∴SHRINE∴
∴FANTASY LIVING THING PICTURE BOOK∴

■ EPISODE 10 ■
----------------------------------------------------------------------------------------------------


一般に死神の鎌(草刈鎌)は振れば、刃で切裂き、切先で叩けば貫く事が出来る。

カインの玄武甲と云えど限界無視の力で貫かれれば危うい。

それでも斧槍の先を鎌の柄の部分に引掛け、退けば圧し圧されれば退いて巧みに捌き

間に、ルーがホムンクルスを解析し魔導的な部分を探っていく。

「ルー、早くしてくれないかい? 僕は兎も角、彼女の身体が崩壊を始めてしまうよ」

「まー待て、焦るな。 ・・・彼女? ホムンクルス相手に?」

ルーなら、カインならホムンクルス相手に気遣う事無く処分する事ぐらい察しはつく。

しかし、そのホムンクルスが彼の戦乙女に似ていようなどとは分りようもない。

「・・・こいつは、殆どフレッシュゴーレム(肉人形)だナ。

演算回路がコレでアレで・・・ココがアレして・・・如何ダっ!!!」

瞬間、惨将ブリングはスイッチが切れた玩具の如くビクンと力が抜けた。

後はもうピクリとも動かず・・・

「ルー、彼女は?」

「魔導演算回路は分解してしまったからナ、もう単に生きている人ガタだ。

このまま放って置いたら三日も保たずに肉が腐り始めるだろうサ」

「そうか・・・じゃ、もう大丈夫だね」

と、ビクンと再起動する惨将ブリングは冑を脱いだカインとルーに向かって歩き始めた。

「ば、バカなっ、回路無くして勝手に動くはずが」

「もし、魂があったら如何なるかな?」

「それは・・・普通の人間と変らんはず・・・」

既に惨将ブリングは二人の前で歩みを止め立つ。 黒衣のため、その姿は全く分らない。

「紹介しよう。彼女はヒルデ=ヴァルア。 僕の戦乙女さ」

「なぬっ!!?」

「は、初めまして。 私、ヒルデ=ヴァルアと申します」

さっきまで戦っていた相手とは思えないくらいに、多少緊張しつつも優しい笑みを浮かべ

娘は頭を下げる。 それこそホムンクルスではなく普通の娘のように

「・・・カイン〜〜お前はぁ〜〜(じと〜〜」

「あはははは。 今まであったことを思えばこの位の御褒美はいいと思うんだけどね」

「・・・ヒルデとやら、お前はいいのか? 三日もすればその身体と魂は一体化し

二度と精霊には戻れんようになってしまうゾ。この男は悠久の命より価値はあるのか?」

「・・・ルーさん、一つ御質問させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「何だ?」

「貴女は、魔女を御止めになって後悔なさっていますか」

「・・・・・・はぁ、私の負けだ。好きにシロ。

それと、そのオッドアイは気にせずともいいゾ」

言われてカインが覗き込んでみれば、それは普通の碧眼と対し美しく異様な赤紫眼

「これは・・・」

「見えざるモノが見抜ける精霊の瞳、まぁ元精霊の証みたいなモノだナ。」

「何か・・・凄いね。 それでヒルデ、何か見えるかい?」

「いえ、殆どのモノが見えなくなってしまって・・・これが人の視界」

「使い方は追々覚えろ。他にも色々教えてヤル。 さて、決着を見に行くか。」

「・・・そうだね。」

端より二人とも負けるとは思っていない。負けるつもりで戦っていない。

三人はそこに向かって歩き始め

「あっ・・・」

びたんっとヒルデが何も無い所で無様こけた。

肉体に未だ慣れてないのか、単に鈍くさいだけなのか・・・。

「仕方ないね」

とカインの姫様抱きにヒルデは慌てカインの首に抱きつき、気付いて照れる。

「・・・お前ら、恥ずかしいゾ。 私は先に行くからナ」

でも、それが様になっているのだから仕方が無い。

 

 

 

二人が戦叫を上げ激突する毎に白熱し、二人が白熱すればするほど周囲の兵は

戦いを忘れて魅入り傍観し、決闘の場が広がっていく。

もう、周囲には戦っているものはいない。

「弱者は大人しく従い、強者に搾取されていればよいのだっ!!

