∴SHRINE∴
∴FANTASY LIVING THING PICTURE BOOK∴

■ EPISODE 08 ■
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中々にイかし男前で、きっと神に遣える者でも惚の字になるに違いない。

「・・・中々男っぷりを上げたな、アレス」

「貴女も中々の器量だ、イリア」

「「ふっ・・・」」

と二人して哀愁の中、渋く笑みを浮べ・・・・・・御互いの災難に滝の涙。

今の今まで、出来るだけ問題に巻き込まれない為、社交パーティーは避けてきた。

しかし、王族(注:脇流の)主催でアルシアが主客となれは断るわけにはいかない。

で、現在に至る訳なのだが、

パーティー前日の深夜までイリアの格好を男装させるか、このエッチィなドレスで行くか、

いっそう闇舞姫が如く布切れだけで行くかでもめたとか、もめなかったりとか・・・・・・

そしてパーティー当日、着飾った四人は馬車に揺られ

結局イリアはハイスリット濃蒼のドレスに光沢黒スマートパンツで落着き

それでも下着を着ると見えたりラインが出るので、着れないというワナつき(泣。

「・・・そうそう、これ皆に渡しておく」

とイリアが横乳の胸元から出したのは剣を形とったアクセサリー。

「・・・これは?」

「マジックアイテム?」

とアレスに投げ渡すのはアレスの得物に近い型の剣の形をしたネックレス。

リオには長剣型のイヤリングと魔杖代わりになる装飾腕輪。

そしてアルシアには特殊な鎖を巻きその形にしたような腕輪。

・・・魔力付加道具。ココ数日でイリアが得物を用意させて拵えたモノ。

「魔力を込めれば魔法は解除され元に戻る。因みに一回きりの使い捨てだから」

「イリア、貴女は何を持っているのぉ?」

「・・・えっへっへっへっ」

らしい気味が悪い笑みを浮べ髪をどければ両耳に長剣型のイヤリング。

見れば、その両腕に付けている腕輪はマジックリストに思えるし髪飾りだって・・・

「・・・貴女って(汗」

「そういうアルシアもな(ニヤリ」

その装飾は大粒の宝石を多くあしらった物だが全て贋物、内に薬品を仕込み・・・

行き帰りは守護騎士達が馬車を警護してくれる。しかしパーティー中までそうは行かない。

別処で待機はしていてくれるが、何かあった時は自身で時間稼ぎくらい出来なければ。

社交パーティーというクダラナイものであっても彼等にしてみれば戦闘当然。

万が一に備えあらゆる準備は怠らない。 そう、戦うためのあらゆる準備を。

「じゃ、後で何かガメてくるから」

「・・・ガメて? 何ですか、お姉さま?」

「・・・いや、多分泊りになるだろうから差し入れ持っていく」

「それは、心から御待ちしております、お姉さま(ぽっ」

「アレスかリオかが・・・」

「・・・・・・(哀」

と隊長少女とイリアのやり取りはさて置き、会場到着早々に守護騎士達は帰ったフリを

・・・でなければ、主催が面子如何こうとうるさいため・・・

時間までウザイ連中を適当に避わし、主催者とアルシアの挨拶が済み

立食やら、でダンスやら・・・当然、貴族とは違う彼等はどんなに着飾っていようと

根本的に異なり野生の美しさを醸し出し、皆引く手数多。

リオ&アレスはまだいい。御互いパートナーがいると見せれば退く。

しかしイリアは例え壁の華に徹しようと思っても、

凛々しい目鼻立ちに朱を差した濡れた唇,黒真珠な長髪,スマートに体型が分る衣装は

