∴SHRINE∴
∴FANTASY LIVING THING PICTURE BOOK∴

■ 焔の魔剣 ■

■作者:nao 様/ 紅乃鳥飛鳥 様■

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■ 焔の魔剣 ■
7. Dragons Encounter




強い剣を造る為には

それなりの方法で鍛えるとか、鍛え上げた後何らかの力を付加するとか,

オリファルコン,ミスリル等の希少金属など特殊な材料を使うとか・・・

 

 

その日ある山で『竜神』が人に その血族に討たれ灰燼と化した

本来伝わるはずが無いその事実は奇しくも噂となり流れ・・・

「『竜神』と謳われる竜・・・その骸なら・・・」

よりにもよって、狂った鍛冶師

最強の剣を求め、最愛の者達をその贄するまで行き付いてしまったその男に。

岩たらけの嘗ての竜窟跡、その男はいた。

その戦いが過去の物となり処々草も芽吹き始め爽やかな風が吹く長閑な中、

『竜神』の骸など見付りそうにないと思われた。それでも

「くっくっくっ、あったぞ・・・」

角か牙か・・・唯一残った欠片 一振りの剣を鍛えるのに十分な大きさの。

強烈な力を内包するソレを「探知」の魔法を使ってまでして見付らないはずがない。

『竜神』の力。恐らく死に際に行き場を失った力が集まったのだろう。

天使の力。その時 天使が化した一振りの剣があった。力はその目的を果たす

ため『竜神』の額へと突き立てられた時流れ込み・・・

炎の力。焔の魔剣,焔の愛娘の渾身の一撃。それは霊獣へと具現化しても

何らおかしくはなかった。竜を灰燼と化し余りある力は・・・

これらの力が竜本来の力を核に絶妙なバランスで一つの力へと成りつつある。

嬉々として見付けた牙を己の鍛冶場へ持ち帰ったその男は早速欠片を鍛え始めた。

寝食を忘れ、全身全霊を掛けて、狂気に取り付かれながら・・・

そして完成した一振りの剣は片鋸刃湾刀、背にも使手を傷つけかねない返り、

「ついに最強の剣が・・・出来た」

そして狂暴な気を発していた。

その男は気付いていない。

鍛えたというより、宿る力に鍛えさせられていたという状況に。

剣の力が既に凡人に扱える代物ではなく、己がノマれている事に。

「最強の剣・・・やはり、そノ出来ヲ見ネバ・・・」

剣を写すその瞳には既に僅かに残っていてたかけなし理性はなく、

兇気に染まり・・・求めるモノは唯一、殺戮。

 

 

因縁の対決から十数日後、愛剣を失い隻腕に慣れたラシュイ=レファルド

レッドは思案の末、一つの結論に達していた。

ジャガーノート。

盲目,無腕で50年生き抜き世界征服を諦めていなかった事は仇敵であっても賞賛

否、戦士として尊敬に値する。

「・・・"ジャガーノート"は心眼を開いていた」

戦士(剣士)最高峰の技術が一つ、心眼

(うむ)

レッドの脈絡のない一言に同意するベルジュ。

「ふぇ!!? ど、如何したんですか二人とも、いきなり」

にビビるフォウ。まあ朝食を食べている最中に突然、頬に食滓を付けながら

そんな事を言われれば確かに恐い。

「レッドさん、頬に・・・」

とレッドの頬の食滓をスッと指で拭い、当たり前の様にその指を舐めるエルさん

貴方は大人です。

一人事態に付いて行けずオロオロとするフォウ

嬢ちゃん、まだまだ子供だなぁ。

(・・・未熟者。あのどれくらい経ったと思っている?)

「あぅ、もしかしてレッドさんが何を言っているか分らないのは私だけ?」

エルさん、何故フォウの方を見ようとせず

優雅に朝食を食べていらっしゃるのでしょうか?