それが嫌ならば搾取する側になれるよう強くなれば良いっ!!」

「ふざけるなっ!! ならば問う、強さとは何だっ」

「強さとは・・・」

「貴様はパン屋のように美味いパンを毎日作れるかっ

鍛冶士のように刀剣を鍛えられるかっ、大工のように丈夫な家を建てられるかっ」

「な、何!!?」

「出来ないだろうっ 俺も出来ないっ。 そういう意味の力では俺たちは弱者だ!!」

「戯言をっ!」

「だから武力で勝る俺達が民の生活を護らなければならないっ!!!」

「ぐっ・・・はっ!!?」

ついに耐え切れず圧斬られ、空高く舞う神剣シグルズが堕ち、地に突き刺さった。

一帯を支配するのは静寂と、二戦士の荒い吐息のみ。

神将へ剣を突付けるのは真龍騎公。

「・・・貴公の勝ちだ。 止めを、刺すがいい。」

「・・・やなこった。」

ぽいっと己の得物を後ろに捨てたライは瞬時に利手の腕甲を脱ぎ捨て、一発

「!!?」

何のつもりだ と口にする前にジークフリードの頬をぶん殴った。

それこそ、より大きい身体が吹っ飛ぶ位に

「立て。今度は純粋に男としてどちらが強いか決めようや。 拳でな」

「貴公は何処までも舐めた真似を・・・」

と言いつつジークフリードも鎧を脱ぎ捨て応じる。

そして一帯は、二人のバカを称える歓声に包まれ・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「・・・それで、ドチラが勝ったんだ?」

