虫神

「人を喰らう者」の名を冠する密林の守護者

土地神としても敬われているこの妖虫には「神」たる尊厳や理性など、欠片も持っていない。

「本能の赴くままに」

生存領域「なわばり」に侵入した者を捕食する事が、彼が我らに与える「恩恵」である。


遙か東の密林地帯に居住するグルド族が、現在この妖虫を「守護者」として崇めている。

そこでは年に二回、乾期の季節と、雨期の初めに生け贄を捧げる風習があるという。

前者の生け贄は、「守護者」が餌を求めて「テリトリー」を自分たちの村にまで及ぼさないように、

「餌」として。

後者は、繁殖期を迎えた「守護者」に苗床を提供するために。

「神の花嫁」と呼ばれながら。



今回、報告者は「神の花嫁」に付き添い(無断で後を付けたらしい)、禁断の森に足を踏み入れた。

「花嫁」に選ばれたのは、「角付き」と呼ばれる亜人の娘。

祭壇と呼ばれる石柱が並ぶ地に「花嫁」は放置される。

前夜にしこたま酒を飲まされたせいか、なんらかの薬を投与されているのか、

彼女は逃げだそうともせずにその場で放心状態で佇んでいる。

そして、

待つこと数分・・・

村とは正反対の密林から「神」は現れる。





産卵期に「人喰らい」の腹部が異常に膨張していた理由、それは「子」を宿しているのだとされていた。

この「花嫁」の儀式も、産まれた子供に「人の味を教える」物であろうと予想されていたが・・・

実際は違っていたようだ。

何故なら「子」達が群がる部位は、身動き出来ぬ娘の下半身のみであり。

しかも、「汁」を胎内に吐き出した「子」達は次々と娘の体から離れ、動かなくなってゆく。

「アレは・・・奴の・・・生殖器だったのか?」

いや、むしろ「精子」が進化した物なのかも知れない。


数十匹の「子」達全てが、その役目を終えるのに数時間、

辺りには一面に生々しい匂いとモヤのような白い湯気が立ち上っている。

娘の腰の下には、「子」達の死体と、彼等が吐き出した「性液」の沼が出来上がっていた。




壊れてしまったようにピクリとも動かない少女を、「守護者」はくわえ上げ、

森の奥へと連れ去っていく・・・・



東部教会、危険生物調査官による「マンイーター報告書」より。



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