否応にも一目を引き、魅了する。 そして、灯りに引き寄せられる虫の如く、

「お嬢さん、私と一曲踊って頂けませんか」

「悪い、男に興味ない。 だって俺は皇女様の情婦だから」

「え゛・・・」

「・・・イッツ、ジョーク。 中々、洒落が利いているだろ?」

「あ、あははは。 美しくも面白い方だ。 では向うで・・・」

とナンパ貴族が連れて行こうとする先はそのための客室・・・

「・・・俺は味のある奴が好みなんだ。アンタは趣味じゃない。」

「それは床の上でじっくりと・・・」

仕方なしとばかりにイリアはナンパ貴族と共に連れだって客室へ・・・

しかし、直に何事もなく定位置へ戻っていた。それと同様の事、繰返すこと十数回。

今度はビシッと決めた金髪の優男が

「御機嫌いかが、麗しの龍妾イリアさん?」

今のイリアはドレス姿であり、『龍』を思わせるものは何も身に着けてはいない。

そもそも、イリアとこの男は初対面である。

「初対面の人を行き成り名前で呼ぶのは如何かと思うぞ、カイン=クラウス」

「美女に名前を知って頂けたとは嬉しいね。彼から聞いたのかい?」

「さあね。・・・あんたは誘わないのか?」

「はっはっはっ、彼等みたいに逝かされたらたまらないからね。

遠慮させてもらうよ。次の機会まで・・・」

今までイリアをナンパし部屋に連れ込んだ連中は例外なく一撃にベットの上で御休み中。

「その機会があればね・・・」

「あるさ。まだ始まったばかりだから・・・

さて彼等に問い詰められる前に退散するとしようかな?」

言い残しカインは踊る人波に消えて行った。代りに現れたのはアレス。

「今の人はっ!?」

「カイン=クラウス。ナンパされた。」

「・・・他に何か?」

「問い詰められる前に退散するとか?」

「・・・俺はあの人が好きにはなれない。その訳がやっと分った」

「因みに、何故?」

「あの人は決して腹の内を見せない。思いたくないが・・・裏切った。

二人にはアノ人に会った事を言わないでくれ。特にアルシアさんには・・」

仲間が敵に回った事を知らせたくないと。

「その考えは早計じゃないか?」

「最近、不穏な貴族達の屋敷で目撃されたのはアノ人だ」

離れたアレスを探してか二人を見つけやって来るリオ。その顔には心労の色が。

多分、ナンパの猛攻から必死で逃げてきたと一目瞭然。

「アレスくーん、イリアさーん(泣」

「あー―、みなまで言うな。アレス、リオと守護の連中に差し入れして来てくれ」

「・・・ああ。アルシアさんを頼む」

イリアの気遣いを理解してか、アレスは大人しくリオと共に引き下がっていった。

で、当のアルシアは・・・探す間もなく一番大きい人の塊に入って行けばいい。

その中心ではアルシアが皇女の仮面を被りやんわりと様々な誘いを流し

・・・身分が身分となれば、謀略で純粋にパーティーを楽しむことすら出来ない。

ましてや、アルシアは継承権上位を約束されてはいるがまだ未決定という微妙な立場。

こんな処で近づく連中はアルシア自身を見るはずもなく・・・。

イリアは人込み掻き分け前に出、片膝を着き

「お嬢さん、私と一曲踊っては頂けませんか?」

周囲の目はこの気違い女,無礼者と厳しいが、それも意もせず爽やかな笑みを浮べ

本当、イリアが女性である事が残念というか不思議なくらい。

「よろしくてよ。 参りましょう?」

えっ!!? と周囲が硬直する中、二人は抜け出し舞踊の輪の中へ。