レッドが(竜相手に)満足に戦えなくなった今、開店休業状態。

エルが一応、引退して田舎で静に暮らそうと言ってみたが

「俺は戦いの中でしか生きられない」とあっさり却下。

焔の魔剣フランヴェルジュを使うという案もあったが、

結局「使いにくい」の一言でそのままフォウが主で使い続ける事に。

もっともヴェルジュとフォウの相性は半端じゃないのでそれでよかった。

エルが財布を握っているため今の処まだまだまだ当分金銭の心配はない。

だからと言っていつまでも遊んでいい理由にはならない。次の段階へと進む時期。

("ジャガーノート"は仇敵とはいえあの強さは尊敬に値する。

あの強さの要といえるのが心眼なのだ。)

「でもレッドさんはちゃんと目は見えてますけど」

(未・熟・モ・ノー―っ!! 心眼とはただモノを見ることにあらず

森羅万象を視覚,聴覚,触覚,味覚,嗅覚の5感とは別で把握する事にあるっ!!)

「ふえええっ、で、でも、何故それがレッドさんの失った力の代りに?」

ゴンっ!!

フォウの未熟さに壁に立掛けられていたヴェルジュがもろコケた。

(こ、ここまで未熟だと鍛えがえがあるな。・・・単刀直入に言おう。

"ジャガーノート"は50年前と比較にならぬほど強くなっていた。)

「盲目,無腕にも関らずな。まあ、腕は・・・」

苦い顔をしながらレッドの合手。放ったらかしも何なのでヴェルジュを立掛け直し。

「それって・・・」

("ジャガーノート"自身の力は50年前より落ちていたぞ)

「あぅ〜〜〜(泣)」

フォウが言おうとする事を先にヴェルジュが封殺。

このままだと正解を出す前に知恵熱を出す確率高し。そこにエルが

「フランヴェルジュ、つまりそれは」

(うむ、フォウに聞こえないよう心の中で)

「・・・・・・・・・・・・・・」

(よろしい、正解だ。)

「あ゛あ゛あ゛っ、解っていないのは私だけっ!!?」

(何、そんなに難しい問題ではない。考える時間もタップリある。)

ヴェルジュ、フォウを可愛がる事に楽しさを見出したもよう。

問題は何故力が落ちていたジャガーノートが50年前より強かったか。

その答は既に何度も言われている。  それが心眼。

簡単に言うなら、戦いを第三者離れた視点,各種パラメーター込みで見れる。

心眼=「探索」魔法の超高度なモノと理解しても差し支えないかもしれない。

度合いは個人に寄るが。

しかも意識するだけでできる点では手順が必要な魔法より遥かに有利。

「ということは心眼があれば私ももっと強くなれるっ!!」

(ふっ、無駄だな・・・)

「きゃふん(泣」

いくら心眼があってもミえるモノを理解出来、利用する力量がなければ無意味。

そう云う意味ではレッドは心眼を得る事で十分なパワーアップを望めるし、

エルは神官(巫女)、支援が主なので既にそれらしきものはある。

フォウに関しては

(フォウは心眼を開く以前の問題だ。先ずは己に眠る力がある事を理解せよ。)

「えっ、それって何???」

(・・・・・・)

自身は気付いていないがフォウに眠る力、

魔導士でないためヴェルジュを介してではなければ発揮されないが、

それは"ジャガーノート"を葬った攻撃ですら片鱗でしかない炎。

もしかしたら具現化を遥かに上回る、結晶,物質化ですら可能・・・

「フォウさん、早く朝食を食べて下さいね。」

「ふええええ、スープ冷えちゃってるぅ(泣」

・・・多分。

 

 一般人に迷惑を掛けぬようドッサリ大量に食糧を買い込み

ヴェルジュ指導の元、3人は山に篭った。

テント二つ離らせて、レッド&エル,フォウ&ベルジュという風に・・・

視覚を魔導的,物理的(魔法を掛けた上で目隠し)に封じ

声しか聞こえないよう耳に綿を積め始ったレッドの修行は意外な処で頓挫した。

フォウ&エル相手の戦闘は封じる前と変らぬ程の動きを見せる が、

「・・・おわ!! ??? 

