■騎士団side.ep■
「緋の銀狼,燐翼天使」







天下の街道、人影はたった二つ。  正しくは少年と犬。

少年は皮ジャケットに自分より大きな大太刀と荷物を携え傭兵姿ではあるが

その面持ちは金髪に優顔と、世間へ出るには少し早いのではと思わせる感。

その少年の前を行く白犬・・・訂正、銀狼は緋の眼に合わせ紅のリボンを首に

紅に黒飾縁取の服を着る中々の御洒落っぷり。

見るものが見れば少年の方が立場が弱いと分かるに違いない。 それでも

「だから言ったんです。馬乗っていけば直ぐだったのに・・・」

 「・・・」馬、乗る、嫌。

「それなら二人乗りで僕が支えるなり、他にも色々手段が・・・」

 「ガウっ!!!」しつこい。

「・・・・・・(黙」

銀狼とて地駆ける者としてのプライドがある。同じ地駆ける者に乗るなど、もっての他。

それなら、と少年の案で馬車に乗ってきたのだが・・・馬車はいいのかと問題はさて置き

あと少し目的地までは歩き。 それで少年は今更グチグチと文句を言っている。

それなら構わず一人馬に乗ればよかったのに・・・

同じことを繰り返すこと暫し、また同じ事を言おうとした少年の口が己から閉じた。

街道、草原と森に挟まれ、森から漂ってくる気配に対し。

「・・・どうしましょうか。本来なら退治すべきでしょうけど」

 「・・・」しらない。

「では、相手の反応次第ということで」

また歩き始める一匹と一人がその地点に来た瞬間、ぱらぱらと立塞がるナラズ者達。

後ろも同様。

「・・・小僧、抵抗さえしなけりゃ命だけは助けてやる。命だけは、な」

つまり、身包み剥いで諸共売捌いてしまうと。

ここで手出しさえしなければ逃してやっても良かったのに

「まぁ確かに僕なら高値が付くでしょうが・・・そういうのは遠慮させて頂きます。

 ここは僕一人で、剣お借りしますよ。 荷物は任せしました。」

 「ガウ」 おう、やったれ。

最後は銀狼に対し言ったのか、少年は大太刀を抜き放つ。

「こ、小僧が・・・そんな得物使いこなせるわけがないだろうっ!!!」

「僕なら使いこなす内には入りませんけどね」

御互い踏み込みに交わる影、瞬後倒れたのは少年ではなかった。

「それでも十二分に、山賊如きを退治するにはこれで事足りますよ」

少年の振るう大太刀の峰撃ちに、雑魚に倒れていく山賊達。

銀狼は見る価値すらないと欠伸をしようと・・・それに我に返り

 「ガウっ!!!」

「分かってますっ!!!」

退く山賊に射掛けられた矢の雨に対し、少年は手を翳す。

と、それだけで矢の雨は透明な壁に阻まれた如くその面で停止。

「あ、悪魔・・・(怯」

「失礼な。どうせなら」

ばさっと少年の背から服を素通りに生える燐翼

「天使 とぐらい言って欲しいものです」

燐翼は羽ばたきに燐羽根へと空一杯に散舞う。

こうなればもう結果が見えているので見物する気など一切なく

 「・・・クアアアア」

陽天気に暢気な銀狼の欠伸、その向こうの背景に阿鼻叫喚が・・・・・・

「馬に乗っていればこんなのに巻き込まれずに済んだのに」

 「ガルルルル・・・」うるさいなぁ

馬に乗らなかったのは少年の意志であり、銀狼自身は馬と共に駆けても良かった。

それでいつまでもクダクダ言われたくない。 

教育してもいいのだが、人目に勘違いされたら後が面倒。仕方なしと

 「えっ!!?」

「ガウっ」つかまれ

銀狼は背にひょいと少年を乗せ疾駆する。 それは一陣の風の如く・・・

・・・・・・・・・・・・

少年と銀狼は日が暮れる前に無事目的地の村に着くごとが出来た。

しかし、村は想像以上に平凡で宿屋すらなく何か問題があるようには見えない。

「はぁ・・・如何しましょう」

 「・・・・・・」野営?

「ですねぇ・・・場所探しにいきましょうか」

この手の村なら地主等の屋敷へ行けば旅話が聞けると喜んで泊めてもらえるのだが

生憎、少年はそこまで厚かましくはない。 銀狼に至っては論外。

当然、森に入り野営地を探す。少年は論理的なので贅沢は言わない。

適当な場所をそこで野営地に準備を始めようと・・・迫る気配に様子を見る

と、がさごそ茂みの間からやってきたのは籠と携えた若いメイド。

 「あ、貴方、ここで何をやっているのですか!!? 私有地ですよ」

「すみません。ここで野営をさせて頂こうと思ったのですけど・・・

私有地なら仕方が無いので、他所にいきます。」

一瞬驚きながらも侵入者が自分より弱そうな少年に強気になる彼女に

少年はいたって冷静に対処する。 こんな処で問題を起こすわけにはいかない。

 「ちょっと、貴方・・・この辺りでは見ない顔ね?」

「ええ、この子と旅をしてまして・・・」

と少年は隣に座る銀狼の頭を撫で

カプッ

 「・・・・・・(汗」

「・・・ごめんなさい(泣」

ん、ならばヨシ と銀狼の顎から解放された己の手を少年は泣き見る。

可也手加減して噛まれたので血は出ていないが・・・それでも跡に皮膚が凹み。

 「悪い子じゃなさそうだし、私のいる御屋敷に来る? 