周囲の奇異な目も気にせず、イリアが男役,アルシアが女役で舞い踊る。

ボディラインがハッキリしているイリアにアルシアが裾がユッタリ膨らんでいるドレスで

脚の間に脚を割入る為、イリアの下半身がアルシアのドレスに減り込み強姦的ではあるが

優雅に美しく としか表現のしようがないくらいに楽しそうに舞う。

まるで世界は二人の為にあると言っているかのように・・・

ふと、

「ごめんなさいねぇ・・・私、やっぱり貴女を彼の代りにしてるわぁ・・・」

「まぁ、いいんじゃない? その為に俺がいるわけだし」

「貴女に彼の影を見るの。でも、やっぱり貴女は貴女・・・彼とは違う。

・・・昔、私、彼に恋人の代りになっていいって言った事があるの。

でも彼はそんなことしなかった。私に悪いって。 ・・・でも、私は」

「それは・・・代役冥利に尽きるね。俺に彼の代りになるだけの器があったわけだ」

「・・・そうね」

アルシアは頭をイリアの肩に預け、傍目二人は恋人達。

それに、純粋に感嘆の吐息を洩らし羨望の目で者,やはり奇異の目で観る者,

臍を噛む者,そして忌々しげに憎悪の念を込めて見る者 特にイリアを。

それでも、ささやかな楽しみ。運命はそれすら許してはくれなかった。 

いや寧ろ、これほどのチャンスはない。奇襲者達にとっては。 不意に音楽を遮るよう

轟っ!!!

と爆音に悲鳴,外では炎の柱が立ち、何事かと外を出て見れば・・・夜空を舞う飛竜三体。

それに着飾った人々は逃げ惑い、衛兵達も

「アルシア様、直に避難を・・・」

「私の事より貴方達は他の者達の避難に専念しなさい。アレは私達が引付けます」

「しかし、御身に何かあっては私達の立つ瀬が・・・」

「イリアッ!!」

「応っ!! 破ぁっ!!」

イリアは一度耳に触れ、振った腕から伸びる銀の閃光。

その手の長剣に驚く衛兵達を他所に飛竜が咆いた直後の炎玉に対し爆裂魔法弾で相殺。

飛竜は爆炎に包まれた。

「まだ何か?」

「・・・いえ、指揮をお願いします」

明かに自分達より戦なれし、立場が上となれば従う手はない。

アルシアの指示の元、衛兵達は客達を避難させ、一方

イリアは竜吐息の炎玉を相殺しているが滑空し飛込んできた飛竜に

「ぐあっ!!?」

体当たりを喰らい一瞬昏倒、気付けば飛竜の脚に髪が絡まり身体が引っ掛っていた。

目立った傷はないが其処は空高く、

うっかり飛び降りようものなら他の飛竜にパクッとやられかねない。

幸い、飛竜にはいる事が未だばれていないが・・・

統率が取れ、明かに目障りであるイリアを探しているように見えた。

絶体絶命の垣間、邪魔な長い黒髪を切り捨て策を練る。

「・・・さて・・・如何する」

一方、炎が立った屋敷表

地上のアルシアは黒装束の暗殺者数人に囲まれ、側に居た衛兵は既に物言わぬ骸。

と、足元にはアルシアの毒と魔法複合技で昏倒した暗殺者一名。

アルシアの鞭捌きに暗殺者達は居合に近つけずにいるが、空舞う飛竜まで通用はしない。

消えたイリアを探しているのか、また直に襲い掛ってくる気配はないが・・・

「退けと言ったら退いてくれる わけないわよねぇ」

「殺っ!!!」

今更フザケルナ(怒 とばかりに暗殺者は凶刃煌かせ、波状で襲い掛かり

一人目、茨鞭を絡め付けるが転倒され切裂けず茨鞭を放棄。

左右からやって来た二人目三人目を魔法弾で射ち飛ばし

隙が出来たアルシアにその他大勢が強襲。

「!!?」

が、暗殺者達の刃は届く事無く

げぼぁっ!!?

