∴SHRINE∴
∴FANTASY LIVING THING PICTURE BOOK∴

■ EPISODE 02 前編 ■
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■ とある騎士団の日常 ■
〜The Chivalry,s daily〜

EPISODE 02
前編

 


闇に漂う無数の燐光。 云うならばココは現世と霊界の狭間と呼ばれる場所。


そこに一つ、今にも消えそうに瞬く魂が。 普通、魂がこれほど傷つく事は無い。

魂が多少損傷しようとちゃんとした肉体があればその中で保護され回復するし、

既に魂のみの存在であろうと回復は出来る。よっぽど酷く消耗していない限りは。

その彼に近づく異様に輝く一つの魂。これは志半ばで倒れ、現世に未練を残してるから。

・・・応えろ、青年。

・・・・・・・・・眠い。

彼を襲うのは破滅の眠り 転生を許さない魂の霧散,完全消滅

・・・眠るな

・・・・・・・・・眠・・・い。

・・・このまま消えれば仲間が悲しむぞ。

・・・・・・・・・それは・・・嫌だ・・・困る・・・でも・・・眠い

・・・むぅ、どちらが勝っても・・・未来への「希望」が残るはずであったのに・・・賭け負け

・・・「希望」が失われるとは・・・私が原因とはいえここまで・・・責任をとらねばな。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・応えろ、青年っ(怒)!!!

・・・・・・・・・眠

・・・お前にはまだ成すべき事がある。・・・これは義務であり、権利だ。

・・・私の魂を分け与える、仲間の元に返るがいい。

・・・そのために・・・・・・必要なものは・・・・・・すべて・・・・・・揃った!!

・・・・・・・・・何でも・・・いい・・眠い。

今、彼を支配しているのは復活へ回復の眠り。 自らの身体へ魂は緩やかに降りていく。

 

