■ 木の鳥籠 ■
〜少女の腹を借り増殖する植物〜
この樹木は、かつて拠点防衛に使われた自立型生物兵器のなれの果てと推測される。
元々は他種の生物兵器と連携しての運用が目的であったろうが、現在では知る術もない。
その高さは大きなものでもせいぜい十数メートルであるが、幹は成人男性でも抱え切れぬほど太い。
この手の生物兵器の常套手段として、催淫性の匂いを出して人間をおびき寄せ、
地表に出た根に触れた者を丈夫な根の檻に閉じこめる。
捕らえられた獲物が若い女性でない場合は檻は時間をかけて開き、獲物は大抵無傷で逃げることができる。
若い女性であった場合でも、すぐには犠牲にはならない。
何故ならこの木が目指す獲物を捕らえられることはその性質上まれであるから、
確実に目的を遂行できるよう、獲物を「十分に仕上げる」ことに時間が費やされる。
木はまず、女性の肛門に長い細管を慎重に差し込む。この管は、
獲物が命を失うまで終始入れられたままであり、多彩な役割を果たす。
管から最初に流し込まれるのは、共生関係にあるスライムの一種で、
人間の腸内の排泄物を分解する性質を持つ。
また多くの毒素をも無害化するので、獲物の健康に大きく貢献する。
この状態で少なくとも1ヶ月、獲物の体調は注意深く見守られる。この間に救援が来れば、
獲物は多くの場合全く無事である。スライムは木から離れると死滅する。
木が獲物の体調のサイクルを完全に把握したと判断した時
− 十分にタイミングを見計らった上で − 管から強力な催淫性の樹液が注ぎ込まれる。
獲物の「女」を刺激し、その後の結果を確実にするためだ。
次にこれは個体にもよるが、おおむね成人手首程度の太さの輸種幹を膣に挿入し、
直接子宮内に幾つかの種子を含む樹液を吐き出す。
輸種管は種子の(人間の受精卵と同じように)着床が確かめられるまで入れられたままにされ、
その後ゆっくりと引き抜かれる。
その後7ヶ月目まであたりは獲物は大抵生きている。細管から栄養が注ぎ込まれ、
種子は柔らかい状態で獲物の胎内で育ち続ける。
種子の除去手術を行えば助けることが可能である。
7ヶ月を過ぎる頃から種子は堅くなり始め、手術は困難になる。発芽すると手遅れ。
発芽した種子は子宮壁、ついで全身の内臓に根を張り、
獲物は緩慢に死に至る。せめて早い段階で根が心臓を貫いて即死できることを祈るだけだろう。
「どうしよう、あのイヤリングはお祖母さんに貰ったばかりなのに…」
少女は道から数メートル外れた草むらでしゃがみ込み、探し物をしていた。
朝早く起きてやや遠くの都へ買い出しに行く途中、
羽虫をはらいのけたはずみにイヤリングが外れ飛んでしまったのだ。
「確かにこの辺に…」
その時、風向きが変わったのか少女の鼻先に芳香が流れて来た。
少女は探し物に夢中で、その香りにしばらく気付かなかった。
数分後にようやくイヤリングが見つかった時、少女の神経はかなり犯されていた、が、
それでも森歩きの経験がもう少しだけあればまだ引き返すこともできただろう。
好奇心から更に十歩ほど森の中に足を踏み入れたことが致命的な分かれ道だった。
匂いの元を探して見回す間に少女の意識は急速に正常から遠ざかり、
ただ匂いの強くなる方向へと進むことが何よりの目的であるように思えてきた。
どれぐらい歩いたか、少女が何かの木の根を踏みつけた瞬間、
堅い根の群れが弾かれたように地中から飛び出し、あたかも大きな鳥籠のように彼女を囲い込んでしまった。
「な、何…?」
芳香は少女の驚きをも緩慢にしていたが、
それでも己が何かのっぴきならない事態に巻き込まれたことを知覚する程度の意識は残っていた。
少女が根の檻の向こう、幹太の樹木から蔓状の触手が伸びてきたのに気付く頃には、
もう芳香は薄くなっていたために意識がかなりはっきりしてきていた。
勿論脱出を試みはしたのだが、足下の地面を少し掘り、
そこにも根が張られているのを知ってはあきらめざるを得なかったのだ。
根はよく見るとつるりとして柔らかみさえある表面をしていた。
蔓状の触手は少女の脚に絡みつき、緩慢な動作で服、さらに肌着の下までも潜り込んできた。
少女は脚をばたつかせ、手でもって触手をひきはがそうとしたが、
触手の力は思いのほか強くちぎれるような物でもなかった。
触手は陶器職人が指先を動かすような慎重さで、しかし職人特有の着実さで、
やがて股間を始めとした少女の全身を絡め尽くした。
小一時間も触手はなめらかな肌を味わうかのように這いずっていたが、
少女は己の服や下着の下で触手が這い進むたびに複雑な感触を感じていた。
やや粘液を帯びた触手から肌にしみこむそれは生理的な快感であったかもしれない。