「遅れて申し訳ありませんっ!!!」

と守護騎士三人に雑魚が如く瞬殺で掃討された。

端っから暗殺者如きが表立って戦い、適うはずない と。

「間に合ったわ、ぎりぎりねぇ・・・。 ・・・イリアは何処っ!!?」

三人の視線の先には高度高く、小鳥のサイズと化した飛竜達。

人でも足に小動物がしがみ付いていれば気付く。 それと同様

迂闊だった。 考えて見れば脚にしがみついているイリアに飛竜が気づかないはずがない。

飛竜達にとって暗殺など二の次、もっとも大事なのは如何に人間を甚振り喰うかという事。

まるでか弱いものを甚振る愚劣な人間のように飛竜は邪悪に笑えみ。

それに気付いた時には人の身では決して助けに行けないはるか上空にいた。

出鱈目なアクロバット飛行に、しがみつくイリアの血は上へ下へ右へ左へ。

そして意識がブラックアウト。次の瞬間

「ぐあっ!!?」

硬い物に思いっきり叩き付けられた。無我夢中でしがみ付けば、それは別の飛竜の背

先ず弄り体力を奪って抵抗できなくさせた上で、苦痛の悲鳴と共に喰うと

「どっ・・・ドチクショおおおおおおおおっ!!!」

喉を切裂かんばかりに上げた雄叫びは風に掻き消され地に届くことなく・・・

アクロバット飛行に意識が跳んでは叩き付けられ目を覚まししがみ付き、繰返し

既にイリアのヤワなドレスは竜鱗に切裂かれボロ布と化し、その絹肌も擦傷で血塗れに

幾ら魔法が使えようと強靭な精神を有していようと所詮は人の身。しかも女の華奢な身体。

イリアの視界は一転、今まで見えていた竜の背が星空へ代り

限界に、既に掴む力がなく手が滑ってしまった。

そのイリアの視界に大きく顎を開け落ちてくる飛竜。一度咥え込まれたら助かり様がない。

「・・・上等だ。来いや、ゴルァッ!!!!」

痺れた腕を強引に動かし印を組む。命と引き換えにデカイ花火を上げてやらんと。

だが迫る暗黒の穴に最後の抵抗ですら間に合いそうになく

ガンっ!! と顎が噛みついた。

「・・・・・・済まん、アルシア。 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・んー、死の感覚と違うな」

『以前に、イリアは死んだことがあるのか(汗 ?』

呟きに言い返し、後から抱締め護っていたのは天使翼と竜翼,四翼の戦天使セラフ。 

アレス,リオの魂により召喚されし邪竜殺し。空を我が物とした者。

「おおー―っ、助かっ」

『迂闊に喋ると舌噛むぞ』

祟り目に涙目。もう遅かったり。 今、セラフは三体の飛竜に追い回されていた。

イリアを抱えているため攻撃も超高速を出すことも出来ない。

四翼を駆使し飛竜の攻撃を巧みに避け、竜吐息はイリアの魔法弾が相殺するが

「・・・じり貧だ。 俺を地上に」

『直には無理。奴等、連携が取れている。もう少し待ってくれたら・・・』

守護騎士達が待機していた屋敷の隣の森

はるか上空、何者も裸視では確認できない猛攻を一人だけ視界に納める者がいた。

魔操鎧闘士標準型。しかし、その目に当る部分は望遠鏡の如き単眼が付加され、

携える得物は槍・・・の如き長い砲身を持つ狙撃銃。

正しくは魔力を圧縮凝縮し、高密度のエネルギーへと変換し高速で撃ち出す機関だが

魔操鎧闘士は片膝を尽き構え砲口を天に向け

『・・・・・・目標捕捉。』

側に仕える副長の期待へ応えるかのように報告。 砲身に魔光が灯り、そして

『・・・発射っ』

瞬後、溜め込まれた力が解き放たれ三本の光の針が天を貫いた。

セラフとイリアを包囲する邪悪なトライアングル。

それは今の二人(?)で崩せるものでは無かった。だが、

!!?

動いた飛竜を掠る様に下から高出力の魔弾が通過。

しかも次から次へと射込まれて来るためトライアングルは崩れ

『よし、今のうちに下へ』

「・・・その必要はない。術式は組み上がった。 ここで決めるぞっ!!」

『了解。この空域から離脱する』

イリアの伸ばした両腕、その手の指が空に球を作る共に飛竜が入る空域を

リンクするよう光の帯が走り、飛竜も離脱しようとしてももう遅い。

飛竜を内に収め光の帯は巡り球状の魔方陣、隔離結界が其処に。

「人をなめるなっ、獣があぁっ! 己の迂闊さを反省しろっ!