・・・ぬをっ!! ???」

「そこはっ」

(言うな、エルっ)

ごんっ

「〜〜〜〜〜っ(泣」

何でもない物にぶつかりまくり。

(理解するな。 心を解き放ち、ただ感じるままに動けば良い。)

「無茶、言ってくれる」

レッドは思いっきりぶつけた処が痛いのかしゃがんだまま唸る。

戦闘に関しては闘気を読み取り反応するだけですむ。

だから戦方はレッドらしくない受身という事にヴェルジュしか気付いていない。

ヴェルジュも二人に言うつもりはない。どうせスグばれる事だから。

(しかし、確かにこういう事も悪くないな・・・)

「如何した、ヴェルジュ」

(・・・いや、あの男に言われた事を思い出してな。)

人に使われ共に闘うだけではなく、育てるのも面白い と。

「あの男?」

レッドは視覚封印された状態で地に突き立てられた焔の魔剣の方を向く。

心眼が無くとも感の良い人間なら解るくらいに焔の魔剣は気配を発しているのだ。

まるで炎の塊が其処にあるかのように

(我とエルを解放せし男、そしてフォウの師匠)

エルとフォウから多少の話は聞いている。

曰く、正しき心を持つ可也の使手。それはヴェルジュを有していた事からも解る。

もっとも歴代最短で、何を考えているのかすぐフォウへと継承した訳なのだが。

「ライ とかいったな。 如何なんだ?その男はヴェルジュからみて。」

(その心はあたかも雲。確かに其処にありはっきりと見えるが

何モノにも支配されない。あの男なら容易に心眼を開眼出来るだろう。

いや、もしかしたら既に開眼していたかもしれん・・・・・・

まあ多少お遊びが過ぎる処があるが、其処はレッドと大差ないな。)

「・・・その男に対し、俺は如何だ?」

(・・・心が余りにも猛々しい 炎の様に。 いた仕方あるまい。

それがレッド自身。短所であり長所でもあるのだから。)

「・・・・・・・・・」

それは自覚している。そのせいでエルにはいつも迷惑を掛けているのだから。

(思えば、精神修行から始めるべきであったな)

「と言うと?」

レッドの背に薄ら寒いモノが走る。

「如何したのですか、二人とも」

二人(?)が熱心に話し合っている事に興味があるのかエルとフォウが側に

(うむ、レッドに精神修行を課す話を)

「え゛っ、レッドさんにぃ!!?」

精神修行と言う言葉にエルの声が上擦り凍り付いた。

「せ、精神修行ってそんなに凄いものなんですか?」

「レッドさんに精神修行・・・(ガタガタブルブル)」

精神修行、冷静沈着なエルを怯えさせるほど凄いものなのだろうか。

「それほど大変なモノなのか、精神修行は?」

(それほど大変なモノではないと思うぞ、我は)

「レッドさんが欲求不満で禁欲(特に性欲)できるとお思いですかっ!!」

「「う〜〜〜ん(悩」」

(う〜〜〜ん(悩))

全員悩むなよ。

「やらなければ何も始らないだろう」

自分がどんな目に遭うか知らないから平然と言える。

「そ、そうですね。駄目で元々とも言いますし」

失敗前提かよ。

精神修行といっても基本は今までと同じよう視覚,聴覚封印のまま

健全な生活を行うだけ。 表向き

因みに、過酷な精神修行の簡単に行えるモノに完全に五感を封印する、

つまり精神を闇に置くというものがある。常人の場合1日も耐えられないらしい。

しかしレッドの場合、行った処でずっと寝てるがオチ。

(エルよ。二人だけで話がある)

「二人だけ・・・ですか?」

ヴェルジュの同意に、エルはヴェルジュを携え二人から離れ

「二人だけのお話とは何でしょうか」

と言いつつも大体察しはついている。

(うむ、本来ならレッドとエルの間の事に口を出す気はないのだが)

「・・・・・・・・・・・」

(性行為を行うな。  そして、レッドを弄れ)

視覚,聴覚封印を既に行っている以上、これが一番手っ取り早い。

まあレッドなら獣化する事はあっても壊れる事はないだろうから。

・・・レッドなら獣化したら、それそれで大問題ではある。

なんせレッドは竜人のクオーター。変身こそしないだろうが・・・

「厳しい・・・ですね」

(相手がレッドだけに生半可な方法は通用しないのだ。仕方あるまい。

まあ、もしトチ狂いフォウに手を出そうものなら我が)

ヴェルジュ、ちょっと父親の心境?