事の翌日早朝、フェイが目を覚ましたのはエンジェの部屋。

「ふにぃ、おはよう えんじぇ。・・・如何したの、顔色悪いよ?」

「・・・ん、そうかも知れない。」

毎度、毎度が如く何故自分が妹の部屋で寝ていたかは気にならないらしい。

それに寝坊する事はあっても早起きする事がない自分がもう起きているという異様な状態も。

「私ね、嫌な夢見ちゃった。らいがみんなのために死んじゃうの。 そんな馬鹿な事ないのにねぇ?」

「フェイちゃん・・・・・・」

「らいって他人も活かして自分も生きる感じじゃない? 多少無茶してでも。ホント、変に器用だよね。

後っ、後っ、バカで助平っぽいのに全然そうじゃないしね。優しいし、意外に真面目だし・・・」

「フェイちゃんっ!!」

「うにぃ、えんじぇ怖い顔。美人が台無しだよぉ。 気持ちいい朝なんだから笑って笑ってぇ」

「フェイ・・・ちゃん。」

「よしっ、私の安眠を邪魔したらいを叩き起こしてやろう!! 悪戯、悪戯、うっしっしっしっ(笑)」

着の身着のまま昨夜普段着のままで寝たフェイはそのままの格好で部屋を飛び出してしまった。

エンジェも慌てて後を追う。既に部屋の前にフェイの姿はなかった。

だが、行き場所は分かっている。

・・・・・・・・・

主が居ない寂しい部屋の中、ベットの前で一人ぽつんと立つフェイ。

「うにぃ、もう らい居ないよ。今度は勝てると思ったのになぁ(寂)」

フェイがライに勝つ機会がもう永遠にないことをエンジェは告げる事が出来ない。

だから、せめて今ライが居る所に連れて行く。エンジェが出来る唯一の事。

「え、えんじぇ、手痛い、痛いよ。何処行くの?」

多少強引、フェイが痛がっても引っ張って行く。 そうやって連れてきた所は・・・・・・

「えんじぇ〜、ここ霊安室だよー。 こんな処より他所行こーよー(泣)」

台に横たわる一体の遺体に、だたでさえ暗い部屋はより一層暗い。

普通に考えるなら可也悪質な悪戯でしかない。 普通なら。

「フェイちゃん、その人の顔を見て」

「ヤダ。死んだ人の顔なんて見たくない(怒)」

「お願い、見て・・・」

エンジェに泣かれてはフェイも否とはいえない。そもそも、エンジェは悪戯をしない。

「・・・う、うわぁ、この悪戯って悪質だぁ。これはいくら何でも趣味悪すぎるよねぇ、えんじぇ?」

台の上に横たわるライ。 顔は傷まみれで頭と腕を包帯で隠し、一応それなりの体裁は整えられているが。

肌に生気は無く、息もしていない見事な演技。本物の死者の如く。もし、これで生きているなら男優賞もの。

「・・・違うの、違うのよ、フェイちゃん」

流れる涙は友を失った悲しみより、現実を認めようとしない姉が余りにも哀れだから。

「ほらほら、らい起きて。 もう悪戯は終わりだよぉ〜?」

笑みを浮かべフェイはにこやかに語りかける。それでも決してライの身体に触ろうとしない。

「起きないと嫌いになちゃうよ〜。うりうりうりうり」

台を揺すってみる。当然、反応は・・・・・・ない。

「起きてっ、起きてぇっ、起きてぇぇっ、起きてぇぇぇ、」

笑顔にも関らず、フェイの目から流れる涙。そして悲しみが

「お願い、起きて、起きてよぉーー。こんなのヤダよぉーー」

本当は分かっていた。でも認めたくなかった。

認めれば真実が事実になってしまうから。 本当に、ライが死んでしまうと思ったから。

でも、我慢の限界

フェイは冷たくなったライに胸に顔を埋め、声を押し殺して泣く。

昨夜枯れるほど泣いた涙は、まだまだ枯れる様子は無く湧き続ける。

失った肉の代わりに綿を入れ包帯を巻いた腕は悲しいくらいに柔らかだった。

 

昼間は墨を流したような曇りも夕方には血のような黄昏、彼らの帰還は敗軍の様相のそれ。

突入者20余名、重傷者なし、軽傷多数、死者一名。

神と等しきモノを相手にして勝利し、圧勝ともいえるこの結果にも関らず。

「我々の勝利にいったいどれだけの価値があるのだろう・・・」

命と引き換えに与えられた勝利にそんな事を言ってはいけないことは重々承知している。

しかし皆がそう思い、誰とも無く口から零れてしまった。

誰も死なない事が当然となった今、死者が出る事,

殉職者を出させなくした人が死んでしまった事は敗北なのかもしれない。

誰が死のうと時は止まらずに流れ続ける。 

突入者20余名、必要が無い一人を除き全員に帰還直後から与えられた数日間の休暇の初めを

ある者は仕事に溺れ、

ある者は酒に溺れ、

ある者は女に溺れ、

ある者はこれが夢である事を神に祈り、

ある者は何をする事も無く相方と無言で過し、

ある者は涙で枕を濡らし、 泣き疲れて眠り

・・・万人に等しく朝はやって来た。

「・・・ついに寝るまもなく朝になってしまったな。 フェフよ、私に気にせず休め。」

「・・・はい、貴方が休まれれば私も休ませて頂きましょう。」

王都守護騎士団駐屯地執務室。オーディスは帰還そのままに鎧を脱ぎ捨てた格好で一晩何も出来ずに過した。

そして、気遣いオーディスに付き合ったフェフ。

「・・・王国ヴィガルド最強の騎士・・・今となってはコレほど腹立たしい称号はあるまい。」

「・・・・・・・・」

「・・・アノによって更新され続けた殉職者0の記録が

よりによってアレによって止められるとは・・皮肉だな」

「・・・・・・・・」

「・・・もし、我らが子が無事に成長していたならアレのように逞しく育ってくれただろうか」

「・・・・・・・・」

怒り,悲しみ,後悔、あらゆる感情が入り混じった脈絡のないオーディスの戯言。

それに黙って頷くフェフにも言わんとすることは分かる。

二人とも、生まれ育つことなく亡くなった我が子にライを重ねていたのかもしれない。

「・・・本当にライは死んだのか? 私には悪夢としか思えん」

「どちらへ?」

「・・・これで・・・最後だ」

最後の決別へ

 