御主人様も許して下さるでしょうから・・・」

「それは・・・御好意に甘えさせて頂きます。」

 「ワンっ!!」 お願いします

 「じゃあ、こっちへ・・・」

と メイドが向かうのは、出てきた向かいの茂みの隙間。

少年は自分の荷物を手に後を付いていく・・・

 「君、随分若いみたいだけど一人で旅を?」

「ええ、彼女といっしょになんですけど」

 「彼女?」

「この銀狼です。」

 「へぇ・・・何でまた?」

「師匠の命令でして・・・自分が休暇の間、暇やるから世間でも見てこいと」

正しくは少年の長の命令で詳細無しに「この村の問題を解決しろ」だけ言われたが

・・・態々、そんなことまで言う必要はない。 修行中と思わせておけばいい。

 「師匠って・・・君、何?」

「・・・何だと思います?」

まじまじと少年を見るメイド。 思いつく限り単語を羅列してみるが、どれも当て填らず。

 「ん〜〜、分からない。何なの?」

「恥ずかしながら魔導士です。」

 「え゛、ま、まさか・・・」

「一応、見たとおりの年齢なので勘違いなさらぬよう。」

 「あ・・・あはははは(汗」

返ってきた予想外の解答に、メイドは自分の知る世界が意外に狭い事を実感した・・・

そうこうしているうちに辿り着いた先には森に囲まれた相応に中規模の屋敷。

玄関に通され

 「では私、御主人様に話をしてきます。」

少年と銀狼は残されてしまった。

 「ワゥ・・・・・・」結構広くて色々ある。

「普通はこんなものです。僕の実家もこんな感じでしたしね」

 「ワゥ?」 そうなの?

「ええ、比べてうちは質実剛健ですから地味に感じるんです」

 「・・・」へぇ・・・

物色してると、やって来たのは優しく賢明そうな中年男性とその娘と思われる少女。

「旅人よ、ようこそ我が屋敷へ。歓迎しよう。 私はバーニッシュ=ベイヤ―」

 「私はロディーナ=ベイヤ―と申します・・・」

「僕はディオール=クラウス,この子はシフォルナと」

「ふむ、今晩のみと言わず暫し休んでいかれるとよい。間、経験談や旅話なのでも・・・」

地主や地方領主など貴族が旅人を客人として招き話を聞くのは基本的な娯楽の一つ。

「はい、御言葉に甘えて暫し休ませていただきたいと思います」

 「ワンっ!」は〜い

「では、早速夕食にでも・・・」

ディオールもとい、ディは元々地主の子息で作法は心得ている。関して困る事は無い。

夕卓に着いたのは主の二人に先生と呼ばれる青年、そしてディ(&シフォルナもとい、ルナ)

以外はこの屋敷に居るのはメイド3,4人ぐらいだろうか。

静々とたわいの無い話で夕食は進み、本番は寧ろその後。

男3人で固まり食後の飲み物を嗜みつつ、先制攻撃は先生より。

「君は魔導士との事だが得意分野は何かな? 因みに私は医術魔導士だ。」

自分で医術をつけるくらいなのだから可也の自信なのだろう。

「それなら自分は戦魔導士でしょうか。師匠共々傭兵みたいな事を生業としているので

 あと、こういった事も」

とディは懐から出した魔石を出して示した後、設定を書き換えて発動。すると

「「ほほう!!」」

テーブルの上に立つのは手の平サイズのミニチュアな人形。

「魔導機兵(レギオン)です。流石にそのものを出すわけにはいかないので

これは武装を取り外し小型化したものですが」

「ふむ、それなら・・・随分と強そうだ。我が村にも二,三体欲しいものだな・・・」

「生憎これは僕の魔力充電式で、多分御考えのような使い方は出来ないと思います」

「ふむ・・・それは残念」

折角出したのでテーブルの上で踊らせてみたり

「処であの銀狼は君の使魔か? 少し診せもらいたい」

「まさか、彼女の方が立場は上です。診てもいいかは彼女自身に直接・・・(笑」

「「・・・(驚」」

典型的田舎では獣,獣人の地位は低い。しかし人より立場の上の獣となると・・・

意味ある含み笑いをすれば、それ以上の追求はしない。

「ディオール君、君の剣は可也の業物と見たが・・・」

「少し、見ますか?」

「構わんのかね?」

ディから大太刀を受け取り、抜き見て関心するバーニッシュ氏と先生。

「実はコレ僕のものじゃなく、今は眠っていますが狂戦鬼の呪もかかってます」

「で、ではこれは・・・」

「本当は彼女の得物ですよ。ちょっと借りているだけで」

「「!!?」」

多分、予想外の返答だったのだろう。二人とも空いた口が塞がらない。

「狼が・・・武器を使うのか?」

「使いますよ。 ルナ、ちょっと」

嬢とメイド達に猫被りに弄ばれていた銀狼は 何?とばかりにやって来た。

鞘付の大太刀を投げられ、それを握りを咥え受け取り。

「ちょっと、抜いてもらえる?」

よう分からん と顔をしながらも銀狼は鞘の引っ掛けに前脚を掛け、首を一振り。

抜き放たれる刃。

「「・・・・・・」」

服着た御洒落な銀狼が大太刀を構える奇妙な光景がそこに

皆唖然の前、銀狼のルナはサービスとばかりの咥えたまま後転してみせたり

「あっ、もういいよ。ありがとう」

言われ銀狼は自分で大太刀鞘に収め、預かれとばかりにつき返し女の子達の処へ。

女の子相手の方が優しくしてくれるから向こうの方がいいと。 現金な娘である。

「君は・・・君達は・・・。 御師匠の名は?」

「いえいえ、態々名乗るほどの人じゃありません。田舎の穏者ですから」

「君は医術の方はどうだ?」

「恥ずかしながら見て理解できる程度だけで、あまり・・・(苦笑」

「そうか・・・」

先生の心をよぎるのは安堵の情かそれとも懸念の思いか。

各々の心中を他所に、夜は深け・・・

「ふぁぁっ・・・済みません。 ちょっと・・・」

ディの欠伸に気付けば時、既に深夜。いるのは男三人と

寝る銀狼に膝枕を提供し自身もうっつらと舟をこぐロディーナ嬢。

そして部屋の隅に黙して立つメイド一人。 見事な見本である。

「ふむ、私としたことが客人に無理をさせてしまったようだ。

 おい、ディオール君を部屋に案内しろ」

バーニッシュ氏にメイドは一礼し

 「御部屋へ案内いたします。どうぞこちらへ・・・」

「お心使い感謝します。では、御好意に甘えさせていただいて」

 「・・・ワゥ?」

ルナを揺すり起こし、寝惚け眼な少年と銀狼は案内され客室へ。

・・・当然ルナは狼なので、二人で一室。

 「・・・・・・」 お休み〜〜

とルナはディそっちのけでベットの真ん中を陣取ってしまった。

「ちょ、ちょっと待ってください。 そんな真ん中で寝られたら僕は何処で寝たら」

 「・・・・・・」 くっ付いて寝たら?

