∴SHRINE∴
∴FANTASY LIVING THING PICTURE BOOK∴

■ EPISODE 03 ■
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「おいライっ!!」

ルーに脛を思いっきり蹴られ、ライはやっと現実に返ってきた。

「あっ、ああ、如何したルー」

「これはコッチの台詞だ。顔面蒼白だぞ?」

「何でもない。何でも・・・」

今にも卒倒しそうな顔をして、誰が如何見ても何でもない訳がない。

ライはそのまま何も言われる間もなくルーが抱える大紙袋を奪い宿屋の方へ。

「おい、コラっ、ちょっと待て」

歩幅の差を駆ける事でルーはライについて行く。

心ここにあらずのライに、ルーですら何も聞けなかった。

それ以降のライの様相は悲惨の一言。

夜寝ても彼の少女が死ぬ記憶そのままの悪夢に魘され直起き、ろくに眠れず

昼間歩いていても不意に立ち止まりボーっとし

「おいライッ!!」

「っ!! ル、ルゥ? えっ、あっ」

「・・・白昼夢でも見たか?」

見たのだ。白昼夢を。

彼の少女が目の前に現れ強烈な一言残し立ち去って行くヤツを。

「何でもない。何でも・・・」

ライは眼を手で抑え、堪え精神的に限界ギリギリ。これは

「今日はココいらで野営だ。御主も異論ないな?」

「・・・ああ。」

「・・・それとアルシア、ライに睡眠薬を処方してやってくれ。

超強力なやつをナ」

もうライは駄目でルーが仕切っている状況。

夜、焚火の周りでライは既に超強力睡眠薬で深い眠りに。

そして、それを傍目に4人が座り

「ライがこうなってしまった原因を御前達、何か知らんか?」

「ん〜分らないな。・・・僕が思うに、ルー

君とライが買い物いった後からおかしくなり始めたと思うけど?」

「うむ、そうだナ・・・だが私にはライがこうなった原因が検討も着かん。

付き合いが長い御前達なら何か分かるかと思ったが・・・」

「ルーちゃんの魔法で如何にかならんかのぅ?」

「できれば疾うにやっとるっ!! 

・・・生憎、私はそういう系列の魔法が苦手でナ。」

元々ルーの得意分野は操作系や特殊系より変換出力系,計測系

「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」

フェイの死を乗り切ったと思っているメンバーもトンと検討がつかない。

「そう言えば、前にライは大事な人を助けられなかったとか

殺したとか言っとったが・・・」

「「「・・・・・・・・・・・・・・・(悩)」」」

「ほれ、話してみ?」

悩んだ挙句、

傭兵の活躍から王都守護騎士団にスカウトされ大活躍し、

神との戦い死んでその神を宿して蘇えり、ソレが元で国を追われ、仲間を殺され、

己の神を暴走しかけ、仕方が無いとは言え己の手で最愛の人を手にかけ、

彼等が知る限りライの身に起こった事を一通り話し

「・・・人に歴史ありとはよく言ったものだナ。

短い間によくもまあソレだけの事を・・・コヤツの深みの元はソレか。」

流石のルーも飽きれた。いや、長年生きて豊富な知識と経験があるとは言え

それはソレだけ生きる事ができれば身に付く事であり、

ライの波乱万丈の経験はルーの経験に負けず劣らずといっても良い。

そして、短期間でこれだけの経験をし壊れなかったのは賞賛に値する。

だから尚のこと突然おかしくなった検討がつかなくなった。

「・・・当人を問い詰めた方が早かったかもしれないわねぇ。」

アルシアの一言で会議は終了。 全員、即就寝。

 