「うふふふふ、その時は・・・」

何故か穏やかに微笑むエル。

・・・ヴェルジュは剣になり初めて恐怖というものを覚えた。

 

レッドの限界。それは意外に速かった。 まあ、毎食精が付く食事

夜は身動き出来ぬよう拘束された状態で鋭敏化した触覚に

エルがピッタリと添寝等々々々々。

その苦痛、推して知るべし。

「さ、最近、レッドさん鬼気迫っていませんか?」

「・・・・・・」

変な事を口走りそうなので当人は無言。エルは素知らぬ顔。

(フォウが気にする事ではない)

「はあ・・・」

とヴェルジュはフォウに気使いをさせないようにするが、

フォウは如何も居心地が悪い。こう、身体がムズ痒いような。

それは皮肉にもレッドの発する気に影響を受けているから。

そして、それは起るべくして起った。

今レッドの感じる限り、フォウとヴェルジュは近くに居ずテントにエルが居だけ。

もう我慢の限界。

心眼なんぞ知ったこっちゃない。ただ女体を貪りたいと獣欲に支配され、

つーか半ば獣化してそのテントへ。

「ふーっ、ふーっ、ふーっ(ギリギリ)」

レッドの剣幕に、テントに侵入した途端獲物が硬直した気配が伝わって来る。

それにレッドは思わす笑みが零れ、獲物は硬直から怯えへ。

一瞬、フォウとヴェルジュに助けを呼ばれる前に押さえ込み、

抵抗出来ないよう頭の上で腕を縛り脚の間に腰を割り込ませ、

片腕だとは思えないほど手際よく強姦的に

「乱暴で悪く思うな・・・もう、我慢の限界なんだ・・・」

やり始めてしまえば理性が吹っ飛び終るまで完全に獣化してしまうのは

解りきっているので一応謝り、その隻腕で柔肌を撫で回す。

緊張しているのかいつもよりも固い筋肉質の感。

それでも撫で回す毎にビクッビクッっと若魚の様に肢体が跳ね、

次の瞬間

ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

ビック

空間が震えるほどの怒気に今度はレッドが硬直。

その発生源は背後、テントの出入口。恐る恐るミてみると怒気のオーラを纏った

「エル・・・と、と、と、ということは」

組伏しているのはレッドのせいで着崩れ困惑しまくり今にも泣きそうなフォウ。

エルはレッドの苦しむ姿を見ていられずヴェルジュにこの精神修行を止めるよう

二人から離れて話をしていたのだ。で、其処から帰ってみるとこの始末。

(に、逃げろレッド)

と唸るのと同時に、ヴェルジュがエルに支配され轟炎を放つのがミえた。

古人曰く、うら若き乙女の怒りは竜の怒りすら及びもつかない。

「思い残す事はありませんか?(ニコ)」

断言してもいい。今のエルならあのジャガーノートすら容易に撃退出来ると。

その日、山には何本も火柱が立ったという・・・

 

夕方、浮気ではなく勘違いだとフォウとヴェルジュの説得に

何とかエルの怒りは収まり、レッドがビクビクと怯えつつ戻って来た。

「お、俺は」

口を開いたレッドの口をエルはピッと指で遮り。

「今回は仕方が無く、何も無かったので不問にします。いいですね、レッドさん」

「お、おう、わかった。」

(何であれ一件落着。この修行はもう終りだ)

妙にゲッソリ 強制的に力を使われ精神的(?)に疲れ果てたヴェルジュの一言。

それを別の意味に捉えたレッドは無念と安堵が入り混じり複雑な心境。

「で、でもレッドさん、随分とタイミングよく帰ってきましたね。」

(当然だろう。心眼でミたからな)

「!!? こ、コレが心眼か?」

「「えっ!!?」」

エルとフォウの驚愕がミえる。 ミなくとも声でもわかるが。

(・・・気付いていなかったのか)

心眼を開くのには個人差があり、決った型はない。

当然、冗談みたいな恐怖では開かない ということもない。

「何だかな・・・」

「では、目の封印を解きます・・・」

エルがレッドの目に手やり念じた事で封印が解けるのが、レッドにミえた。

ゆっくり瞼を開き、

「っ、久しぶりに見た夕日がこんなにも美しいものだとはな・・・」

エルも・・・なんて事は口が裂けても言わない。

やはり心眼でミるのと違い実際に見るのは格別。

「短い間とはいえ封印で目が衰えています。当分は無茶なさいませぬよう」

と覗き込むエルが限りなく愛しい。

「あ〜〜、私達お邪魔みたいなんで向う行ってますね。」

(我もかっ!!?)