と、服の中、ルナの銀狼の姿が霞み入れ替わりに狼少女の姿へ。

「って、何で変化するんですかっ!!」

メイドが出室後に人避けの結界を張っているので他の者に見られる心配はないが

以上に問題なのは少女と寝床が一つ・・・

 「・・・z・・・z・・・z」

「もう寝てるし・・・(泣」

ど〜〜せ、いつもの事。 剥き出しの太股が目の毒なので毛布をかけ。

酷い時なんか娘ルナの圧し抱き着かれたまま一夜齧りしゃぶられ続けた事を思えば・・・

床で寝る事なんか・・・慣れてる・・・慣れてるもん・・・

・・・・・・・・・・・・・

どんなに疲れていようと、固い床で満足に寝ることが出来なかろうと

哀しいかな、習性は少年を早朝に起こしてしまった。

ルナは

 「・・・z・・・z・・・z」

珍しく無防備にヤバイ処から腹まで曝して寝ていた。兎に角、毛布を掛けなおし

ちょっとやそっとで起きそうにない。

ホッペタをむに〜〜っと

 「・・・がぅ・・・z・・・(ムニムニムニ」

・・・爆睡に、起こすのが可哀想になってきた。

しかし、こんなに爆睡するまで疲労するような事は何もしていないのだが。

狼状態でディ一人背負い駆ける程度ではそんなに疲労しないのに。

さて置き、魔石数個使用の魔導機兵一体を護衛に沿えた上で人避けの結界を強めに張り

ディは朝の鍛錬に・・・

と言っても いつも誰かしらがいっしょに居たため基本の後は組手をしていたのが

・・・屋敷裏、誰もいない。 否、いたとしても相手になるのはルナしかいない。

「はぁ、参りましたね〜〜」

魔導機兵なんか全てを熟知しているので、無駄に魔力を使うだけで訓練にすらならない。

・・・ふと、空を飛びたくなった。 周囲に人気は・・・ない。

周囲より魔力を掻き集め、背中に生える翼をイメージしつつ魔導を発動。

最大4対 8枚の翼をもてるが、空を飛ぶだけなら1対 2枚の翼で十分。

そして、少年の背に生まれる燐翼。

 「あっ・・・」

ディが声に振り向くと、そこには驚愕のロディーナ嬢。

「えっ・・・と、おはようごさいます。」

 「お、おはようございます」

周囲に人気はないと思ったが・・・実際にいた。我ながら間抜けだが

他に対処しようがなく、態々口封じするほどのものじゃないし

後で他言しないよう言っておけば済む。

「如何したんですか、こんなに朝早く?」

 「ええ、今日は凄く目覚めがよくて・・・あの、その背中のは?」

「ええ、まぁ見た通りの翼で・・・魔導で作ったものなんですが」

 「凄いんですね、魔法って」

「ええ、凄いんです魔法は。 だから気をつけないと凄く危険な術なんです」

 「あっ・・・ごめんなさい」

「お嬢様が謝られなくても・・・自分に対する戒めみたいなものですから」

 「そうなのですか?」

「そうなんです。 あっ、この事はくれぐれも他言無用にお願いします」

 「は、はい。 あの・・・背中に翼などと何をしようとなさっていたのですか?」

「ちょっと・・・空を飛ぼうと思いまして」

 「空、ですか?」

「はい、鳥のように」

 「まぁ・・・(驚」

「あの・・・いっしょに飛んでみますか?」

この今この瞬間、きっとディには神が降臨していたに違いない。

でなければ自分から女の子を誘う事が出来ようはずも・・・

 「いいんですか? 本当に?」

「お嬢様が御望みなら。 暫しお待ちください」

戦闘速度なら兎も角、遊泳に一対では浮力が足りない。 更に一対生える燐翼。

 「まぁ・・・(驚」

「失礼します」

と、ディはロディーナ嬢の細い腰を横から抱締め翼を羽ばたかせる。 と、少し浮き

 「きゃぁっ!!?」

「す、すみません。大丈夫ですか?」

 「ちょっと驚いてしまって・・・どうぞ行ってください。」

首にしがみ付かれ、お互いドキドキ。

「では・・・行きます。」

瞬間、羽ばたきが生む以上の力によって二人は一気に空高くまで舞う。

燐翼の羽ばたきなど補佐的なものに過ぎない。本当は燐翼の分解で推進力を得る。

何であれ、今二人は人間が辿り着けない世界にいた。

朝靄の中、遥か彼方に広がる地平線,連なる山々

 「・・・すごい。すごく・・・綺麗。」

「ええ、世界はこんなにも命が溢れて・・・では、これからゆっくり降りていきますから」

燐翼を一杯に広げパラグライダーの如く風を捉える事によって緩やかに滑空し・・・

時間をかけ二人は空の旅を満喫し帰って来た。

初めて見た世界にロディーナ嬢はいまだ興奮冷め止まぬ様子。

 「あの、私、私っ」

「お気に召していただいたようで良かったです、お嬢様」

