禁忌の書庫
■ トレジャーハンターによる、危険生物報告■
「深き森」…その深部に踏みこむことは、非常な危険を伴う…
しかし反面、その深部には貴重な薬草や有益な生物、
または過去の神話時代にしか存在されないとされているような、秘宝の類もまた多数存在しており、
それらを捜し求めるために、腕に覚えのあるトレジャーハンター達が多数「深き森」の内部に踏み込んでいる。
今回の報告書は、それらのトレジャーハンター達よりもたらされた、比較的信頼の置ける報告をベースにしている。
★ バルーン(風船)★
「深き森」において、独自の進化を遂げたと思われる空中浮揚性の生命体であり、
その外見は海月(クラゲ)を思わせる生物である。
直径2〜3メートル前後の青藍色がかった半透明な傘状の部分と、
その下部より伸ばされている十数本の触手(最大で10メートル前後)から構成されており、
比較的低空(触手が地上に届くか届かないか程度の高度)を風に流されながら遊弋
(ある程度は風に逆らい自由に移動する事も出来るらしい)しながら、
触手に触れた生物を麻痺毒により捕獲して食料としている。
(どの様な原理にて、空中を浮揚しているのか現時点では不明である)
★捕食行動における詳細報告★
何故そのエルフの少女が、その場所にいたのかは不明であった。
少なくとも、この付近に在住する者ならば、この場所がバルーンの行動範囲圏であり
危険な場所であると言う事は、知っているはずであった。
そして、バルーンがそのエルフの少女を獲物として認識して、捕食行動に出た瞬間を報告者のトレジャーハンターは目撃した。
そのエルフの少女は、地面に座りこみ何かを懸命に探しているようであったと報告者はレポートに書きこんでいる…
何を探してるのか?
興味を引かれた報告者が、エルフの少女を観察する…
身長は130センチ前後、細身な身体は体重にして二十数キロ位であろうか?
長い金髪が風にそよぎ、身につけている粗末な衣服から見え隠れする肌や、細く…長く…華奢な手足…
エルフ族の特徴と言える長い耳には、ピアス…そして、珍しい事に眼鏡をその顔にかけていた。
そのようなエルフの少女を観察していた報告者の目に、何かが映し出される…
蒼い空を背景にしていたせいか、彼女はまだ気がついてなかった様である…
だが、報告者はエルフの少女の上方に漂う半透明の青い塊と、
その塊の下から垂れ下がる十数本の触手に気がついた。
報告者がエルフの少女に警告の声を出した時には、すでに遅く…
触手の一本がエルフの少女の身体に触れた、
その瞬間にエルフの少女は雷にでも打たれたかの様にビクッ!と動きを止め、その場に倒れこむ…
そして、倒れこんだエルフの少女の身体の上に、蒼い半透明な塊…バルーンがゆっくりと覆い被さっていった。
報告者は、エルフの少女を助け出そうと、覆い被さるバルーンに近寄った時に恐るべきシーンを目撃した。
半透明のバルーンの傘の中にエルフの少女は、完全に捕り込まれていた…
しかも不幸な事に、捕り込まれたエルフの少女は生きていた…
長い髪が蒼い半透明な傘の中に、乱れて漂っている、そして弱々しく蠢きながら、
恐怖と絶望に満ちた瞳を眼鏡ごしにこちらに向け、助けを求めて見つめていた…
報告者は、なんとかエルフの少女を助け出そうとしたが、傘の周囲に蠢く触手により近寄る事が出来ずに、
比較的至近距離から、ただ傘の中のエルフの少女を見ていることしか出来ずにいた。
捕りこまれて数分後に消化が始まる…
エルフの少女の身につけていた衣服が、溶けるように消え去り肌が露になって行く…
やがて、肌の色が蒼い半透明の傘の中に滲みこんで行くように同化して行く…
その時点でも、エルフの少女は生きていたと思われる…
蒼い半透明の塊の中で、
全裸のエルフの少女が生きながら消化され吸収されて行く恐怖と絶望に、麻痺毒によりほとんど動かない身体を蠢かす…
助けを求めるかのように口がピクピクと動く…
見開かれた瞳から涙が滲み出していくのがわかる…
時間すれば1時間にも満たない出来事であったが、報告者には永遠とも思われるほどの時間であった。
エルフの少女を完全に吸収したバルーンが、風に吹かれるように飛び去ったあとには、
エルフの少女が身につけていたと思しき貴金属の装飾品と眼鏡が僅かに残されているだけであったと言う。
以上が、トレジャーハンターの報告書である…
余談ではあるが、現場に残された装飾品から、エルフの少女の身元が判明した…
同時に、何故このような危険な場所にいたのかも判明した。
里人の証言によると、里の外れに姉妹で棲んでいたエルフの姉であり、病気により高熱を出した妹に薬草を与える為に、
この場所にしか生えない薬草を探しに来たらしいという事が判明した…
なお、高熱を出していた妹エルフは、報告者により保護され、報告者と暮らしていると言う事が、この報告書の唯一の救いである…
文:蛙雷様
2001/10/18
「SHRINE」
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