もう見詰め合う二人だけの世界。

気を使ってヴェルジュを引き摺って行くフォウに対し反応すらしない。

その夜、二人は激しく燃えたかは言わずとも・・・

「さみしいな。 私も・・・」

とフォウは抜き身のヴェルジュをギュッと抱締める。

刃が肌に当ろうと傷は付かない。付くはずがない。

ヴェルジュにとってフォウは大事な・・・・・・主なのだから。

(・・・・・・安心しろ。数年もすればフォウはいい女になる。

さすれば、相手なんぞ選り取り見取りだ。私が保証しよう。)

「ありがと、ヴェルジュ♪」

ふと、本当にふと思う。

幾千年も魔剣として生きてきたのに今更、何故魔剣となってしまったのか と。

人ならぬ身では抱締められず、言葉でしか慰めてやることしか出来ない。

しかし魔剣と成らねば彼女と再会、否、出会う事は出来なかった。

いや、そもそも魔剣と成らねば彼女と添い遂げる事が

「・・・ルジュ、ヴェルジュ!!」

フォウの呼掛けに己が炎を発している事に気付いた。

炎はあたかも抱擁するかの様にフォウの肢体に絡み付き・・・

(!!? す、すまん、フォウ)

「大丈夫だよ、熱くなかったから。でも如何したの?」

(・・・人を育てる・・・変える事は己も変わるという事。

如何やら我は御前達に感化されているらしいな。)

「ん〜〜、それって悪い事?」

悩み苦しみ、自問自答し 色事をまだ許されている。

(いや、いい事なのだろう。悩めると事は成長出来る事なのだからな)

進化とは全く別物・・・

「ふ〜ん♪」

乙女と魔剣の異質(?)な取り合わせ。コッチはコッチでいい雰囲気ではある。

 

そして4人は下界へと降りて来た。とんでもない事が起っている事も気付かずに。

降りてきて早々麓の村では冒険者の傭兵募集をしていた。

なんでも近隣の小村が相次いで壊滅していると。

荒された様子はなく、ただ人のみが一刀両断。

「へぇ〜、恐いね」

「だからレッドさん,フォウさん,私を傭兵として登録してきました。」

「え゛・・・」

「ん、腕ならしには物足りないが・・・いいんじゃないか。」

「あの・・・」

(どうした、フォウ。顔色が悪いぞ)

「傭兵として登録してきたって?」

「1,2週間、事態が落ち付くまでこの村を警護するということです。」

「やだやだやだ、いやぁ〜〜〜(怯」

「な、何がですか?」

「だって、お化けを相手にするんですよぉーっ」

誰もお化けを相手にするとは言っていないが・・・そう解釈も出来なくない。

(・・・これが、『竜神』と戦った者か? ジャガーノートが哀れだ)

「だってジャガーノートはちゃんといたじゃないですかぁーー」

「・・・所謂、食わず嫌いというものですね。

そうレッドさん、コレを・・・」

フォウのお守をヴェルジュに任せ、エルはレッドにそれを

「・・・手袋?」

「ええ、もう貴方を怪我させたくありませんから・・・」

優しく装着させる。ピッタリのフィット感にコレはオーダーメイド?