 「お嬢様は止めてください。 ロディーナ、と」

「では、ロディーナさんと呼ばせていただきます。」

 「はい。私、病弱で今まで屋敷から外に出たことがなくて・・・凄く楽しかった。」

ロディーナ嬢が病弱・・・陽のせいかもしれないが

今は初めて会った時よりも血色がいいように見える。寧ろ、健康優良児そのもの。

「よければ僕と御一緒に空の散歩に付き合っていただけないでしょうか、御嬢様?」

 「はい、よろしくおねがいします」

おどけてみせるディにロディーナ嬢も合わせ満面の笑みで応じ

幸せは確かにあった・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

所詮、客人が出来る事など小技等でそこの主人を満足させる程度で

「魔導の究極の目的こと不老不死、永遠の命っ!!」

「否定はしませんよ。でも得て何をするんですか? 寧ろ、無駄に生きるより

限りある命の中で己の術を磨き次世代に受け継がせることの方が難しく意味ある事かと」

「無限の命があればその必要すらなく永遠に己の術を磨く事が出来る。」

「ええ、でも限られた時の中で満足に結果を得られない人が無限の命を得た処で

得られるものなどたかが知れていると思います。」

「見てきたようなことを・・・いってくれるな。」

「見なくても考えれば分かりますよ。魔導なんて所詮

生活便利術の延長でしかありませんからね。」

「では、貴様は今にも死に伏す恋人の前で死ねというのか?」

「それとこれとは話は別。それこそ抗うべき死でしょう。それでも逃れられないのなら」

「逃れられないのなら?」

「す、少しでも苦痛を・・・」

「若いな。 奇麗事だ。」

「・・・でも、奇麗事でもそれを目指さなければ・・・人は化物になってしまいます」

「まぁまぁ御二人とも、休憩に御茶は如何ですかな?」

ホストの申出なら断るわけにはいかない。以前に朝から論議に熱が入り、

時は既に昼過ぎでオヤツを頂くには丁度いい時間。

主とその娘と客二人(+狼のルナ)でテーブルを囲み茶を頂く。

 「ディさん、随分とお疲れみたいですね」

「あっ、ありがとうございます、ロディーナさん。」

仲のいい少年と嬢に険が立つ者、約二名。 先生と銀狼・・・

対し、主のバーニッシュ氏はホクホク顔に。

賢明なこの少年なら娘婿にイイ とぐらい考えているのかもしれない。

「処で御嬢様、体調の方はいかがでしょう?」

 「はい、何故かディさん達が来てから凄く調子が良くって・・・

間 未だ一度も発作が無く、貴重なお薬を使わずに済んでおります」

テーブル下、当然と軽食に齧り付く狼ルナに対し 先生は硬直。

時間的にもう発作がなければおかしい。それが無い、と。 少年と銀狼が来てから・・・

銀狼。暫し聖獣と例えられるこの獣は、月の女神が地に降りる時の姿とも例えられている。

そもそも狼自体が闇の眷属といわれる中、光を放つ月。 月の女神が司るのは生命。

となれば、銀狼がロディーナのそれを押さえ込み・・・

「発作、ですか? そういえば朝、病弱とかおっしゃっていましたが?」

 「ええ、先生が来られるまではベットから出ることすら適わず・・・

先生のおかげでこうも動き回れるようになったのですが、日に数回激しい発作が」

「それが、僕らが来てからは起きていない と?」

 「はい・・・」

と何故か照れ頬に朱がさすロディーナ嬢。 反し、ディはいたって真面目。

「そちらの方は得意分野ではありませんが、少し診せていただいてもいいですか?」

 「えっ・・・あ、はい」

何を想像したのか更に紅葉する乙女の頬。

それを意もせずディは真剣に観測系の魔法を行おうと

「彼女は私の患者。勝手なことをされては困るっ!!」

「勝手な事はではないでしょう? 僕が見て何か気づくかも・・・」

「医術魔導士たる私が気付かないものを若輩で戦魔導士の君如きが気付くかっ!!」

「戦魔導士には戦魔導士也に人を癒す術がありますっ!!」

「君が何かをすることによって私が施した術に影響を及ぼさないとは言い切れまいっ!!」

「うっ・・・(汗」

「・・・もっとも、君がその銀狼を私に譲ると言うのならば話は別だか」

 「ガゥっ!!」 嫌っ!!

「嫌、だそうです・・・(苦」

「ふん。ならば私のする事に関るな。」

端より主父娘に口出しできる口は無く、雰囲気でもない。

ぶつかり合うのは、お互いその道のプロ同士なのだから。

「僕はココに居るべき者ではなさそうですね。 御好意はありがたいのですが・・・」

と立ち上がったディは立眩みにしゃがみ込み

 「ガウッ!!?」 ディっ!!?