周りは既に兵達が撤退を始め、ルーの前で顔を腫らした両雄は

部下5人から治療を受けていた。

「ん。 最後の最後にバックドロップで、ライの負け」

「・・・お〜ぬ〜し〜は〜、遊ぶなら勝たんか」

とルーはライの腫れた頬を叩きまくり。これはルーパンチでも痛い。

逃げるライに馬乗りのルーは更にマウントポジションで殴る殴る。

「・・・ふ、ははははっ」

「笑ってないで助けろぉ〜〜」

「これを笑わずして何を笑う? 「戦士」たるものが幼女に勝てんとは」

「そりゃ、勝っちゃダメな相手だからな」

と、コロンとルーを押し倒し暴れるルーを片手間で捌き弄んでみたり

「・・・強いな、貴公は。 敵を味方へ変え・・・負ける事がないのだから。

背負いべきモノがない戦いで貴公に勝っても何の自慢にもならんということか」

「・・・・・・」

神将の目配せに烈将,忠将は撤収を始めた。しかし、やって来る部隊に一時停止。

今回の戦争、今現在まで終始戦場に立っていない隊があった。それは

デュラル=ネクロ公と自身が最初より有する軍。

梟雄騎士団が率いていた軍と極星騎士団が率いていた軍は、ほぼ同様の勢力であった。

デュラル=ネクロ公自身が有するのは、その一角

「神将ジークフリード、何故敵を討たんっ!!!」

「戦いは既に終わり申した。 我々、オブシディア軍の敗北にて」

「愚かな事を言うではない。そんな事は認めん。戦える兵一兵尽きるまで戦うのだ」

「ならばネクロ公自身の兵を用いて戦をなさればよい。

我々梟雄騎士団以下の兵は極星騎士団以下の軍を「戦士」と認め

和睦・・・否、改めて友好を結びたい所存。」

「貴様・・・敵と友好を結ぶなどとはオブシディアを裏切る気かっ!!!」

「王国ヴィガルドに対しては兎も角、都市シウォングに対しては

端より敵対関係は無かったと聞く。貴公が言い出すまでは」

「うっ・・・ぐぅ(汗」

「証明していただきたい。ネクロ公、貴公が「戦士」か否か。

相応しからざる者が持てばその身を滅ぼす神剣シグルズを掲げ」

「っ・・・(汗」

神将に神剣シグルズを突付けられネクロ公がたじろぐ。 不意に

「真龍騎公ライっ!!」

「おう?」

呼ばれて投擲されたモノを手に取れば、それは神剣シグルズ。

巨漢なジークフリードにしてみればいいサイズかもしれないが、やや長身程度のライに

してみれば先らかに大きすぎ。しかし、しっくり馴染む感は高威力を約束してくれる。

「神将ジークフリード=グラムスっ!!」

今度はライが己の得物「神狼牙」を向けて投擲。 それを取り

「・・・何のつもりだ?」

「俺の神剣「神狼牙」は、持つに相応しからざる者には重すぎる。」

「・・・軽いな。」

今度は二人が投擲した神剣がネクロ公の前、地に立つ。

自身でやましい所があるネクロ公がどちらも手に取れるはずがない。

違和感は疑惑へ、そして今や迷う事無き確信に。

「こ、コヤツ等は敵と内通した反逆者だっ 諸共討ってしまえいっ!!

討った者には望むだけ褒美を取らすぞっ!!!」

相手は疲れ果てているとはいえ、神将と謳われる者とそれが認める者。そして以下の将達。

今回、一度でも戦場に立っていれば彼らと戦う気には成らなかっただろう。しかし・・・

「ここは我々に・・・」

「団長等は休憩でもしていて下さい。」

と庇い立つのはニーベルとハガル,アレスとリオ。

「御主達も偶には見物する側に回ってみろ」

「ん。 それも大将の勤め、か?」 

ハガルとアレスの剣が唸り、ニーベルの刀剣が斬裂き、リオが三人を補佐し、駆逐する。

一騎当千が正にそこに

「ば、バカな。 3百騎近くいた兵がたった4人にだとおっ」

「数が多けりゃいいってものじゃない。実際に一度に戦える数と士気を失念したな。」

それに戦争となれば乱戦となるため彼らの気質上味方を傷つけぬよう不利だが

掃討戦となれば話は別。下手に鍛えられている分、融通が利かず固まってしまう。

方向と距離だけ気にすれば後は技を出すだけで敵に当り、あっという間に・・・

残るは逃げ遅れたネクロ公。これは大将二人が挟み逃がさない。

「・・・で、どうするんだ、これは?」

「首都アスカロンへ連行する事すら惜しい。 このまま戦士として・・・」

「死人に口なし」

「ぬっ・・・ならば貴公は如何すれば良いと?」

「結果、死刑になるだろうが裁きは受けさせるべきだ。

生恥を曝させるのが最も望ましいけど・・・」

神将の一閃に吹っ飛ぶその躯。しかし剣の腹で撃ったので死ぬ事はない。

「この男はもはや戦士ではない。 一生投獄されるか国外追放となるか・・・

貴公の国シウォングとは友好が築けるだろう。今更ながらだが貴公の望んだ報告も」

「・・・(ポリポリポリ。 では、次会うときは友として・・・」

多少誤はあるが訂正するほどでもないので両雄は硬く握手し・・・帰るべき場所へ。

 

 

 

デュラル=ネクロ公は目論んだ騒動により、領守の役を解任。

三名となった「梟雄騎士団」は、ジークフリード=グラムスが

以下二名を補佐官とし代わりに領守の役に勤める事となった。

そしてオブシディア自体も関してはジークフリードに全てを一任。敵は友となった。


----------------------------------------------------------------------------------------------------


■ EPISODE 10 ■

Copyright 人丸2022
HITOMARU All right reserved



----------------------------------------------------------------------------------------------------