『雷・撃・陣』っ 、うおおおおおおおおおおっ!!!」

『!!?』

気合いに、腕に起る発光現象。

共にその腕輪が増幅に耐え切れず罅が走り、遂には粉砕音を立て散り共に

轟ッ!!!!

『ぐっ!!?』

球状の魔方陣の内を縦横無尽に駆け巡る雷に辺りは閃光に包まれ、

力が篭るイリアの腕に手の中の球にリンクして球結界と光がぐっと圧縮。

そしてイリアは手の球を握り潰し。

「滅っ殺っ!!!」

見れば、飛竜三体が裕に飛んでいられるほど広がっていた結界は

人の頭二つ分ていどサイズでぷるぷると震え・・・可也ヤバげな・・・

『・・・・・・・・・』

「・・・・・・・・・・」

『・・・・・・・・・』

「やべっ、・・・爆発する、後を振り向かず逃げろおっ、全力でぇっ!!!!」

『な、何いっ!!? バカか、あんたっ、わーっ!!!』

「ぐぇ!!?」

飛竜三体を蒸し焼きにして余りあるエネルギーを更に凝縮。

人間の限界を超える速度が出ていようが知ったこっちゃ無く

巻き込まれたらセラフですらただで済むはずがないので全力飛翔。

そして、爆発

「・・・・・・・・・・っ」

『・・・・・・・・・・っ』

セラフは四翼で己の身体ごとイリアを包み、

・・・辺りは・・・

・・・白く・・・

・・・染まった・・・

・・・・・・・・・・

アルシア,守護騎士三人共に昼間のように明るくなった空を茫然と見上げるしかなく。

間も無く明りは消え再び夜の静けさが戻った中、皆の目に映ったのは光る鳥

では無く、翼を広げ降りてくるセラフと抱えられ手を振るイリア。

そしてセラフは降り立ち、己の身体を翼で隠し、武装したアレスとリオへ。

「「「「・・・・・・(唖然」」」」

我に返り取り敢えずさっきの激光は何と問い詰める顔の皆の前、イリアは照れ頭を掻きつつ

「いやぁ、悪い。やりすぎた(笑」

「「「「お前のせいかよっ!!!」」」」

皆、諸ツッコミは言うまでもなく。 その皆からツッコミを受けたイリアは、

髪はざんばら,ドレスは無残に切裂け、覗く肌には血が滲み煤が付き・・・見るも無残。

自身で既に傷を癒していなければ。

その顔が暢気な笑顔でなければ。

周囲の目も意にせずアルシアはイリアに飛び込み抱擁。

「・・・でも、貴女が無事でよかった」

「大丈夫。んなので死ぬタマじゃないから」

その時には隊長少女と副長も合流し、ウィンクで礼を言うイリアに黙って手を振って返す。

今はただ皆の無事とこの勝利を祝わんと・・・

・・・・・・・・・・

敵は最強の手駒を失い、衛兵数人が死に、以外はアルシアの指示で特に怪我者はなく、

本来注意不足で問い詰られ不敬罪である主催の貴族はアルシアの口利きで御咎め無し、

「得した者はなく、彼女だけがその株を上げた というわけです。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「将を討たんとすればその馬を射よ、ですか? 間違っちゃいませんが・・・

・・・正直、龍の逆鱗に触れたくなくば彼女等に触れない事が一番。

此方から手を出さず倦厭すれば実害は無いかと。それが彼等の性分ですから。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「僕が仲間だったことまで御存知ですか。 確かに、気まずいですが・・・

以上に、殆ど給料がでなくてね。 ほとほと愛想が尽きたというか。」

「・・・・・・・・・・・・・・・(呆」

「はずんで頂き、ありがとうございます。 またの御贔屓を・・・」

「・・・・・・」

 

 