それは夢だった。夢と自覚出来るのも不思議だが。

何も無い白闇の空間、目の前には一人の少女。

ルーに面識はないが、その雰囲気はライや仲間に近い。

・・・苦悩に、ライに私の声が届かない。お願い、ライを助けて。

御主は・・・

ルーの問いに少女は頷き応え、

そして、その少女がいかにライを思っているかが伝わってきた。

こんなに好かれてライも幸せなヤツだな。 今ライに何が起こっている?・・・

・・・悪夢。悪夢が再びライを

ふむ、やはりライは危機にあると・・・

少女は安堵の笑みを返し、ルーの意識は急速に覚醒。で、

起きた。

目の前にはルー同様に起きたアルシア。男面子は変わりなく寝ている。

低血圧のルーが素直に起きれるのは超珍しい。

偶然が二つ以上重なると必然。

結論、今の夢は普通の夢じゃない。

「・・・アルシア」

「なぁに、ルーちゃん」

「夢で一人の少女にあった。彼女はこう言っとった」

「「苦悩に、ライに私の声が届かない。お願い、ライを助けて。」」

二人の声が見事にハモる。

「フェイちゃん、貴方って娘は死んでも・・・」

「今は哀しみに暮れている場合じゃないぞ。悪夢とやらを何とかせねば」

「・・・そうね。態々フェイちゃんが夢に出てまで知らせてくれたんですもの

私達で何とかしないと。」

とは言え、如何したものか

「・・・あの娘を実体化させてみるか?」

「えっ!!?」

アルシアが知る処、霊魂の実体化というものは聞いたことがない。

因みにアルシアの知識は薬学,それに伴う医学は勿論、

よほど特殊でない限り一般的な魔導は把握している。 

魔導に関しては使えないモノの方がほとんどだが。

だが、それでもルーの知識の半分にも満たない。

「よほど心配なのか半精霊化しとるようだからナ。出来ん事はない・・・と思う」

と、ルーは横目で強制的に眠らされている男を見る。

死ぬと霊魂は一定の期間をえて新しい生へ転生するというのが通説。

しかし、精霊化してしまうと現世に囚われ・・・ある意味自縛霊と何ら変らない。

与えるモノが加護か災厄の違いだけで。

何であれ、精霊化は決して良いものではない。

最終的に行き付く先は転生出来ぬ永遠の消滅なのだから。

「直接対決させた方が早いだろ?」

ライの苦悩を解き、フェイに精霊化を止めさせる。

「・・・そうねぇ、二人のためにも」

「ん、では始めようか」

ルーはアルシアに手伝わせ地面に魔方陣を描き、結界を発動。

その中央にぼんやりと浮び上がる陽炎・・・

「ん〜〜、やはり無理があるな。取り敢えずライを起してくれ」

本来これは精霊師(シャーマン)の領域であり、魔導師がうんぬんではない。

アルシアはライを眠りから強制覚醒させ、

「・・・フェイちゃんが私達の夢に出てきたわぁ」

「何を今更・・・」

ライは無理に笑おうとするが顔が引き攣るだけ。

「いいから来なさい。」

抵抗する気力がないライを引き摺り、ルーの処へ

「・・・こんな時間に何をするつもりだ」

空が白み始める前、時が死者から生者ものへ移り変わるまであと僅か。

「御膳立てはしてやる。後は御主が直接話せ」

「・・・誰と?」

草臥れ切った精神では、その気配を感じる事が出来るはずもない。

「くっ、手間が掛かるっ!!

・・・アルシア、そのバカのために」

「いいわよぉ」

流石アルシア、言わずとも全てを理解している。 そのまま結界に入り、黙祷。

次アルシアが目を開けた時それは既にアルシアの目付きではなく

「らい・・・」

その声、喋り方にライは硬直。アルシアにその少女の面影が重なった。

もう後は蛇に睨まれた蛙が如くアルシア、否、フェイに触れるがまま・・・

「後は二人でじっくりと話してくれ」

 

夜明、ルーが二人の処へ戻ると其処にはライが膝枕でアルシアを眠らせていた。

アルシアは精魂尽き果て、やや やつれているが大事はない。

短時間とはいえ素人が依代となり二人分+αの生命力を費やしたのだから当然。

「・・・ライ、御主」

「ああ。・・・何を血迷っていたんだろうな、俺は。」

その表情からは漲る信念。どう思われようと自分の考えを貫くという。

「言われたよ。間違っていたなら誰も付いて来なかった、てな」

何モノにも縛られず己が信じる道を突き進め。

「ウム大丈夫だナ。 で、御主の身に何があったんだ?」

「・・・いや、ちょっとな。 心の隙に突け込まれた。ただそれだけ」

そのくせライの表情に浮ぶは不敵な笑み。

「決着は俺が付ける。礼も兼ねてな」

「・・・好きにしろ。」

ライは元に 戻らなかった。

昼間起きていてもボーっとし何処か無防備。あの時の笑みがまるで嘘のように。

一見ライは肩車しているルーに操られる人形の感。

これで頭にコントローラーでもあればまさに。

 