しかし、手袋一つで怪我させたくないとは如何ほど

「これは、玉(金剛石)を糸にした物で編み上げてあるんです」

そう言った特殊繊維のモノは瞬間的な圧力,刃物に絶大な威力を発揮するという。

「ふむ、それならコレで刃が掴めるな」

「レッドさん!!」

「拗ねるな。 もう無茶はしない」

心眼を獲得してせいか以前より落ち付いて見えなくも・・・

「では早速・・・」

・・・だぁ〜かぁ〜らぁ〜

 

難なく数日が過ぎた。3人以外警備の者はなく、

他の村で何かあったという話しもない。だから

「明日で御役御免と・・・」

と夕日の中、村にほったらかしにしてあった斬馬刀・・・もとい

この男の手によって竜殺しと化した刀で肩を叩きつつレッド

「よかったじゃないですか、何事もなくて♪」

(我としては何事か遭った方が良かったのだが・・・フォウためにも)

「ヴェルジュのバカ・・・」

とヴェルジュの刀身を指でクリクリしてみるフォウ

甘えて見せてもヴェルジュが出せるのは炎だけ。

「何がしたいのですか?」

暇なので一応念のため聞いてみるエル。

「ん、何って・・・何がしたいんだろ・・・(悩」

そして再び沈黙が支配。

する事が無く、全員が口を開こうとした瞬間

ぞくっ

「ば、ばかなっ!! 奴は死んだはず」

(我がこんなに近づかれるまで気付かなかっただと!!?)

「わ、私にも感じるなんて・・・ゆ、幽霊?(ガタガタブルブル)」

「みなさん、これは死者のものではありません。  来ますっ!!」

エルの声に気を取りなおし、一同に構える。

やって来たのは・・・一人の男。幽鬼の様に窶れ、目には凶光。

「応えろ、何故貴様からシャガーノートの気を感じるっ!!」

レッドの叫びに・・・その男は意外そうに嬉々として応えた。

「・・・ほう、『竜神』の関係者か。『竜神』を討った者?

ならばお前を斬ればコノ剣ハ真ニ最強ト成ル!!」

そう、気を放っていたのは男ではなく携えていたその大刀。

それで凡その見当は付いた。

「みんな手を出すな。シャガーノートとの因縁今度こそ俺が付けるっ!!」

「気を付けてください。似ていますが・・・もう彼の気ではありません」

離れた距離、エルの声に男が一閃。

「「!!?」」

真空斬が娘達を襲うが、瞬間レッドが前に立ち振るい相殺。

「素人が真空刃だと?  貴様、俺が相手すると言っている」

「言ッテイルノダヨ、コノ剣ガ。皆殺シニシロ、ソノ剣ヲ破壊シロト」

(この男、我が魔剣である事を知っている。

フォウ、構わん。炎で燃やしてしまえっ!!)

「はいっ!!」

フォウとヴェルジュが男へと火炎球を放つが

斬ッ!!

一刀両断。その上

(・・・・・・)

「剣が炎を・・・」

喰っている。男は素人だが剣のおかげか並外れた剣技を使える事が

レッド,ヴェルジュにはわかる。近接ではフォウ,エルが確実に負ける程に。

どの道レッドしか戦えない。

「この二人とヤりたくば、先に俺と戦うことだ。」

二人を引かせ、前に出る。が

「ハアアアアア」

「っ!!!」

一瞬で居合を積めた男の斬撃。

珍しく先手を打たれ防ぐレッドの剣がゴリゴリと嫌な音を立てつつ削れていく。

「なめるなぁっ!!!」

撃ってみるが、男の限界無視の力にアッサリ押返され

「あ゛あ゛あ゛、レッドさんがっ!!」

「・・・まだ・・・大丈夫。でも・・・」

男の身体がその力に耐えきれず崩壊するのが先か、

レッドの剣が使い物にならなくなるのが先か。

ヴェルジュを使わせたいがそんな隙もない。

バキンッ!!

