∴SHRINE∴
∴FANTASY LIVING THING PICTURE BOOK∴

■ 焔の魔剣 ■

■作者:nao 様/ 紅乃鳥飛鳥 様■
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■ 焔の魔剣 ■
1. さる昔話



「これは、遠い…しかし、そう遠くもない昔の話。
 もう何年も前の話でしょうか…
 一時期我が神殿に収められ、極稀その力の余り具合を披露してくれた『魔剣フランヴェルジェ』が、
 此処に来た経由となるお話です。」

ギィ…

鈍い音を立て、酒場の扉が開かれる。

「オヤジ、酒くれ。いつものやつ」

テーブルにどんっ、と座った男は腰に下げてある袋から金貨を取り出し、枚数を数え始める。

「…ひーふーみーの………」

「あいよ、お待たせ」

マスター直にお出迎え、そして酒を置いて隣に座る。

「よう、どうだった?今回の仕事は。まぁ、アンタなら楽勝だったろうが―」

「ちっきしょう!騙されたぜ、石っころ入ってらぁ!!金貨が20枚も足りゃしねぇ!!」

ドンッ、と忌々しそうに机を叩き、

「当たり前だろうが!俺を誰だと思ってやがる。あんな仕事、赤子の手を捻るより楽ってもんだぜ」

不機嫌面でマスターの問いに答える。

「なんだ、また騙されたのか。…つくづくアンタも単純とゆうか…」

「ああ゛!?なんかいったかオヤジ!」

「…いや、なんでもないさ」

この時の彼が頗る不機嫌なのは百も承知なので逆らわない事にしているのがマスターの心得だ。
…最も、彼がテーブルに着くと同時に金貨の枚数を数え始めた時はいつもこうなのだが。

ギィ…

再び古びたドアが音を上げる。

入ってきたのは、黒尽くめの女。
辺りを一通り見回し、彼を見つけたかと思うと

「…ちょっといいかしら?」

すると一転、彼の顔が仕事顔になる。

「…何の用だ?いっとくが今の俺ぁ不機嫌だぜ。前金でも払って貰わない限―」

ヂャララララッ

女が腰に下げていた袋から、テーブルの上に金貨をバラ撒く。

「これで宜しいかしら。」

「ヒュゥ…わかってンじゃねぇか。要領のイイ女は好きだぜ、どうだ?今夜一緒にでも」

「ご生憎様、貴方が女垂らしなのは耳に入ってるの。今は仕事の話だけお願いできるといいんだけど」

表情一つ変えずに言う女。

「チッ、固ぇ女だな。野郎共!俺のおごりだ、派手に飲んどけ!!」

『オーッ!!』

「んで、その仕事ってェのは何だ?…前金でこんだけ出すって事は"裏"か?」

裏……ギルド<仕事仲介所>を通しておおっぴらに取り引き出来ない仕事の事を彼はそう呼ぶ。

「ええ。……」

ふと、横に座っている酒場のマスターに目が行く。

「おっと、それじゃあワシは仕事に戻るぞ」

その視線に気が付いたマスターは、カウンターへとおごり用の酒を準備に戻る。

「内容は至って簡単。ヴァラスバードの卵と、そのくちばしをとってきて貰いたいの」

「簡単、ねェ……まぁ確かに簡単なこたァ簡単だが……後金は幾らだ?」

珍しく彼の顔が曇る。

「80枚出すわ。…そうね、取ってきた数によって幾らか足せるけど」

「……分かった。んじゃ、今から行って来る。明日の正午、またここに着てくれ」

そう言うと、彼はテーブルの上にバラ撒かれた金貨を拾おうともせずそのまま酒場から出て行く。

「…場所分かってるのかしら、あの人?」

地理関係に全く無縁な彼を気遣う言葉が、騒ぐ酒場にぽつりと響いた。

 