 「ディさん!!?」

瞬間、駆け寄った狼ルナのにしがみ付く。 その顔、明らかに異様なほど蒼白。

 「せ、先生、ディさんがっ!!」

「だ、大丈夫です。この程度・・・自分で。 済みません、少し、休ませてもらいます」

今朝のルナといい、今の自分といい・・・この疲労は明らかに異常。

不確定要素が多い以上少しでも省いていかなければ・・・

心配そうな主父娘に見送られ、狼ルナに支えられつつディは自分の客室へ。

魔石を定めた配置に並べ仕込んだ結界を発動、娘なルナに霊薬を持ってきてもらい飲む。

これで一息つけば、多少は作業が出来る程度には回復すると思う。

そして、この任務についてから己の体調を観測し続けてきた魔石を解析し始め

「な? 異様に生命力が消耗してる・・・何だろう・・・」

だが其処まで。その詳細な事まで分析する前に力尽き、眠りに。

娘なルナはただ静かに見護るだけ。

もっとも真相に近いところにいるのは一見何もしていなさそうなこの娘なのかもしれない。

しかし獣な思考では如何様に裁く事は出来ない。 ただ、その時は力でもって戦うだけで。

コンコン と、不意にノックが。

 「ディさん、身体の御加減いかがでしょう?」

よりにもよって、ロディーナだった。 いるのは一人だけ。

追い返すべきか招き入れるべきか・・・ルナは要の魔石を転がし結界を解除。ドアを開け

瞬間、有無も言わさず引き込み閉戸、再び結界を張り直す。

 「あ、貴女は・・・」

 「・・・ルナ」

言われ直ぐ該当。服、緋眼、耳と尻尾。 しかし・・・

 「でも、ええっ!!?」

 「狼のルナ、今、人のルナ、同じ。 そういうもの。 気にしない。」

 「はぁ・・・。 それでディさんの様子は?」

 「疲れ切ってる。 ロディーナのせい」

 「私?」

 「ロディーナ、もう、人有らざる者。吸血鬼。」

 「行き成りそんな・・・」

 「ルナ、直ぐ分かった。だから昨日、私の精、喰わせた。

  でも、朝、ロディーナ、ディ、喰べた」

 「・・・・・・」

早朝に空でデートした、あの時。

そもそも狗種はモノの体調を観るのに長けている。ましてやルナは銀狼・・・

感で、いつ頃急激な消耗があったか検討ぐらい付けられる。

 「ルナ、分からない。 ロディーナ、殺すべきか、否か。

でも、ロディーナ、ディ、自分の意思で、傷つける、その時・・・」

緋眼が爛々と輝いて見えるのは日の加減だけではないはず。

余りにも厳しすぎる事実に、ロディーナは呆然と部屋を出る。

心当たりは・・・あり過ぎた。 床から動けなかった身体が行き成り常人並みになった。

それでも頻繁に襲われる発作に見動きすら出来なくなる事も。それでも先生から渡された

結晶粉末のような薬を飲むだけでウソのように発作は治まっていた。

そして、噂。 旅人が禄に滞在せず直ぐ去ってしまう。

全てが始ったのは・・・先生がこの屋敷に来て、彼女を治療してから・・・

真相を確かめる為、ロディーナは先生の処へ。 先生は自室にいた。

 「先生、お答えください。私は・・・私は吸血鬼なのですかっ!!」

「ヤブから棒に・・・御嬢様、何処でそんな話を?  ・・・ディオール少年から?」

 「彼は未だ何も知りませんっ!! それより私は本当に吸血鬼なのですかっ!!?」

「未だ・・・ですか。 吸血鬼か否かと尋ねられたなら、その答えは・・・否でしょう」

ロディーナから漏れる安堵の溜息。しかし後に続く真実は

「何故なら貴女は私が手を施し不老不死なのですから」

 「ふ、不老不死?」

「生憎、貴女は未完である為 精を与えねばどうなるか分かりませんが

私の不老不死を吸血鬼という下品なものといっしょにされては困ります」

 「で、では、今まで、私が飲んできた薬というのは・・・」

「霊薬です。人間から精製したね。 色々と人体実験がやり難くなった処に

この村へ辿り着きましてね・・・ここはイイ村です。 イイ素材がありましたし。

流石に村人を使うわけには行きませんが、その分適度に旅人もやってきますしね」

魔導士に共通した悪い癖に己の技を自慢したがるのがある。 正にそれ。

でも、御蔭で聞きたい事は全て聞けた。

 「私・・・この事を・・・」

「バーニッシュ氏に話されますか? 話した処で己から私に協力するだけでしょう。

溺愛に、逸れの医術魔導士の私を無防備にも屋敷に招きいれ診せるくらいですから」

 「!!?」

「きっと罪悪感に苛まれつつも・・・(笑。

貴女の好きになったディオール少年にも言うのは止した方がいいでしょう。

知れば、彼はきっと貴女を・・・認めない(笑。

そうそう忠告までに、自殺しようとか、薬を飲まないでおこうなどとは考えない方が

賢明でしょう。 貴女が死んでも蘇らせるのは容易。飲まなければ暴走するだけ」

 「うわ、あああぁぁぁ」

「しかし、月女神の化身たる銀狼を入手出来れば、もしかすればあるいは・・・」

何も知らない状態で狼ルナを月女神の化身と言われても一笑に伏してしまっただろう。

しかしロディーナは知っている。 ルナ、シフォルナが狼から娘へ化けた事を・・・

こんこんこん

と、ノックにディ達の居る部屋に来たのはまたもやロディーナ一人だった。

さっきの今なので、ディが目覚めるにはまだ時間がかかる。

 「がう?」

 「あの・・・私の部屋で少し御話いたしませんか?」

 「行かない」

 「お菓子とか御茶も御用意したのですけれども。 ホットミルクの方が好みですか」

 「行く」

食い物に釣られる・・・所詮、獣 だった。

嬢様の部屋だけあって其処だけで生活出来る規模・・・実際、ずっと一歩も出ずココで

生活していたのだが。 テーブルに着いたのは二名、ロディーナ嬢と狼のルナ。

椅子にかしこまって座るルナは部屋を出る前から今までずっと狼姿のまま。

メイドがいるので未だ狼のまま。

 「もうさがって下さい。後は自分で・・・」

メイドが部屋から出るや否や、閃光にルナは狼から人へ。 それで

 「・・・(パクパクモグモグ」

 「・・・(驚」

暫し、女の子二人っきりにも関らず沈黙に部屋を支配するのは租借音のみ。 不意に

 「話、何?」

 「え? あの・・・今までどの様な生活を?」

 「わう?」

 「私、外の世界の事は全く知らないので・・・」

