか」
「その必要はないよ」
「お、御前等」