「さーぁてと………………ヴァラスバートって何処に居るんだっけか?」

後頭を掻きながら、一人街をうろつく彼。
ふと思い出したかのように、

「…嗚呼、そういやぁギルドのレッドリスト<絶滅危機種表>に乗ってたな。…確か、生息地は―」

 

キキキキキィ……キキキキキィ………
木の葉が擦れる音に紛れ、何かの鳥の鳴き声が聞こえる。

「……さて、着いたはいいが……」

この森…ローヴァスと呼ばれる、特S級危険指定区域に当る場所。
その危険な場所で狩りを行い、生計を立てているのが彼等ハンターである。

「ヴァラスバード、ねぇ。あの鳥の卵?…全く、『簡単に』言ってくれるじゃねェの、あの女」

彼の表情が曇っている理由。

「野郎の巣がローパーの枝に出来てるっつぅんだから…」

ローパー、別名森の守護者。
その枝から繰り出される一撃は並の剣士を軽く吹き飛ばし、
迫り来る蔦は冒険者達を捕らえその根から養分を吸い取る。

彼が躊躇っているのはローパーが厄介だから、では無い。
精々B級止まりの、彼にとっては"雑魚"に過ぎ無いローパーが彼を困らせる唯一の手段、

「畜生がっ、ドコに居るんだよローパーは!!!」

そう、ローパーと普通の木々の見分けは全くもってつかないのだ。

―夕刻―

「ちっくしょう、もう暗くなってきやがった…元から薄暗い森だっつうのに…」

酒場を飛び出したのは昼。今は夕方。
しかし収穫はゼロ。

「あ゛ー、このまま帰るって訳にもいかねェしな……卵一個すらとれねェでおちおち帰れるかっつうの…」

しかし彼は既に帰れない事に気がついていない。
この森には強力な磁場が幾ヶ所もあり、、コンパスが全く持って機能しない。
彼は同じ道を何度となく通って居る事すら気付いていないのだから。

キキキキキィ……キキキキキィ……

「……この鳴き声……」

近くで聞こえる、奇妙な鳥の鳴き声。
それは侵入者に対する鳴き声であり、眠れる森の守護者を目覚めさせる声でもある。

ザワザワザワッ

一瞬、木々がざわめいたかと思うと、

ビュンッ

「うぉっと!?」

背後にそびえたっていた木の枝から一撃が繰り出される。

「ちっ、アホ鳥に見つかったか…!野郎、鳥のクセして鳥目じゃねぇからな…」

マメ知識を披露している場合では無い。
ぞくぞくと集まるヴァラスバードとローパーの蔦の群。

「ハッ、飛んで火に入る夏の虫たァこのこったな!!覚悟しやがれ!!」

斬ッ

彼が群れる蔦を一閃、と同時に燃え上がる。
これが彼の得物…魔剣、フランヴェルジェ。
その一撃は炎を纏い、立ち塞がる者を灰塵と化す。

「キキキキキィッ、キキキキキィッ!!」

奇妙な声を上げながら、ヴァラスバードの群が襲い掛かってくる。

「鬱陶しい!!」

またも一閃。すると放たれた火炎真空斬が、鳥達を焼き払い落として行く。

「ふん、他愛も無―」

キキキキキキキィッ、キキキキキキキィッ

大剣を肩に、一息つこうとした正にその瞬間、別の場所から例の鳴き声が聞こえてくる。

「―ンだ?俺の他にも、こんな場所に来るヤツが居るってぇのか?」

こんな場所。
特S級危険指定区域。
精々出てくるクリーチャーと言えば、
今見えたヴァラスバード、ローパー、ウッドイーター程度である。

―だが、真にこの区域を危険とされる訳。
フィルガラウスと呼ばれる、飛竜の中でも最強の部類に入る竜<ドラゴン>。
気紛れにこの森に君臨するその飛竜こそが、森を特S級危険指定区域にする最要因である。