先に剣が付根から圧し折れてしまった。それを捨てレッドは防戦一方

「っ!!!」

「大丈夫。レッドさんなら・・・信じましょう」

迂闊に手を,脚を出せば斬られる。

しかしこの戦い、相手に攻撃出来なくてもいい。

その事をレッドもミて解っていた。だからグローブの隻腕で刀の腹を叩いて捌き

「如何した。俺を、殺すんだろう?」

「ガアアアアア」

挑発する。男は上段に振り上げ、振り下ろし

「っ!!!」

掴んだ 刃をしっかりと動かぬよう。 その刀からレッドへと力が流れ込んでくる。

ジャガーノート,母セイラ・舞天使,ヴェルジュ,フォウ。レッドに深く関った人々の。

もうピクリとも動かない。

「これで・・・終りだあああああああっ!!!」

一蹴に男は刀を残して吹っ飛び、転げ・・・横たわったまま動かなかった。

「異様な力も・・・結局はこいつのおかげだったか。」

刀を空に投げ、ちゃんと握りを掴み持ち

・・・まるでレッドのために誂たかのような感触。

狂暴な気もレッドに抑えつけられ嘘のように鎮まってしまった。

「・・・ちょっと待っててくれ」

3人(?)を残し、倒れた男の元へ。  男の息はまだあった。しかし・・・

レッドの蹴りのせいではない。やはり刀の力に男の身体が耐えられなかったのだ。

「・・・剣は・・似合う使手が・・いて・・こそ・・・最強。・・・使え。」

「この力・・・忌まわしい力は断つ」

「・・・好きに・・するがいい。・・力に・・善悪はない。

・・・全ては・・使う・・者・・次第だ」

負け惜しみか、それとも力にノマれ深淵をみたからこそ理解したのか。

何で在れ男は物言わぬ骸と化してしまった。

「・・・力とは何だ?」

「・・・・・・・・」

後へやってきたエルは死者に対し黙祷後、心配そうな顔のまま何も言えない。

「レッドさん・・・」

(・・・感傷に浸るか、レッド)

フォウは力を語るに至っていない。

ヴェルジュの答は自身最近それだけが正解で無い事に気付いている。

その答は己自身で出すしかない。

 

レッドの目の前、覇気溢れる男がいた。

レッドはその男の無腕盲目の見窄らしい姿しか知らないが、

それでもその当人だと判る。

「・・・何を血迷って化けて出てきた、ジャガーノート」

「一寸した暇つぶしに自分の孫とお話でもしようかと思いましてね。」

傍目から見れば兄弟としか見えないだろう。

「俺は貴様なんぞと話す事はない。サッサと地獄へ帰れ」

「この世界は弱肉強食。『力ある者』は生きる限り共に戦いがあります。」

「無視するなボケ老人。」

「貴方がたが私に勝った以上、いえ、私と戦う事を決意した時点で

『力ある者』と認められました。戦い続けてなさい、その生ある限り。

・・・私としては、私を葬った者が雑魚に負ける事は我慢なりません。」

「・・・何が言いたい、貴様」

「いえいえ、弱い貴方に私の力を使う事を許してあげようと言ってるのですよ。」

「???」

「あの刀『滅竜刀』を私に気がねなく使いなさい。

さもなくば貴方も貴方の女も、息子『ラシュイ=レフェル』の様に・・・

まあ、息子達は身の程知らずのくせに善戦しましたがね」

「るせぇ黙れ、誰が使うかあんなモノ。あんなモノがなくても俺は護るっ!!!」

「では、私と戦いソレヲ証明シテミセナイサイ『レイバード=レファルド』」

レッドの目の前、ジャガーノートが完全体の竜へと変化していく。

対し、レッドはいつも通り隻腕のまま。

いつもの格好+その手にエルから貰った手袋が装備されているだけ。

「結局それが目的か」

夢でレッドを殺し、そのまま葬りさってしまおうと。

「好キニ解釈シナサイ。貴方ガ生残ル為ニハ私勝ツシカナイノデスカラ」

襲いかかる爪の一撃を蹴りかわし距離と取る。

夢であるため高低差はないが・・・それでも分が悪い事には変わりない。

・・・しかし、何故ジャガーノートは五体満足なのだろうか。

もしかしたら・・・

「・・・無駄デスヨ。『舞天使』ハモウコノ世ニ存在セズ,焔ノ魔剣ハアノ娘ノモノ

トイウ認識ガ貴方ニアリマス。夢ハ思イガ全テ。力ヲ否定スル貴方ニ勝チ目ハナイ」

ザクッ!!

「ぐっ・・・」

竜爪の真空刃でレッドの胸に刻まれる傷

「デハ死ニナサイ」

一瞬で、レッドの周囲に爆裂火炎系立体魔方陣が展開。

そして

轟っ!!!