先の事件の御陰でパーティーへの御誘いや公家系貴族の謁見は目っきり来なくなった。

しかし武家系貴族や庶民の謁見は増えたが・・・それでも暇が増えた事には代り無く、

今更アルシアに行儀礼など学ぶ必要も無く、

継承権授与式まで未だ十数日あるため迂闊に外へ出て動き回る事も出来ず

結果、アルシアは薬師の能力を生かし神官として勤めを果している訳で

つまりは、貧しい庶民の診療,薬の処方し、イリアは看護婦の如くその御手伝いを

「って、なんでやねんっ!!!」

朝一番からナース帽を床に叩き付けたイリアの逆切れに

今の今まで診療台の上でイヤイヤと泣きじゃくっていた子が硬直した。

「だって、後でつ立っていても仕方がないじゃなぁい?」

女医なアルシアに子供もウンウンと同意し・・・さっきまで泣いていたのは如何した?

「まぁ、確かにそうだけど・・・・・・いや、そうじゃなくて俺のこの格好は何?」

「何って・・・看護婦?」

看護婦、つまりはナース姿である。 清楚な薄水色で、タイトにミニスカで

歩くとスリットからガター吊の白ストッキングな脚が見えポッ君ドキドキ。

というか今の今まで看護婦になりきり、やっと我に返ったイリアって・・・

「何で俺が看護婦をせにゃならんのだ。リオにやらせろ、リオにっ!!!」

「あら、駄目よぉ。リオちゃん、メイドやっているもの」

メイド、文字通りメイドである。それで料理のレシピを皆々様にレクチャーしてる。

「アレスは如何したっ。奴に女装でもさせて看護婦(?)させろっ!!!」

「あらぁ、それはいいわねぇ。 でもアレス君は庭師やってるのよねぇ」

屋敷でライに鍛えられたその腕を活かし庭の仕事の御手伝いを。

注:アレスもリオもライもシッカリと騎士として修行をしているのであしからず。

「・・・・・・・・・」

「・・・納得した?」

「・・・納得・・・できるかぁっ!!!」

イリア、自分の立場を忘れてランナウェイ。

「・・・あんな大人になっちゃぁダメよぉ?」

子供はワケも分らずウンウンと頷くしかなく・・・・・・

・・・・・・・

庭の一角では下着が見えることも構わずナース姿のままイリアがだらしなく胡座をかき

煙草如くハッカ管を吹かし

「・・・ぷはぁー―」

「あんたはココで何をやっているんだ(怒」

メキッ

とアレスの十六文キックが後頭部に炸裂。首で変な音が

「お、お、お前、仮にも女性に対して何てことを」

「そういう扱いをされたければ、それなり振るまいをしろ。

それよりアルシアさんの護衛は如何した?」

「んー? 一人でも大丈夫だろ。ここん処、怪しい気配を全く感じないから。

・・・ホント静か過ぎて、気味が悪いぜ。 ・・・ぷはぁー―」

だらしない格好は何処へやら、周りの草木や小動物がその気にざわめく。

「将を討たんとすれば先ずその馬を射よ。 俺なら・・・」

「ん?」

「先ずイリア、あんたを潰す。」

「・・・・・・・」

「悔しいが、今や俺達の要はあんただ。切り崩していくより易く手取り早い」

「・・・それで?」

「先の事件もあるからな、これから集中的に狙われるのは間違い無く・・・」

「・・・根拠は?」

「カインと敵は繋がっている。 あの人のカードの見せ方を考えれば・・・」

「ちぱちぱちぱ、御見事。」

「・・・他人事だな」

「いつ来るか分らないモノに構えていても仕方ないからな」

忘れ、以上話す事がなく。 二人の間を沈黙が支配する。

戦士の会話。戦士の空気。 ・・・格好が格好でなければ。

其処へ、イリアを探してかアルシアが

「あらぁ、二人して何やってるのぉ? 