ぼやきながらも、骸からくちばしを切り取ろうとする手前。

「…難だ、まだ俺の邪魔し足りねェってのか?」

うねる蔦が八方から迫り来る。

斬ッ

轟ッ

一瞬にして灰と化した蔦。
が、次々と蔦は正に文字通り沸いて出てくる。

「チッ、手前のミスすら尻拭えねェ野郎が…どこぞのアホ鳥に見つかったのか?
……冗談じゃねぇ、難で三下の面倒事に俺まで巻き添え食らわにゃならねェんだよ!」

うねる蔦を目前にぶつぶつと独り言。

「でぇぇぇりゃあぁぁぁ!!」

気合を入れる声と共に、その場にて一閃。
三度焼き払われる蔦は、それでも尚衰える事無く沸き続ける。

「…ん?まてよ、そういや木材野郎<ローパー>の蔦が在るってことは卵も近くに―」

今更な事を考えていた、その時。

「いやぁぁぁぁあっ!!」

「―って何事だ!?」

叫び声を聞いた方向に振りかえると、長い金髪の…恐らく人間の若い女性が、
目前のローパーから延びる蔦によって両足を絡まれ尻餅を付いて居た。

「成る程…あいつか?先からアホ鳥から鳴かれてたのは。
それにこの蔦…既に一匹捕獲済だから邪魔すんな、と。……って冗談じゃねェ!!」

納得してたかと思うと、彼は慌てて周囲の蔦を焼き払う。

「全く、Bランククリーチャー相手にロングソード一本で挑んどるたぁ…どこのトーシロだ、あのアマぁ!」

言うが早し、彼はその大剣を両手に構え直し、次々と行く手を阻んでくる蔦達を切り裂きながら駆け寄る。

「髪が大事なら押さえてな!一緒にぶった切っちまうぞ!!」

辿り付いた彼は軽々と跳躍したかと思うと、
とっさにその靡く金髪をぎゅっと握り締めた彼女の足先に大剣が通る。

斬ッ。

そう鈍い音と、大剣が地面に突き刺さる音が聞こえると同時に、ローパーの声にならない悲鳴が聞こえる。

「伏せてろ!」

そう後で腰を抜かしている彼女に言い放ち、大剣を地から引きぬく。
そして引き抜かれた刃が丁度伏せた彼女の頭上を通り、勢いをつけ戻ってゆく刃が巨木を真横に斬り倒す。

ズゥゥゥン…

「あ………」

ようやく声の出た彼女が、自分の置かれた状況に気付く。
助かった……とでも思ったのだろう、表情が緩み―

―が、干渉に浸るスキも無く彼女は担がれる。

「って、え、えぇ!?」

「バカ野郎!何ボケっとしてんだ、さっさと逃げるぞ!!」

急な出来事で正常な判断が出来ないのか、為すがまま肩に担がれ、
走る揺れからお腹が気持ち悪い…と思いながらも、
後より迫り来る(最も、彼女にしてみれば目前だが)状況に蒼白する。

