■No.44■
遺跡発掘品4品目の内の一つ、
ゾメイン遺跡、初期捜索時に発見されていた発掘品です。
「No.13」と共に本国に送還されていましたが、先日、教会内における度重なる実験の結果、起動に成功しました。
ただ・・・
「守護神」の起動は成功しましたが、何か問題が起こっているようです。
生け贄にされた「獣の血族」の娘に、守護神が”降りた”らしいのですが、
この守護神「No.44」は”思考依存型”・・・”ヒト”に神力を貸与する性質であったようです。
実験担当の神官が先走り、贄(ニエ)の命をその時点で奪ってしまっていたため、
神力により生命再生、魔導力を付加された「獣の血族」は”混乱”し、
儀式を行っていた神官、信者ら数名を殺害、逃走しました。
「13」に引き続き起こった、死者を出した不祥事に、
教会内部での遺跡品調査の管理体制が問われているようです。
神殿管理者
■事件詳細■
王都内での被害者を多数出した「No.13」起動事件により
遺跡発掘品に関する調査は、王都より比較的離れた都市の教会で実験、研究されていた。
そして、先日
魔導機「No.44」は、古代語のキーワード
「Ax」
・・・を唱える実験の最中に、突如起動した。
真言を唱えるとほぼ同時に”神像”は砕け散り、
中から「黒く輝く、真白き羽の生えた珠」が現れ、静かに、生け贄となった少女の遺体に舞い降りる。
珠のような「ソレ」は、自ら、少女の失われた心臓の機能を補おうとするかのように、開いた胸の中に収まった。
”生け贄”となり、胸を開かれていた「獣の血族」の少女
その胸に開いた傷口が見る間に塞がり始め、祭壇に流れ出した血液が逆流する。
「おぉ・・・・奇跡だ!」
「神よ・・・!!」
後に起こる悲劇を知らず、神官達が口々に感嘆の言葉を漏らす。
邪神が好むとされる、死への苦痛、恐怖、憎悪・・・
これらを引き出すために、少女は”生きたまま”胸を開かれ、心臓を摘出された。
今回に限った事ではない。
実験と称される儀式では、その都度、差別、迫害の対象となっている”亜人”の命を使用する。
「彼等は「ヒト」ではない、獣なのだ」
果たして聖職者の言葉なのだろうか?
だが、実際に「亜人」の命を軽んじた実験は綿々と行われていた。
そして今回、この教会の傾向が仇となる・・・
死より帰還した少女の記憶には、まざまざと、自分が死んだ瞬間・・・
神官が、躊躇無く、自分の胸に突き立てた刃物のイメージが残っていた。
恐怖に目が見開かれる。
「いやぁぁぁ!イタイ!イタイよぉっ!!」
既に傷一つ残ってない胸に手を当て藻掻く少女、
「助けて・・・イヤだ・・・死にたくない・・・!」
笑い声が聞こえる
復活の奇跡を喜ぶ神官達の笑い声だ。
だが、少女には違った。
自分を虐げ続け、陵辱し、命を奪った「敵」達、
亜人をヒトと認めず、自分の邑を焼き払った「簒奪者」達、
(うぅ・・・!)
混乱などしていない、純粋な敵意が少女の中に湧き起こる。
彼女の意志を感じたかのように、
「No.44」の神像が握っていた巨大な戦斧が宙に浮き上がった。
笑い声が止まる
戦斧の近くにいた信者が、
少女に刃を突き立てた神官が、
祈りを唱えていた女官が、
一緒くたに、物凄い力で引き千切られ、切り裂かれ、押し潰された。
千切れた身体が聖堂の中を吹き飛び、舞い上がった血煙が視界を赤く染める。
泣き叫ぶ、力無き者
弱き者を嬲る暗き感情
皮肉にも、神の器はその持てる力を、命を弄んだ者達(ヒト)に対し、如何んなく発揮したのである。
大量の血と肉片が、聖堂の床と壁を朱に染め
残酷な静寂が訪れたその場所に
神の力を受け継いだ少女が佇んでいた。
「森へ・・・帰ろう・・・」
この言葉を最後に、「No.44」は我々の目からその姿を消したのである。
人丸 2001/11/22
「SHRINE」
|