 「ルナ、森の村の生まれ。バーチャン、長。 親、ルナ幼い時、死んだ。

  ルナ、村人から忌まれた。 銀、神の色。だから持つ、駄目。」

ただ感情も込めず、淡々と語る。それは既に遠い過去。

 「ルナ、ある日、攫われた。攫われて、都市、来た。シエルに出会った。」

一転、零れるのは喜びの笑み。

 「シエル、さん?」

 「シエル、黒猫の猫人。 ルナのお母ちゃん。

 それでルナ、ライの新しい群れ、入った。 ライ・・・長、お父ちゃん。

 家族いっぱい。 偶にイジワル、でも、優しい、楽しい、大事」

その姿は正に家族を自慢する幼子。一見、能天気ではあるがそれなりに苦労はしてきた。

 「・・・・・・お茶、お入れしましょうか?」

 「わぅ、ミルク、砂糖、入れる。」

ルナを背に手押し台の上で紅茶を入れカップに注ぎ、

ルナの分には+ミルク、砂糖、そして・・・

 「・・・どうぞ」

 「わん!」

熱さを見、香りを嗅ぎ・・・それでもミルクティを飲まない。

そして、じっとロディーナを見つめる。 その心の探るが如く。

 「・・・な、何か(汗?」

 「ルナ、ロディーナの事、聞きたい」

 「・・・お母さんは私を産んで直ぐ・・・。だからお父さんは私を溺愛して

 病弱でしたからずっと部屋に・・・本でしか外の世界を知らず憧れていました。

 だから、ディさんに連れて行ってもらった空は凄く・・・凄く・・・」

 「空? ・・・ルナ、まだディに、空、連れて行ってもらった事、ない」

 「えっ!!?」

 「ディ、ルナの子分、いつも生意気。・・・でも賢い。ルナよりずっと、賢い。

  ディ、ロディーナ、好き。 助け、求めれば、必ず、力になる。」

 「!!?」

と、ロディーナは止める間も無く一気にミルクティを呷ってしまった。

 「ルナ、家族、大事。 ディ、悲しませる・・・、許さ・・・ない」

ルナは眠りに、カップを落としドサッと床に倒れ・・・ピクリとも動かない。

強力な睡眠薬入りのものを全部のんでしまったのでから。

 「ああっ、そんな、私・・・」

今更恐れ慄いてももう襲い。仕出かしてしまった事は取り返しはつかず・・・

・・・のびてから二刻ほど時は流れただろうか。

ディが目覚めてみれば時、既に日暮れ。気分的に夕食を取る気にすらなれない。

ルナの姿は無く・・・大方、御飯をガッついているにちがいない。

「はぁ・・・僕は一体何を・・・」

激しく、鬱。 起きる気力すら出ないのでベットに伏せたまま。

コンコンコン

礼儀正しいノック。メイドだろうか。  でも入ってくる事はない。

以前に部屋には結界が張ってあるので、ドアを開けることすらで出来ない。

放っておけば直ぐ立ち去る・・・

 「ディさん、起きになられてますか? 夕食をお持ちしたのですが?」

「ロディーナさん!!? はい、直ぐ開けるので少しまってください。」

慌て身なり整え以下省略。 料理が載った手押し台ごと招き入れ、椅子を差し出し

 「・・・・・・」

「・・・・・(照」

 「・・・身体の・・・御加減はいかがですか」

「あっ、はい、もうバッチリです」

 「そうですか・・・それは、よかった」

「あははは。 あ〜〜、お食事、有難く頂きます」

 「はい、どうぞ」

お互い、自ずと零れる笑み。 御蔭で確かめる覚悟はできた。

 「あの・・・食べながらでいいので聞いていただけますか?」

「・・・(コクリ」

 「私、本当なら満足に生きられず・・・本でしか世界を知らなくて

 ずっと、憧れていました。冒険や・・・恋愛に。 だから・・・」

「・・・」

 「ディさんに会って・・・空を飛ぶ事が出来て凄く嬉しかった。」

「・・・」

 「あの、話変りますけど、私、冒険小説も凄く好きで・・・

やっぱりいるんですか、吸血鬼とか妖魔って。」

「・・・(コクリ。・・・(モグモグゴックン。 何度か退治したことはありますけど?」

 「!!? ・・・そういうのって、どうやって退治するんですか?」

「え〜〜妖魔のレベルにもよりますけど、英雄な人達なら普通の得物でも退治しますね。

ああいった人達は自然に発する気で、それで。僕なんかは魔法か僕の得物を使わないと。

普通の人でも銀や破魔銀の得物か、僕がルナから借りているみたいな特殊な得物なら」

 「・・・ディさんはきっと今まで様々冒険をされてきたのでしょうね」

「はい。僕は元々地主の子息なんですが、姉様が英雄に憧れ実家を出まして

謀略で実家に帰省された時に邪神の生贄にされかけ・・・それに僕も実家に

愛想を尽かし出て、色々ありまして・・・今は魔女の弟子に傭兵紛いな事を」

 「まぁ・・・では、ルナさんとは如何いった御関係なんですか?」

「今属している処に僕が一番最後に入ったんですよ。それで・・・

年下のくせに僕が生意気だって。 まぁ生意気な妹みたいなものです」

苦笑いを浮かべるその顔には、色恋だけでは決して測る事が出来ない絆があった。

ルナを狼と偽っている事を忘れていたりするが・・・

 「御大事なんですね、ルナさんの事・・・」

「まさか、あんな・・・放っておけないですからね。本当危なっかしい程無邪気だから

・・・って、あれ? ま、まさか・・・ロディーナさん、もしかして、御存知ですか?」

 「はい。」

「ああ〜〜、まったくっルナは!!」

 「怒らないでください。ディさんを護るためだったんですから」

「護るって、誰から?」

 「・・・私から。 私がディさんから生命力を奪ったからディさんは倒れて・・・」

「な、にを言って・・・」

 「私、もう人間じゃないんです・・・」

「人間じゃないって・・・そんな・・・こと・・・」

引き攣り笑顔に対し、笑顔なのに眼からは止め処なく流れる涙。

先生はロディーナが吸血鬼などではないと言ったが、知ってしまった。実感してしまった。

好きであればあるほど、その人を喰べたくなってしまう。

発作に動けなくなってしまっていたのは、人を喰べたいという思いに対する拒否反応だと。

 「それでも、貴方を好きになれてよかった。 ・・・さようなら」

「さようならって・・・ま、まってっ!!」

部屋から飛び出したロディーナに追いすがろうとするが、しかし行く手を阻む壁。

それは部屋に張られた結界。

「うわああああああっ!!!」