「ぐああああああっ!!!」

たった一発。それだけでレッドは半ばケシズミで瀕死。

手袋が無ければ・・・エルの思いが無ければ微塵も残っていなかっただろう。

「ホウ、アノ一撃ヲ生キ延ビタカ。デモ二度目ハアリマセンヨ。

・・・何ト言マシタカ、貴方ノ女ハ? ソウ、『エル=プリス』」

「・・・き、貴様」

「イイ魂ヲシテイマス。マルデ貴方ノ母ト同様天使ノヨウニネ。

サゾカシイイ声デ鳴イテクレルデショウ。」

「貴様あああああああああっ!!!」

「貴方ガ寂シクナイヨウ後デ送ッテアゲマスヨ。モットモ、

私ガ楽シンダ後ナノデ魂ガ砕ケテイルカモシレマセンガネ」

再び爆裂火炎系立体魔方陣が展開。

夢の中、思いは力となる。力は既にあった。

「やらせるかよおおおおおおおおっ!!!」

レッドの思いに応えその隻腕の手に光が集い、刀となる。

そして一閃、それだけで魔方陣は崩壊。其処を跳出し

「おおおおおおおおおおっ!!!」

斬っ!!!

竜の胴に袈裟掛けに走る一線

「・・・我言葉ニ惑ワサレズ『滅竜刀』ヲ使ウトハ、

貴方ハ私ガ思ウ以上ニ単純ダッタヨウデス」

真に『滅竜刀』がジャガーノートの力のモノならレッドに使えなかっただろう。

しかしレッドは知っている。『滅竜刀』に宿る力がそうではない事に。

「御託はもういい。」

「フフフ、デは頑張って生残り、私の志を受け継いで世界征服を成して下さい。」

ボロボロと崩れ逝くジャガーノート

「誰がするか!!」

「・・・イイでしょう。先に地獄で貴方が来るのを待っていますよ。」

「悪いが俺は当分地獄へ行く予定はない。」

「んん〜、連れないですね。貴方といい、息子といい・・・」

とことん嫌がらせをしなければ気が済まないらしいジャガーノート

・・・そして気付けば

「・・・夢?」

宿のベットの中、腕のない左側にエルをピッタリしがみ付かせ寝ていた。

夢・・・ではない。何故なら胸に赤く腫れた爪傷らしきもの。

すぐ治まるだろうが、撫でると少し痛い。ついさっき付けられたかのように。

「・・・本当に化けて出たか」

レッドの呟きにエルが身じろきし、寝惚け眼で心ココにあらず。

「ん・・・レッドさん・・・如何したのですか?」

「ちょっとな・・・夢を見ただけだ」

「そうですか・・・あっ、傷」

「ああ、さっき付けられたヤツか・・・」

「ごめんなさい・・・」

赤くなるエル。

どうやら情事の際に快感に悶える余り爪を立ててしまったと思ったよう。

勘違いなのだが、ソレをワザワザ言うほどレッドは優しくない。

「気にするな、この程度朝までに治る。 ・・・ふぅ〜〜」

「???」

思わず漏れた深い溜息。その訳は当人のみが知る。

そして時は回り、翌朝。

4人4様(?)の朝を迎え、それぞれ荷物を持って食堂に集まり

「その剣は・・・」

「ああ、この『滅竜刀』も俺の血の力と同じ・・・だから持っていく」

(やはり、亡霊・・・)

「亡霊? ぼ、亡霊ってなんですか?」

(・・・・・・・・)

「「・・・・・・」」

「その沈黙は何?」

(・・・いや、フォウの後にだな)

「ひいいいいっ!!? (へなへなへな、ペタン)」

「ヴェルジュさん、やり過ぎですよ(笑」

「くっくっくっ・・・(笑」

(・・・・・・・・(笑))

「べ、ヴェルジュの馬鹿ァ(泣」

さっきまでの重い空気は何処へやら。

レッドは彼と違い仲間がいる。彼はソレを甘いと言うだろう。 

だが、時にはその甘さが人を支えてくれる。

その甘さのおかげで彼は勝った。

レッドは彼とは違うのだ。

その力を得て冒険は続く。


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■ 焔の魔剣 ■

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