そして、その時はやって来た。 白昼夢が如くライの目の前に現れるフェイ。

いや、肩車しているルーや後から着いて来ているはずの仲間がいない。

ただ広い道にたった二人っきり。

これは白昼夢。

「それでもライは笑っているんだね」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「私は死んじゃったのに・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

虚ろなライを脈あリとみたか一気に畳み掛け

「ねえ、私と一緒に逝こ?」

しな垂れ掛かり、隠した得物を

「・・・何者だ、貴様?」

娘の見上げた、ライの表情は虚ろではなく無

「何言ってるの? 私は」

「フェイの声で喋るな。フェイの姿をとるんじゃない」

「ぐっ!!?」

すかさず、バックステップで逃げようとする娘の首を掴み逃さない。

「やってくれ、ルゥっ!!

・・・さてと、アンタにゃタップリと礼をしないとな」

ライの掛声と共に世界は一片、漆黒の世界に。

逃れようと暴れていた娘は不意に動くのを止め、

ライの手から透けるように消えると再び離れた処に登場。

「逃げられないだろう。俺自身に結界が張られたからな。

このまま大人しく二度と俺の目の前に現れないならそれでヨし。

だがまだやるつもりなら・・・」

「・・・一度ならずも二度までも」

娘の声が、姿がフェイのソレから全く別の娘へ変る。その娘に面識はない。

「??? ・・・誰だアンタ?」

娘の顔に浮ぶ怒りと呆れ混じりの表情。

「こんなヤツにそろって二度も黒星を記すとは。」

「いや、マジで誰?」

「・・・「夢使い」」

詳しくはep.1「そして物語は始まった。」参照

「おおっ!! ・・・有名な暗殺者のくせに以外に若いな。」

「・・・先祖代々の家業だ。」

「ふぅん・・・ ルー、もういいぞっ!!」

ライの掛声と共に結界が解けたのが分ったのか、娘は驚愕

「行けよ。今回はあんたにゃ感謝もしてる。 御蔭で別れも言えたしな。

だが二度目はない。次は・・・ヤるっ!」

感慨の表情で一瞥し娘は透け消える。そしてライも現実へ。

「・・・ただいま」

「やっと戻って来たか。で、如何だった?」

「ん、多分二度と来ない」

「逃がしたのかっ!!!?? 御主は馬鹿か?」

今、ルーはライに肩車で肩の上。そこで大絶叫

「ぬはぁっ!!? み、耳が(キ−ン)」

「まあまあ、ライが甘いのはいつもの事だからねぇ」

二人のやり取りで何があったか判って突っ込むカイン,頷くアルシア。

何があったか分らないのに取り敢えず頷いているゴリアテ。

彼の者に人が集まり自ずと笑みが出る、日常の光景が返ってきた。

そして彼の者の心が哀しみに支配されることはない。

やや心残りもありつつも、今度こそ妖精は安心して・・・。それが彼の者の願い。

 

・・・・・・・・・・・・

「・・・そういやルー、どんな服を買ってきた?」

事態が事態だけにあの後から今まで何を着ていたか気にかける事が出来なかった。

今、肩車されているルーは見た目通りの女の子らしく

キャロットパンツにパーカーっぽい服。

肩からぶら下がったソックス幼脚の踵がライの胸板を蹴る。

「ん〜〜、御主の希望通りのモノは買ったぞ。」

・・・・・・・・・・・・・

「このフリフリの服は何?」

「いいじゃないか、少し着ぐらい」

「少しじゃないだろうっ!!半分近くコレじゃないか」

女の子は沢山服を持つもの。ルーは渡された全額使い果たし・・・御愁傷さまで。


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■ EPISODE 03 ■

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