歯がゆさに少年の雄叫びが響き渡る。

部屋ではバーニッシュ氏と先生が卓戯に興じていた。

そこへ何か長いものを布に包み隠し携えてやってきたのはロディーナ嬢。

 「お父様,先生、お話があります。 人払いを」

ワケ分からんとバーニッシュ氏に、先生は堪えた様子もなく平然に面倒な事になったと

「うむ? お前たち、向こうへ行っておれ。 して、ロディーナや、どうした?」

 「先生に、この事を説明していただこうと思いまして」

瞬間、御嬢は懐から出したナイフで己の手の平を切り裂く。

「ろ、ロディーナっ!!?」

「!!?」

ポタポタと滴る血にバーニッシュ氏は娘の手を慌て診て、血を止めようと拭い

あるのは綺麗な絹肌のみ。そもそも、滴り落ちた血そのものが既に霧散しまっていた。

「血が・・・」

 「お父様、私はもう貴女の娘だった存在ではないのです。愛しい人を喰べてしまいたい

 と思う吸血鬼になってしまっていたのです。 そこの、先生の手によって」

「だから言っているでしょう。吸血鬼などと下賎なものと一緒にするなと」

「ど、どういうことだ、先生っ!!」

「何、御嬢様は未完ですが不老不死になっただけの事。

最も 維持の為に、人より造った霊薬を与えねばなりませんがね。

それで御嬢様の命が保てると思えば安いものではありませんか?」

「うっ・・・ぐぅ(苦」

確かに、ベット処か屋敷を自由に動けるようになったロディーナを

最も喜んだのは父であるバーニッシュ氏だろう。何せ、唯一の肉親なのだから。

 「お父様、惑わされてはいけません。 この男は私を実験材料としか

 見ていないのですから。 それを知った以上・・・生きてられません」

「・・・・・・それでも・・・私は・・・お前が生きてくれて嬉しい」

 「望むまま動く事も適わず・・・やっと動けるようになれば、並の人の幸せすら

求める事も出来ない。そんな命にどの様な意味があるのでしょう。

だから最後だけは己の意思で・・・」

ロディーナの持っていた長い包みは、よりにもよって狂戦鬼の大太刀だった。

抜き放った刃が余りにも凶暴すぎるため迂闊に止めに近づくことすら出来ない。

ロディーナが刃を掴み切先を己の胸に突付け貫こうとしたその時

「止めて下さい、ロディーナっ!!」

飛込んできたのは、来た時とは打って変わり

煌びやかな蒼に白銀飾縁取の法衣姿で法杖を携えたディ。

身体中に煤が付着しているのは強引に結界を打ち破ってきたからだろう。

 「・・・ディさん?」

「僕と一緒にいきましょう。そうすれば如何にか出来るかもしれない。」

 「・・・もう、駄目なんです。ディさんの事好きなのに衝動が抑えられなくって

・・・美味しそうに。 私、好きな人をこれ以上傷付けたくない。絶えられない。

だから・・・」

止める間も無く嬉々として少女の胸を貫き通す凶刃。

「ああ、ロディーナ・・・」

「そんな・・・傷つくぐらいは慣れてるのに・・・」

 「ディさん、貴方との空、本当に今まで生きてきて一番楽しかった。

でも、私は哀しくも 最初から貴方の御姫様に相応しくなかったんです。

貴方の生意気に可愛い御姫さまは私の部屋で王子様のキスを待ってます。

お父様・・・先立つ不幸をお許しください・・・・・・」

そして薄幸の姫は灰と消え・・・短い人生の、最も長い一日は終った。

いや、未だ終っていない。 いつの間にか逃げた今回の全ての元凶が

「・・・バーニッシュさん、先生とやらの研究室は何処ですか?」

「ディオール君、君はこんな時に何を・・・」

「こんな時だからっ! 奴を逃してしまってはロディーナさんの心が無駄になります。

 奴は捕らえて・・・殺さずに・・・裁きの場へ連れて行き、罪を償わせなければ」

「・・・行きたまえ。行って君の職務を果たしたまえ。それが娘のロディーナの望む処。

奴には研究のために離れを与えた。 メイドを入れぬ厳重ぶりを考えれば其処に・・・」

人生の至宝を失った者にかける言葉などない。

ディは狂戦鬼の大太刀を手に取り、その主の元へ。

・・・ロディーナの部屋、そのベットの上に銀狼の姫はいた。

本当に姫の如く小奇麗な身形で寝かしつけられているのは、今は亡き御嬢の趣味か?

さて置き、じっくり観賞している時間はない。

「観測」「分析」にルナを昏睡せしめるモノを確定、「解毒」で一気に分解。 後は

「ルナ、起きてくださいっ(ユッサユッサユッサ」

 「・・・・・わぅ?」

「・・・ついさっき、ロディーナが亡くなりました」

 「・・・、・・・!!?」

「まだ、彼女を死に追いやった元凶が残っています。 ・・・奴を・・・捕まえに」

ルナは誰の真似かパンパンと己の頬を叩いて気合一発。

 「がうっ!!!」

先生の気配は逃げずに屋敷裏手の離れ研究室にあった。

逃げ切れぬと思い迎え撃つ気なのだろうか。 その答えは

二人が研究室に近づくと、何処からともなく無数の生屍が襲い掛かり

「被害者を死してなお利用しますかっ!!!」

 「呀!!  ・・・!!?」

その手の生屍は魔導によって動かされているのだが

・・・肉に阻まれ届かないのか、ルナの破魔咆哮は効果なし。

「この手合い、態々僕らが相手するまででもありませんよっ!!!」

ディの投げた魔石より発動した魔導機兵(レギオン)達は、そうとは思えぬ軽やかな動きで

生屍達を駆逐し扉までの道を作る。 その道を駆け抜け扉を蹴破り突入。

中は様々な実験器具に薬品棚、典型的な魔導実験室。

そして最も場所を占領するのは床に書かれた魔方陣。その中央に立つのは元凶の男。

「観念しなさい。逃げられませんよ」

「いやはや、子供だと油断していれば本当にシウォングのエージェントだとは」

「・・・僕らは確かにシウォングから来ましたが、まだエージェントではありませんよ」

「な、な、な、なに!!?」

「まだまだ未熟で、マスコットみたいなものです。

分かっていたんですね・・・貴方みたいな小物、僕らで十分だって」

「わ、私を小物だとっ!! 不老不死を体現した偉大な魔導師に向かってっ!!」

「彼女は身体が変ってしまいましたが、その心は本当立派でした・・・

でも貴方は身体は人でも、その心は・・・く・ず です」

「・・・・・・ふんっ、私は既に私自身に不老不死の法を施したっ!!