巨大な蔦の群れが二人を追いかけてきているのだ。

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

本日二度目の叫び声を聞いた彼は、

「ええい、耳元で叫ぶな!捨ててくぞこらァ!!」

彼女を一喝し黙らせる。

彼が向う目的地は只一つ…

「あったっ!!飛びこむぞ!」

「ええ!?何、何が一体どうなってるのよぉ!!」

彼女の疑問を他所に、泉へと飛びこむ二人。
すると不思議と蔦は泉の手前で躊躇し、散り散りに引きかえして行く。

幸い、二人ともに軽装(プレート系の鉄製防具をつけていなかった)為直ぐに起き上がる事が出来、
引き返していく蔦を唖然と見ていた彼女が先に口を開いた。

「な…引き返して行く……?」

「全く…結局今日の収穫はゼロで終いになりそうだな。
俺のハント邪魔される挙句、その原因がトーシロ金髪娘たぁ…っかー、世も末だな…」

「……っ、侮辱は許さんぞ、貴様!」

「威勢が良いのは結構だがな、娘さんよ。この森で…
っつーか植物系C<クリーチャー>が居る場合、
『泉』が最安全地帯だって事すら知らない時点でお陀仏級だぜ?」

泉…ローパー等を喰らう、ウッドイーターが良く水を飲みにくる場所。

「そ、そんな事言われても……私は只任務でだなぁ…!」

「其の任務だかなんだか知らねぇが、人様のハントを邪魔した挙句言い訳たぁ往生際悪いな。
その格好を見る限り、神殿関係者かなんかだろ?
…だったらもうちょっと勉強してから危険指定区域に行くこった」

水に濡れ、ボディラインがくっきりと見える程透けた服をにやけた目で見ながら彼が言う。

「なっ……」

自分の格好を確認し、彼女の顔がみるみるうちに赤くなり…

「みっ、見るなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

バチーン………

 

今日一番に響の良い音があたりに木霊する。

「……そんな見られて困る程でけぇ胸じゃ無いくせに…(ぼそっ)」

泉から上がり、帰り際の一言。

 

「無事彼女のお陰で当神殿に帰還した二名は、危険手当の支給を求めました。

 ですが、この時彼…ラシュイ=レファルドのした証言から、
彼は第一級希少生物取り扱い法違反の容疑で罰金となり、
所持金不足にて彼はその魔剣フランヴェルジェを没収される事となりました。
之を収容する最中、剣に触れた神官数名が突然炎上…一瞬にして灰と化した為、
私が直に封印を施し倉庫に保管しました。

 …余談ですが、彼女のおかげで当神殿に無事(?)生還した二名のうち、
男性の両頬は手の平型に赤く腫れていたそうです。
そして帰還した新米神官のセイラ=クロスイは、
この一件以来神官職の辞職・修業の旅に出ると申し出ました。
無論私はこの申し出を受理し、危険手当と旅路に必要と思われる最低限の物資を渡し、
去る二人をいつまでも見守っていました。

 …これが、当神殿に置ける収納されし魔剣…フランヴェルジェに伝わるお話です。
あれから幾年もの月日が流れますが、未だに"彼"の使い手は見つかって居ない模様です。

 私の直感が告げます。
そして、"彼"が語ります。
『…もうすぐ…もうすぐ、我が主が現れる…』…と…」

 

 

生物概要

ヴァラスバード(Valassbird)……ローヴァス(Lowvas)の森に生息する怪鳥。
全長1.3m、翼を広げると3.3mもある。
その卵は栄養満点でいかなる病気にも効くと言われ、美容効果もあるらしい。(悪魔でゴシップだが)
そのくちばしは万病に効く特効薬になる材料の一つとなる。
クリーチャーランクはC。
並の冒険者であれば一人で太刀打ちできるが、集団で襲い来る様は鋼鉄の鎧すらも引き裂くだろう。
因みにその鳴き声は森の守護者であるローパーを起こす役目と、侵入者に対する警報の役割を担っている。

ローパー(Lowper)……同じくローヴァスの森に生息する、
植物とも生物とも学問的に判断がついていないクリーチャー。
普段は眠りについていて、ヴァラスバードの警報と共に目覚める。
姿が周りの木々と同じな為見分けがつかない。
一匹ならまだしも、集団で生息していた場合にはかなり厄介な相手である。
クリーチャーランクはB。
その枝にヴァラスバードの巣が作られる。
お互いになんらかの利益があるものと思われるが詳細は不明。

フィルガラウス(Fillgaraus)……ローヴァスの森近くの山岳地帯に生息する飛竜の一種。
大きいものでは全長約200mにまで達する。
普段の性格は温厚で、一度怒らせると辺り一面を焼け野原とするまで収まらない。
因みに小食で、好物はヴァラスバードの卵。
クリーチャーランクはS。



2002.10.26


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