それももっともなことで、触手は己も獲物もなるべく傷つけたくはないのだ。
どれぐらいそうされていただろうか、やがて来た時と同じような緩慢さで触手は戒めを解いて去っていった。
やがて日が暮れ、少女は底知れぬ不安と空腹でしばらく泣いていたが、疲労もあって知らず眠りに落ちた。
深い眠りの中、不快感とも快感ともつかぬ違和感を覚えた少女は、尻に手をやってぎょっとなった。
弾力を持ったひも様の物が自分の肛門から伸びており、
しかもそれは今なお自分の中により深く身を潜りこませ続けているのだ。
少女はすぐにそれを引き抜こうとしたが、
それが昼間の触手であることに気付くと抵抗の無駄であることをも悟った。
少女は腹の中を食い荒らされる恐怖に青ざめ、何時間も闇の中でまんじりともしなかったが、
やがて触手の動きが止まってしばらく何事も起こらないためにいつかまた眠りについた。
次の日少女が目を覚ましたのは昼前であった。
肛門に挿し込まれた触手は全く動かず、少女の与える刺激に何の反応もしなかった。
少女は触手とその先の木を視野のはずれに置いて座り込んだ。
日の傾く頃、突然触手がぶるっと震動し、少女をびくりとさせた。
体内奥深く、腸内に何かが吐き出される感触がある。
触手を見るとそれは一回り太く弾力を増し、中に何かが詰まったような状態に変化していた。
やがて少女の腸は得体の知れない物体に満たされ、彼女の腹はわずかに膨らんだ。
昨夜ポケットのパンを囓ってから何も食べていないことを考えると、注ぎ込まれた量は見た目以上だろう。
腹のなかで触手とは別の何かが、触手よりもさらにゆっくりと流れる感触がある。
それは不気味ではあったが不快感は無かった。
そういえば妙に空腹感が満たされている。ふと触手を見るとそれは元の太さに戻っていた。
それから何十日か、少女が足下の小石を並べて数えたところによると35日間は同じような日が続いた。
朝昼晩、触手が何かを流し込んでくれるおかげで空腹は感じない。
腸内の物体が流れる感触はいつか気にならなくなり、意識しないと感じるのは難しかった。
変わったことと言えば17日目に月のものが来た時、触手がいつになく活発に体内を動いたことぐらいであった。
それも数日で次第に止み、徐々に元の日々に戻った。
まだ暗くならない内に触手が活動を始めた時、少女はかすかに訝しく思ったが無関心でもあった。
それが少女の最大の地獄の始まりであった。
腸内に何か熱い液体がぶちまけられた。腹の中、ついで全身がかっと熱くなる。
少女は自分の頬が上気するのをまざまざと感じた。
一挙動ごと、体を揺らすごとに全身に油がたゆとうような快感が弾ける。
少女は自慰とも言えぬ幼稚な試みの経験しかなかったが、
ぎこちない手つきで秘所に触れると未知の快感が走った。
つと、秘唇から彼女の手は押しのけられた。
少女の潤んだ目に、彼女のふくらはぎほどもある新たな触手が映る。
それは蔦状の触手とも違い、茶色味がかっていて先端が二重の管のようになっている。
外側の管口には幾つかの種類の繊毛が生えそろい、優美に揺らめいていた。
触手はしばらく秘唇に先端の繊毛を這わせ、
わずかに分泌され始めていた愛液を舐め取っている風であったが、やがて液が量を増し、
彼女の肛門に繋がった触手をも濡らすほどになると緩慢に膣口へと進み始めた。
少女の身体の中心に衝撃が走った。
わずかに抵抗を見せた弾力ある膜はたわんであえなく破れ、
やや太すぎる触手は着実に膣奥へと進み始める。
少女はこれまでの快楽を全て忘れ、
一瞬息を呑み込んだ次の瞬間自分を引き裂こうとする痛烈な暴力を感じた。
やがて少女の子宮口に到達すると、触手はそれまでの流儀に忠実に、
慎重かつ着実に繊毛の一種類を使って子宮口を拡張し始めた。
やがて楽に通れるまでに拡張された入り口に、内側の管がゆっくり子宮に侵入し、
なおも慎重に位置定めをする。
ようやく咆吼した触手から噴き出す種子混じりの樹液が子宮を満たし、
スライムとは別の物体が少女の腹を膨らませた。
こぼれ出ぬように押さえる繊毛の間を縫って、血混じりの樹液が仰向けに放心する少女の股間を濡らした。
後日談
少女は2ヶ月後、奇跡的に救出された。この木は自衛機能としてかなりの偽装を行い、
獲物が居る間は芳香も出さないとはいえ、
それでも発見と駆逐は比較的容易なため、
このような開けた所に生き残っていようとは思われなかったのである。
少女を知る者は都会で犯罪に巻き込まれたと考えていたのだ。
彼女は長じてからは古代生物兵器の研究に身を投じ、
生物兵器の捜索・駆除現場にも積極的に参加している。
彼女が王立大で博士号を取った時の論文は並はずれて優れたものであったが、
その理由を彼女から聞けた者は誰も居ない。