あとは・・・月女神の化身たるその銀狼少女を喰らうだけっ!!!」

 「がう?」 何言ってるの、コイツ

「自信過剰男のモーレツな告白です。さらりと聞き流してさっさと片付けましょう」

 「・・・」 うげっ

「身体まで人をやめてしまったのなら始末しても

罪悪感にさいなまれることもありませんしね。」

 「がうっ!!」

「ほざけっ!! 我の、偉大なる研究の糧となるがいいわっ!!」

と、外道の両手に燈る魔導の光。しかし

「遅いっ!!!」

 「呀っ!!!」

「!!?」

ディの法杖「光晶槍」から生まれた魔法剣と ルナの狂戦鬼の大太刀「獣皇鬼・砕刃」

の煌く刃に、云も言わさずXの字斬りに瞬殺。

「大層な口を利いていた割りにはあっけなかったですね。・・・こんなものですか」

 「・・・・・・(くあああ」

感慨無く無表情に躯の側に立つディと、ルナは欠伸に汚物に対する如く足で砂賭け。

二人相手ならば楽勝 と思いきや。

「「!!?」」

「グアアアッ、下等ナ畜生ドモガアアアッ!! 喰ウっ!! 喰ッテヤルウウウ」

ぐちょぐちょと傷口を融合しつつ周囲の気を吸収し、徐々に体積を増す肉塊の人型。

改良されてるせいか生きる執念か、物質的にも魔導的にも暴走し始めていた。

そして、その手には足首を掴まれ天地逆釣のルナ。

しかし、その状況で怯え縮こまるような娘ではなく手の大太刀で足元を一閃。

空中で一転、脚から着地に足首に絡みついたままの肉塊そのままに

二人は一度研究室から退避し

 「わんっ、わんわんっ!!」 とって、とってとって

既に原型の手の形を留めていないので解き取る事は不可。となれば・・・

「じっとしていてください!!」

がんと地を踏締めるルナのその足首ごとディの魔法剣一薙ぎ。

だが、斬れ燃え散るのはその肉塊のみ。

ルナの肌には傷一つ無い。ダメージを与える事など有得ない。

・・・どうやら肉塊、斬ることによるダメージは少ない。

となれば魔法で一気に燃やすしかないのだが、肉塊が一体の気を喰らっているので

大技を使うに足る量が集らない。

「・・・ルナ、少しの間 時間稼ぎをお願いします。」

 「がうっ!!」

その場から研究室とは反対方向に駆け去るディ。一人残されたルナは一人それに向い合う。

薬品で火がついた建物を崩しつつ出てきた人型。

偉大なる不老不死の名を借りた吸血鬼のはずだったが

もはや周囲を喰らい増殖するだけの肉塊でしかない。

 「阿雄雄雄雄雄雄っ!!!」

銀狼の咆哮に獣皇鬼を解放、精霊憑依にルナの瞳は緋から紫へ。

「ヤ、ヤ、ヤ、ヤ、ハリ、ソノ変化、獣カラ人へ、紅ノ瞳ヲ紫へ。月ノ女神。

我ハ月ノ女神ヲ喰ライ、完全無比ナ不老不死、人ヲ超エシ者トナル」

 「・・・その汚い口を開けるな」

迫る肉触手を女武士の如く一斬に切り刻み銀狼少女は疾駆、すり抜け様に更に削落し。

 「・・・貴様が喋るだけで、減る」

素のルナが人語を話すようになってきているだけあって精霊憑依状態では絶口調。

その動きもその魔剣の魔剣たる部分の嘗ての持主の技を反映し、全方位を対処。

「ア、ア、ア、ノ小僧ハ如何シタ? 逃ゲタノカ? 何モ護レズニ」

 「貴様が言うよう、私が月の女神ならば護られる必要はあるまい?

 少し教えてやろう。 私はバカだから貴様を斬裂く事しか出来ないが

 ディなら貴様を滅する事が出来る。そのために少し場を外しただけ。

 貴様と違い、私達は不完全の限りある命で持って より高みを目指す。

 ・・・と、ディが」

「!!?」

天を仰ぐ銀狼少女に、肉塊が上を見れば八翼展開に光晶槍を構えたディ。

「ああっ、ばらしちゃ駄目でしょうっ!!  仕方ない。奴を肉団子に」

 「・・・承知っ!!」

降り注ぐ燐羽根の中、銀狼少女の刀斬撃に刻まれていく肉塊。

力量に真空刃を使うに至らないが、刀技のみでも肉塊を肉片へ粉砕。

肉片はグチョグチョと寄り集まり・・・

「???  力ヲ吸収出来ナイっ!!?」

「当然っ、この力は僕の支配下にありますからねっ!!」

ルナ離脱に燐羽根が更に散り、結晶の壁となって球状の閉鎖結界が展開

その真上より翼を失ったディが光晶槍を振り被り落下。

「そしてコレが我が師匠、かつて「沈黙の魔女」と呼ばれた魔導師が得意とする

爆裂呪文っ!!!」

「!!?」

振り下ろした光晶槍が閉鎖結界を打った瞬間、流れ込む魔力に中は業炎に包まれ・・・

・・・・・・・・・・・・

天下の街道、人影はたった二つ。 荷物を持って何も気にせずテッテッと歩く銀狼少女に

金髪の少年は元気無くトボトボと後を付いて歩くが

「はぁ・・・・・・(疲」

恋に破れた如く鬱に座り込んでしまった。

 「わう? ディ、如何した? 御腹、痛い? 変な物、食べた?」

「僕は人間として最低です。 彼女の死が残念であっても、哀しさに涙も出ない」

 「ディ、気にしない。 彼女、もっと前、死んだ。」

「気休めですよ。 もしかしたら救えたかもしれないのに・・・」

 「ディ、最後に、空の思出、あげた。 彼女、幸せ者。」

「・・・・・・はぁ(疲」

 「〜〜〜〜〜(悩」

あの後、ディはバーニッシュ氏に養子にならないかと誘われたが・・・

ある意味 仇である自分がいれるわけもなく、以上に成すべき事がある。

が、・・・もう完全にダメダメである。 取り付く暇もないくらいに鬱。

こうなるとルナに成す術も無く・・・いや、あった。姉貴兄貴分,大人達がよくやるやつ。

その顔を両手で挟み立たせ、首を無視で強引にブチュ〜〜〜っと。

「なっ、なっ、なっ・・・」

 「ディ、未だ、元気出ない? ・・・もう一度する」

「ああっ、もういいです。 十分元気でました、はい」

全く油断も隙もあったものじゃなく・・・刺さる視線に上の彼女に笑われている気がした。

・・・で、いつの間にか周囲の木々の陰から包囲されてたり〜

「おうおうおう、真昼間から見せつけてくれるじゃねえか。

抵抗さえしなけりゃ命だけは助けてやる。命だけは、な」

いかにもな格好の山賊の方々登場。んでもって毎度な台詞。

「何かこう・・・この面々には一気に気が殺がれてしまいますね(疲」

 「ディ、ここ、ルナに任せる。がうっ!!!」

「へっへっへっ、犬のお嬢ちゃんが何をしてくれるのかなぁ?」

 「おまいら、退治。」

以下、省略。 地面に転がる死屍累々の中、可憐に立つのは銀狼の少女のみ。

「わう、峰撃。命だけ、助ける。 でも、後、保障、しない♪」

生意気に可愛い御姫様。・・・そして、共に手を取り戦う相棒。

「・・・ルナ、一気に屋敷まで帰りましょうか」

 「わう?」 どうやって?

「天を舞い、風を斬ってっ!!」

気合に、少年の背より生える四の燐翼。荷物ごと背後から少女の柔かい身体を抱き、空へ。

空の上から見た光景は、色溢れ遥か彼方には広がる地平線。

 「わんっ、わんっわんっわんっ♪ わう?」

「・・・何でもありません。 では、いきますよっ!!」

涙を残し、少年は前へ進む。 二度と無意味な悲しみを生まぬためにも。

可愛くも生意気に頼もしい少女と共に。


(03.10/03〜03.10/10)



2007/12/30
「SH
RINE」