「ワシの方が先に死ぬと思とったのに何でお前が先に死んでしまうんじゃ〜〜ライ〜〜」

「気持ちは分かる・・・分かるが、いい加減にしろ。 いくら泣いてもライは・・・」

「キリト君、君は本当にライが・・・ 僕はコレが性質の悪い夢にしか思えないよ。」

一晩中、酒場でクダを巻き酒に悲しみに溺死しかけたゴリアテとそれにずっと付き合っていたキリト。

そして結局彼の影響か、女に溺れるという相手に失礼な事も出来ずに合流してしまったカイン。

二人とも出会っても喧嘩をする気にすらならない。適当にチャチを入れ仲裁する人がいない今となっては。

「残念ながら・・・アレは現実よぉ」

三人の後ろを歩き付いて来るアルシアの目も充血している。

アルシアも二人がいた酒場で一人悲しみを紛らわそうとしたのだが、結局酒に溺れる事すら出来なかった。

一人でいる寂しさに我慢出来ず二人の後を追っ掛けてしまった。 二人の側に幻影が見えてしまったから。

「アルシア、君はそれで納得出来るのかい?」

「・・・関係ないわぁ。私、ライなんて好きじゃないもの」

誰も好き嫌いの話なんかしていない。真実を認められるか否かだけ。

「じゃあ、ミンナを生かすために死んでしまった馬鹿なライを笑いに行くかい?」

「・・・い、いいわよぉ」

二人とも言っていて、口の中がカラカラに渇いていく感触。 ある意味、自暴自棄の最たるもの。

転げ落ちるようにお互い自分を追い詰め・・・キリトとゴリアテも巻き込んでしまった。

そして四人も・・・

朝のいい時間にも関らず霊安室前に、彼に何がしら縁のあった人々が集う。

共に戦った仲間達,茶飲み友達の衛兵達等々々・・・

誰もが誰も最後の一線を越える・・・フェイの啜り泣きが聞こえる霊安室に入る事が出来ずにいた。

「・・・これじゃまるで葬式だな」

全員がその自覚が無いだけで、これは葬式なのだ。

弔われるのは死者ではなく、生者達の死者に対する気持ち。

 

ソレは、いうならばエネルギーと単純なProgramを組み合わせたような存在。意思は無い。

前の器はそれを支配してい意識が暴走し器自体を激しく変貌させたため

核を破壊されただけで己自身の力に耐え切れず消滅した。

だからソレはソレ自身を保持するため一番近くにあった違う器,前の器を一瞬で破壊した人間へ移った。

既に生命活動は停止、肉体は破損していたがソレにとっては大した問題ではない。

今、遺伝子情報を読み終えたソレはその肉体を修復し始めた。

破損した頭脳とそこに収められていた情報を含め。

魂の存在は関係なく。

 

「・・・らいが死んじゃったのに何で私は生きてるの?」

長い間泣き続けたフェイがやっと顔を挙げ吐いた一言に希望は一切感じられない。

「フェイちゃん・・・」

「・・・私、死んじゃいたい。・・・自殺しようかな 」

「だめよ、そんなこと・・・言ったりしたら」

「でもっ、でもっ、私、もう、我慢できない、耐えられないよっ!」

「それでも、彼が命を掛けて護ってくれた命じゃない。

フェイちゃんが死んじゃったりしたら・・・彼は何のために死んだか・・・」

「それでもっ、私は、・・・らいに生きて欲しかったよぉ」

「・・・でも生きなくちゃ。どんなにつらくても。 それが、ライさんの望みなんじゃない?」

「・・・・・・・」

「ねっ、フェイちゃん」

「う・・・んん?」

「フェイちゃん?」

唖然としたフェイの反応にエンジェもフェイの視線の先、自分の隣の遺体に顔を向け

「・・・・・何これ? え、えんじぇぇ!!」

空中から遺体へと纏わり尽く燐光。

フェイの質問にエンジェも唖然とした顔をするだけ。

「・・・わ、分からない。こんな現象、聞いたこと無いもの」

霊安室の慌様に外にいた連中も乱入。その幻想的な光景にそのまま硬直。

傷を覆っていた包帯と腕の形を作っていた綿が空に溶け光へと分解。

一方で、ほとんど砕けた骨とそれを繋ぐ肉だけだった腕がアレよアレよとあっと云う間に回復、否、復元。

骨がくっ付き、ソレに筋肉繊維が絡み付き腕を形作り、その上を皮膚が覆う。

顔に出来た傷も綺麗に直っていく。この調子だと髪に隠れた陥没した頭蓋も綺麗に復元しているのだろう。

そして、光が散ると共にライの胸がユックリと上がり・・沈む。 規則正しい吐息。

「ねぇ、えんじぇ・・・らい、息してるね。」

「・・・息してますね。」

頷く一同。 フェイはライの脈を取り胸に耳を当て

「・・・らいの心臓動いてるよ?」

エンジェもライの脈をとり胸に手を当て

「・・・動いてますね。」

「・・・生きているの?」

「生きて・・・ますね。」

「・・・生きてる・・・らいが生きてる・・・生きて・・」

結局エンジェはフェイが言っている事を後ろの歓声にかき消され聞き取れなかった。

しかし、今度は喜びの涙を流し蘇ったライの手をギュッと離さないようにしているところを見れば、

少なくともちゃんと生きていく意志があることは読み取れた。

一方で、俺の涙返せ とか 悲しんで損した とか怒喜びの歓声の中、浮かない顔の二人。

オーディスとフェフ

「困った事になったな。物質のエネルギーへの転化と物質構築? 素直にライの復活を喜べない」

「はい・・・今はもう『力』は感じられません。しかし、意識を取り戻されてなければ詳しくは」

「・・・蘇ったライが『ライ』であればいいのだが」

でなければ、守護騎士達に考えうる最強の敵,かつての親友の躯を討たせなければならない。


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■ EPISODE 02 前編 ■

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