アレス君、リオちゃんがいるのに浮気しちゃダメよぉ?」

「ふっ、コレ相手にそれだけは絶対ない」

「コレ・・・(ガーン」

「コレでも結構可愛いのよぉ。 ねぇ?」

「・・・・・ちっ」

「・・・興味無い、です。 お二人で御勝手に・・・」

二人を残しアレスは疎サ苦サと逃げたし・・・二人の間の空気は親友以上の

恋人同士のそれみたいで傍目はやってられない。

「・・・それで、態々俺を探して何用?」

「ちょっと御使いを頼もうと思ってぇ。 貧民街でコレ買ってきてもらえるぅ?」

と差し出すのは一枚のメモ

「何々? ふ○肝粉末,トリ○ブト,・・・修行官に買いにいかせりゃいいじゃないか?」

「そうもいかないのよねぇ。 これ全部、毒とか御禁制の物だから。」

「・・・一体誰を毒殺するつもりだ? まさか!!?」

「や〜ねぇ、病人に処方するのよぉ(笑」

「そ、それって安楽死ですか(ガタガタブルブル」

「違うわよぉ(笑。 微量の毒も使いようによっては薬になるの。

いつまでもココに居られないから薬の造り置きしとかないとねぇ・・・」

「・・・了解、我姫さま。 貴方の御望みのままに」

流石に看護婦の姿のまま出るわけにもいかず一度部屋に戻り着替え、

上戦闘服に戦闘用マントを巻きスカート風にベルトで縛った姿を

全身マントで隠し出発した。

・・・・・・

真っ昼間からマントで完全に姿を隠し歩いてていれば何処でもいぶかしまれる。

しかも、朱を指したような艶やかな唇が覗いて妙齢の女性と分ればいっそう。

それでも何者もイチャモンを付けてこないのは放つ気配が剣呑であり、

・・・貧民街をうろつくやくざ者ですら道を開け・・・

定番の気味悪い店主相手に目的の品物を順調に購入し、着いた帰路

・・・その者が神殿からずっと付けていたのは分っていた。

子供みたいに小柄でマントで姿を隠し、それでも襲われなかったのは

周りからみて明かにイリアを付けていると見えただからだろう。

イリアがズタ袋を携えたまま人気の無い廃虚へ向っても、その者は疑う事無く着けて来た。

もはやもう、どちらにしても逃げられない。

不意にイリアの姿が消え、その者が慌てて探して見ても見付らず

「人の後を着け回して・・・刺客にしちゃぁ随分と杜撰だな。 何者だ?」

「!!? う・・・あ・・・」

突如背後に現れ得物片手に戦闘体勢万全なイリアに、その者は驚愕し後擦り。

だがすぐ背が瓦礫にぶつかり逃げられず、これではまるでイリアの方が悪者・・・。

「・・・取り敢えず、顔見せろ」

と腕一閃、現れたのは可憐な子供。余りにも保護欲をそそる美形で男か女か分らないが

「・・・・・・・・・(怯」

「刺客じゃなさそうだな。 ・・・俺をつけたのは何故だ? 何処の手のもの?」

「あ・・・う・・・、お姉さんが助けてくれるのを見て・・・逃げて・・・」

「・・・見て?」

念の為、得物を向けたまま「観測」の魔法を発動。 結果、その構造は人のそれではなく

「・・・魔法生物・・・愛玩用か」

「・・・(コク」

人の卵子,精子を基に人の手によって設計されガラス管の中で生み出されたモノ。

結果、どんな能力を備えていようと欠陥を持ち・・・先の牛男もこの子の兄弟である。

この子の場合、愛玩用のため主に造形に、オマケに知能と第六感が発達したか

「いや、助けてといわれても俺はその手は分らないから・・・力になれない」

どんなにイリアに魔法のセンスがあろうと、それは戦闘関連と生活便利術(?)に

特化したものであり、故に魔法戦士止まりになる。 ルー辺りなら如何にか出来るが。

「いえ、そうじゃなく・・・うぁ」

不意に子供は苦しみ座り込み、その吐息は激しく動悸も激しい。


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■ EPISODE 08 ■

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